サイエンス

脊髄損傷で体がマヒした3人の男性が脊髄に埋め込まれた電極で再び歩けるように


事故による脊髄損傷で下半身不随となった3人の男性が、「脊髄に電極を埋め込んで筋肉を動かすための電気刺激を送る」という手法により、再び歩けるようになったという研究結果が発表されました。被験者3人ともが電極を埋め込む手術からわずか数時間で立ちあがることができるようになった上、ある被験者は屋外を歩いたり、立ったまま飲食したりできるようになったとのことです。

Activity-dependent spinal cord neuromodulation rapidly restores trunk and leg motor functions after complete paralysis | Nature Medicine
https://www.nature.com/articles/s41591-021-01663-5


New implant offers promise for the paralyzed - EPFL
https://news.epfl.ch/news/new-implant-offers-promise-for-the-paralyzed/

Paralysed man walks again thanks to electrodes in his spine | Science | The Guardian
https://www.theguardian.com/science/2022/feb/07/paralysed-man-walks-again-thanks-to-electrodes-in-his-spine

Spinal Implant Enables Paralyzed Man With Severed Spine to Walk Again
https://www.sciencealert.com/implant-allows-man-with-severed-spine-to-walk-again

3 paralyzed men can walk again after getting electrode implant | Live Science
https://www.livescience.com/spinal-implant-for-walking-after-paralysis

チューリッヒ工科大学の神経科学者であるグレゴワール・クルティーヌ教授と、ローザンヌ大学病院の神経外科医であるジョセリン・ブロッホ教授が率いる研究チームは、人工知能ソフトウェアで制御される脊髄埋め込み型の電気刺激システムを開発しました。このシステムに用いられるアルゴリズムは人間の体内で生じる電気刺激を模倣するように設計され、脊髄に直接配置することで特定の筋肉群を制御するニューロンを調節するとのこと。

研究チームが開発したデバイスの詳細や、実際に下半身不随だった男性が脊髄に埋め込んだ電極を用いて歩く様子は、以下のムービーを見ると確認できます。

New implant offers promise for the paralyzed - YouTube


左側の女性がブロッホ教授、右側の男性がクルティーヌ教授です。2人が率いる研究チームは、2018年に開発したデバイスをさらに改善し、完全な運動感覚マヒを患う人を対象にしたより精密なテクノロジーを開発しました。


研究チームが開発した電極は長さ約6cmで、これまでのものより幅も長さも大きくなっており、足の筋肉だけでなく体幹の筋肉まで活性化するため、幅広い領域を刺激することが可能とのこと。


電気刺激を制御する人工知能ソフトウェアは、健康な人の脳によって自然に活性化される刺激パターンを模倣するように設計されています。


患者が携行できるミニコンピューターが電極に信号を送り、患者の動きと刺激を同期させているとクルティーヌ教授は説明しています。


このデバイスは非常に精度が高い上、患者は手術後わずか数時間で歩き始めることが可能になるとのこと。


2017年にバイク事故を起こしたミシェル・ロカッティさんは、研究チームが開発したデバイスを脊髄に埋め込んだ患者の1人。


事故後のロカッティさんは脊髄を完全に損傷しており、治療を受ける前は全く下半身を動かせない状態でした。


しかし、下半身不随となった事実を受け入れてからも、肉体をベストな状態で維持するために可能な限りのリハビリを行ってきたとのこと。


そして今回、研究チームが開発した電極を脊髄に埋め込んだことで、歩行器を使いながら屋外で歩くリハビリを行えるほどになりました。


リハビリは研究者や医療関係者と共に行っています。タブレットをタップすることで、ロカッティさんの腹部に装着されたペースメーカーのような装置と通信し、脊髄に埋め込まれた電極がニューロンに電気信号を送ることが可能。


ロカッティさんはよりスムーズな歩行を目指して1日2時間ほど歩くリハビリを重ねた結果、手術から4カ月後には1kmの距離を歩けるようになったとのこと。


歩けるようになったことも非常に重要ですが、単に「立つことができる」というだけで、日常生活には大きなメリットがあります。


今のロカッティさんは、屋外で立ったまま飲食し、友人たちと目線を合わせて会話できます。松葉づえを突いて、立ったままシャワーを浴びることもできるとロカッティさんは語りました。


また、ロカッティさん以外の2人は自力でわずかながら下半身の筋肉を動かすことができるようになったそうで、デバイスの助けを借りて泳いだり、自転車のペダルをこいだり、体幹運動でバランスを取ったりすることが可能になったと研究チームは述べています。


今回の被験者はいずれも男性であったほか、下半身不随となってから1年以上が経過していました。研究チームは今後の研究で、女性でも同様の効果が得られることを確認するほか、回復の可能性がより高い事故直後の人々でもデバイスをテストしたいとのこと。

また、電極に信号を送るコンピューターをより小型化し、患者に埋め込んでスマートフォン経由で制御可能にする予定とも研究チームは述べています。2022年中にはコンピューターの小型化に成功する見込みだそうで、研究チームはアメリカとヨーロッパで50~100人の被験者が参加する大規模試験を計画していると述べました。

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in サイエンス,   動画, Posted by log1h_ik

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