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ウクライナ情勢について国連の一部局が「戦争」「侵略」という表現を控えるよう職員に指示していたとの報道、国連は「公式方針ではない」


国連グローバル・コミュニケーション局が、ロシアによるウクライナ侵攻について論じる際に「侵略」や「戦争」などの言葉を用いないよう職員に指示していたと、アイルランドの日刊紙・The Irish Timesが報じました。これに対し国連は、指示があったことを認めた上で公式の方針ではないと表明しています。

United Nations advises staff against using ‘war’ or ‘invasion’ regarding Ukraine
https://www.irishtimes.com/news/world/united-nations-advises-staff-against-using-war-or-invasion-regarding-ukraine-1.4821438

Did UN Ban the Word ‘War’ Regarding Russia's Invasion of Ukraine? | Snopes.com
https://www.snopes.com/fact-check/un-ban-word-war-russia-ukraine/

The Irish Timesは2022年3月8日に、「国連グローバル・コミュニケーション局が3月7日に『ウクライナ危機に関するコミュニケーションガイドライン』という件名の電子メールを職員に送り、この状況を戦争と表現しないことや、個人や公式のSNSアカウントやサイトにウクライナの国旗をつけないことを指示しました」と、国連が安保理の常任理事国の1つであるロシアに配慮した言葉遣いを職員に指示していたことが分かったと報じました。

伝えられるところによると、通知の中では「ウクライナ情勢について現時点で使わない言葉」として「戦争(war)」や「侵略(invasion)」が例示されており、これらの言葉を使うことが決議されるまでは「紛争(conflict)」や「軍事攻勢(military offensive)」と表現するよう通達されていたとのことです。


ロシア政府は、今回のウクライナ侵攻を同国内における平和維持を目的とした特殊作戦と位置づけており、ウクライナとの戦争やウクライナへの侵略だとする報道やSNSの投稿はフェイクニュースであるとして厳しく取り締まるとの方針を打ち出しています。

The Irish Timesの取材に対し、国連の広報担当者であるStéphane Dujarric氏は、「メールの正当性に異論はありませんが、国連職員に対する公式の方針とは考えられません」と述べて、メールが送られた事実を認めた上で国連全体としての方針であるとの見方を否定しました。

ファクトチェックサイトのSnopesは、Dujarric氏への問い合わせ結果や、国連政治・平和構築担当事務次長であるローズマリー・A・ディカルロ氏がロシアによるウクライナ侵攻を「この戦争(This war)」と表現していることなどを理由に、当初The Irish Timesの報道を誤報と位置づけていました。

Nearly two weeks on, it is painfully clear that those suffering the most after Russia's invasion of #Ukraine are civilians - killed, wounded, displaced. This war is senseless. We are ready to support all good-faith efforts at negotiation to end the bloodshed.

— Rosemary A. DiCarlo (@DicarloRosemary)


こうした疑念を受けて、The Irish Timesの記者であるナオミ・オレアリー氏はSnopesに連絡し、問題のメールの全文を開示しました。

UN staff were instructed not to use "war" or "invasion" and to use "conflict" or "military offensive" instead, according to an internal email seen by the Irish Times.
It comes as the Kremlin cracks down on the use of the same words within Russia https://t.co/o3tseMf6Mh pic.twitter.com/rylBseiKo8

— Naomi O'Leary (@NaomiOhReally)


国連グローバル・コミュニケーション局地域情報センター所長であるSherri Aldis氏が職員に送信したとされるメールには、The Irish Timesが報じた前述の言い換えのほか以下のような言葉遣いが例として示されています。
・ウクライナを指す場合は「the Ukraine」ではなく「Ukraine」を使うこと。
・同国の首都を英語で記述する場合は「Kiev(キエフ)」ではなく「Kyiv(キーウ)」とつづること。
・同国のウォロディミル・ゼレンスキー大統領の姓は「Zelensky」ではなく「Zelenskyy」とすること。


2006年から2009年まで駐ウクライナ米国大使を務めたウィリアム・テイラー氏によると、「Ukraine」はウクライナが単一の国であることを前提とした用法なのに対し、「the Ukraine」はソ連時代にロシア人が使っていた呼称とのことです。

また、「Kiev(キエフ)はロシア語の発音に沿ったつづりであるのに対し、「Kyiv(キーウ)」はウクライナ語の発音に基づいた表記です。ゼレンスキー大統領の姓も同様に、「Zelensky」はロシア語に近く、「Zelenskyy」はウクライナ語に近い表現とのこと。なお、英語版Wikipediaはウクライナの首都および首長をいずれもウクライナ語表記の「Kyiv」「Zelenskyy」に統一しています。

こうした点を踏まえると、国連のAldis所長が職員に送ったメールは、ウクライナ侵攻の扱いについてはかなりロシア政府の公式見解に近いものの、それ以外の部分ではウクライナ側の表現に近い立場をとっていることから、全体としては両国との間の中立性を念頭に置いた指示であることがうかがえます。


国連の広報担当者のDujarric氏は、Aldis所長のメールについて「ソーシャルメディアで発信する内容について、国際機関の公務員としての責任を喚起するメールが、全職員に送られました。こうしたメールは、今回のみならず世界的な危機が発生するたびに職員に送られている定期的なメールです」と説明しています。

最終的に、Snopesは「国連が職員らに戦争や侵略という言葉を使わないよう指示している」とのThe Irish Timesの報道を「真実と虚偽の両方の重要な要素を持っている」と判定しました。

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in メモ, Posted by log1l_ks

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