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アメリカで盗聴行為が厳しく取り締まられるきっかけとなったスキャンダル「盗聴の巣」とは?


電話や通信の内容を勝手に傍受する盗聴行為は法律で禁止されています。アメリカで盗聴行為が厳しく法律で規制されるきっかけになった「盗聴の巣」という巨大盗聴ネットワークがニューヨークの片隅で見つかった事件について、IEEE Spectrumが解説しています。

When New York City Was a Wiretapper’s Dream - IEEE Spectrum
https://spectrum.ieee.org/illegal-wiretapping

360 E. 55th Street, 10022: The Wiretap Nest – BRIAN HOCHMAN
https://brianhochman.wordpress.com/2014/02/03/360-e-55th-street-10022-the-wiretap-nest-2/

1955年2月11日、ニューヨーク市警の刑事がニューヨークの55番通りにあるビルに突入し、その4階にニューヨーク市内にある10万台もの電話につながった、「盗聴の巣」と呼ばれる大がかりな盗聴ネットワークの本拠地を発見しました。このビルは記事作成時点も残存していて、以下がGoogleストリートビューで見たところ。


この「盗聴の巣」では、同時に100本もの電話回線を監視することができたそうで、15カ月の間に5万人から10万人が盗聴の被害に遭ったと考えられています。この盗聴の巣で使われている回線の多くが個人所有のもので、自分の妻を監視したい社交界の名士、厄介な民事訴訟に巻き込まれている金持ち、地域住民の犯罪情報を把握して恐喝のための音声を盗聴したい者などが利用していたことがわかりました。


ほかにも、抗生物質の特許をめぐって泥沼の法廷闘争を繰り広げていた製薬会社のブリストル・マイヤーズE.R.スクイブについて、全くの第三者であるファイザーが盗聴の巣を使って両者の内情をスパイし、盗聴の巣に6万ドル(当時のレートで約2200万円)を支払っていたことがわかりました。

「盗聴の巣」のような大規模な盗聴ネットワークが成立したのは、こうした盗聴の巣をニューヨーク市警も利用していたからといわれており、警察が盗聴の巣から犯罪についての情報を得たり、一部の警察官が盗聴の巣で得た情報を元に犯罪者を恐喝したりするといったケースがあったとのこと。ただし、ベル電話会社(現AT&T)は当時の社内報で、「電話会社の従業員、警察、違法な盗聴者の間で腐敗した同盟があったという報道には根拠がない」と反論しています。

実は1955年当時、盗聴行為は厳密には違法ではありませんでした。1934年に制定された連邦通信法第605条では「通信を傍受して漏らす」ことが禁止されており、傍受そのものは違法となっていませんでした。また、ニューヨーク州の法律でも盗聴は禁止されておらず、当時ニューヨーク州は盗聴に対して最も寛大な州であるといわれていたそうです。


また、「アップルバウム判決」と呼ばれる判例も、ニューヨーク州で盗聴ネットワークが栄えた理由となったといわれています。1949年に離婚訴訟で妻を訴えたビジネスマンのルイ・アップルバウムが、自身の雇った私立探偵に自宅の電話回線を盗聴することを許可しました。離婚訴訟の裁判を担当した判事はこのことを問題視し、アップルバウムと私立探偵の両者を州の盗聴法で起訴しましたが、1950年に控訴裁判所は「電話加入者は自分の家の回線を盗聴する最優先の権利を所有している」として、判決を覆しました。このアップルバウム判決がニューヨーク全体にはびこる巨大な盗聴産業を生んだ一因だと、当時の調査委員会の報告書は述べています。

最終的にこの盗聴の巣に関して、弁護士兼私立探偵のジョン・ブローディ、電気技術者のウォーレン・シャノン、ニューヨークの電話会社に勤めるウォルター・アスマンとカール・ルーの4人が逮捕されました。シャノン、アスマン、ルーの3人は司法取引を行い、作戦の発案者であるブローディに対する証言を行いました。その結果、ブローディは懲役4年の実刑判決を受けました。これは当時の連邦通信法第605条で定められていた刑事罰の2倍に相当します。


この事件の後、ニューヨークで違法に傍受された証拠を法廷に提出あるいは使用することが禁止され、盗聴の法的定義にマイクや録音機によるものも含められました。さらに、令状無しの盗聴はいかなる場合でも違法であると定められました。

ニューヨークに本社を構えるアメリカの週刊誌ニュースウィークは1955年春の「多忙な盗聴者たち」という記事で、「どんな法律が制定されようと、盗聴は今後も続くし増えていくだろうというのが、現時点におけるほとんどの専門家の見方だ」と報じました。まさにニュースウィークの指摘通り、この17年後にワシントンD.C.の民主党本部に盗聴器を仕掛けようとした侵入者が発見され、アメリカ史上初めて大統領を辞任に追い込んだ大スキャンダル「ウォーターゲート事件」が起こっています。

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in メモ, Posted by log1i_yk

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