サイエンス

南極大陸を研究者・観光客が訪れると融雪量が1人あたり83トン増える


南極には研究者だけではなく多くの観光客も訪れており、その数は2019年~2020年シーズンで7万4000人以上です。チリ・サンチアゴ大学などの研究者グループの調査により、南極訪問にあたって利用される船舶や飛行機、各国の南極基地で用いられるディーゼル発電機から生み出されるブラックカーボン(黒色炭素)により、訪問者の多い地域では毎夏、最大で融雪量が23mm多いことがわかりました。

Black carbon footprint of human presence in Antarctica | Nature Communications
https://doi.org/10.1038/s41467-022-28560-w


Black carbon pollution from tourism and research increasing Antarctic snowmelt, study says | Antarctica | The Guardian
https://www.theguardian.com/world/2022/feb/22/black-carbon-pollution-from-tourism-and-research-increasing-antarctic-snowmelt-study-says

研究者グループは南極大陸北端・キングジョージ島(南緯62度)からエルズワース山脈(南緯79度)に至る約2000kmの横断面の28カ所で、夏に4年連続で採取された試料のブラックカーボン濃度を測定しました。以下の地図で印をつけたのがエルズワース山脈。


その結果、各国の南極基地や海岸にある人気の観光地では、他の場所に比べてブラックカーボン濃度が高かったことがわかりました。ブラックカーボン濃度が高い地域では放射強制力により融雪が加速し、毎夏の積雪量の減少が最大23mmに到達していました。要するに、雪の上に灰や炭をまいておくと太陽光を吸収してよく雪が溶ける、という現象が南極でも起きているというわけで、その量は1000トン近くに達し、南極訪問者1人につき83トンに相当するとのこと。


ブラックカーボンはディーゼルエンジンや石炭の燃焼、山火事、家庭で木を燃やしたときなどに発生するもので、北極やヒマラヤ、アンデス、さらに南極の氷床コアといった遠隔地の試料からも低濃度ながら確認されています。

氷床コアの調査により、南極の雪解け水から抽出したブラックカーボンの単位質量あたりの濃度は常に1ng/gで、北極と比べて常に1ケタ低いことがわかっています。南極大陸の上空では、南米やオーストラリアの山火事で発生した煙や、オーストラリア中部・パタゴニア南部由来のちりが確認されていますが、ブラックカーボンがエアロゾルとして大量に運ばれてくることはないことがシミュレーションで確認されており、パーマー基地、マクマードドライバレー野外観測所、アムンゼン・スコット基地の周辺の雪は他の地点よりブラックカーボン含有量が多いとのこと。

つまり、南極のブラックカーボン濃度は人間の活動の活発化に合わせて高まったと考えられます。南極観測実施責任者評議会と南極条約事務局のデータによると、南極条約の地域内で76の研究施設が積極的に利用されており、滞在可能な人数は約5500人。また、観光ツアーも行われていて、国際南極ツアーオペレーター協会によると、2019年~2020年シーズンの観光客は7万4000人。これは前シーズン比32%増で、10年前と比べると2倍の数字だそうです。

以下は論文中で示されていた、エルズワース山脈ユニオン氷河の滑走路に着陸中のC-130輸送機。


研究に関与しなかったモナッシュ大学のアンドリュー・マッキントッシュ教授はThe Guardianに対し、「南極の融雪の2大プロセスは、棚氷を下から溶かす海が暖まることと、上から氷を溶かす表面気温の上昇です。数十年から数世紀先、さらに大きな表面の温暖化が起きたとき、増えたブラックカーボンが融雪の影響を拡大させることになります」と述べています。

研究を行ったサンチアゴ大学のラウル・コルデロ博士は、ブラックカーボンの影響による融雪量は地球温暖化で失われたものに比べれば少ないものの、南極での研究を再生可能エネルギーを用いたものに移行する必要性を浮き彫りにするものであると指摘。好例として、風力エネルギーを用いているベルギーのプリンセス・エリザベス基地を挙げ、「南極大陸は、多かれ少なかれ、汚染されていない最後の大陸です。我々は、そのままを保つように努めるべきだと思います」と語りました。

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in サイエンス, Posted by logc_nt

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