インタビュー

「見終わった後に嫌な気持ちになるのがいいホラー映画」と語る映画『整形水』のチョ・ギョンフン監督にインタビュー


誰もが美しくなれるという「奇跡の整形水」を手に入れ、美に取りつかれていく女性の姿を描くアニメ映画『整形水』が2021年9月23日(木)から公開されています。容姿の美醜で人を評価する外見至上主義や、世界的に問題となっているネット上の誹謗中傷といった現代社会の闇を描いた本作について、チョ・ギョンフン監督にインタビューを行いました。

映画『整形水』公式サイト
https://seikeisui.jp/

GIGAZINE(以下、G):
監督を引き受けた経緯を簡潔に教えてください。

チョ・ギョンフン監督:
もともとは、共同制作会社であるSS Animent社が、「奇々怪々」という原作をオムニバスホラーのTVシリーズにしようとして、原作者と契約を結んでいたんです。そのころ、中国で「奇々怪々」の中の1作品である「整形水」の人気が高まったため、「奇々怪々」全体ではなく「整形水」だけ分離する形で長編アニメにしようという話が持ち上がりました。このころ、私が所属するStudio Animalにも外注として声をかけていただきました。ところが、中国の会社が出資から手を引くことになって、制作は韓国国内で行うことになり、Studio Animalが共同制作として出資もすることになったんです。そこで私も共同プロデューサーとして制作に加わりましたが、中国の会社が離脱したことで制作費が集まらなくなり、さらに、韓国ではホラーやスリラーのアニメを手がける監督が見つからず、ずっと監督のいない状態が続いていました。そこで、プロデューサーの後押しもあり、私が監督を引き受けることになりました。

G:
なんと……。

チョ・ギョンフン監督:
私自身は制作の序盤から作品に携わっており、ホラー映画マニアでもあり(笑)、原作へのリスペクトもあったので、「私がやりますよ」と。SS Animentの助けも借りて20年ぶりに映画を撮ることになりましたが、長編は初の経験です。

主人公は外見にコンプレックスを持つメイクアップアーティスト・イェジ。


話題の“整形水”を手に入れ、完璧な美を手に入れたイェジは「ソレ」として新しい人生を満喫しますが……。


G:
監督はどういったホラー映画がお好きなのですか?

チョ・ギョンフン監督:
ホラー映画は「ほぼすべて見ている」と言っていいほど見ています。見た後に、嫌な気持ちが残るような作品が大好きで。

G:
(笑)

チョ・ギョンフン監督:
最近の作品だと『へレディタリー/継承』や『ミッドサマー』、過去の作品であれば『サンタ・サングレ/聖なる血』などが好きです。リアルさと幻想ファンタジーが入り交じっているような作品がいいですね。

G:
見終わった後に残る「嫌な気持ち」というのは「不愉快な気分」ということでしょうか。それとも謎が残ってモヤモヤするような感覚ですか?

チョ・ギョンフン監督:
そうですね……私は「ミステリー」と「ホラー」はまったく別のものだと考えています。ホラー映画は、現代に生きる我々の姿を徹底的に観察し、ありのままの姿を描写しているのではないかと思うんです。人間の本質的な汚い部分、残酷な部分、負の部分を引き出して描写し、我々と向き合わせるものだと。なので、見終えたときにモヤモヤした気持ちになったり、残っている印象が大きければ大きいほど、自分たちが生きているということを鮮烈に感じられて、人生や生き方を振り返ることができるのではないだろうかと。

G:
おお、なるほど。

チョ・ギョンフン監督:
ホラー要素が強く、ネガティブな部分がたくさん描かれている作品は、見終わったとき、そういう嫌な気持ちが無意識に、しこりのように残ると思います。だから、見終わったあと、モヤモヤしたり嫌な気持ちになっているのがいいホラー映画なんだと思うんです。この「整形水」も、そういった要素を取り入れたいと思って作りました。

“奇跡の整形水”は、イェジ(ソレ)に何をもたらすのか……。


G:
資料によると、監督のアニメ制作のキャリアは、ハンギョレ文化センターでアニメーション講座を学び短編アニメを作ったところから始まっているとのことですが、そもそも「アニメを学びたい」と思ったきっかけは何だったのですか?

チョ・ギョンフン監督:
実は学生時代、高校生ぐらいまではゲームが大好きで、ゲームばっかりして生きてきました(笑)。そんな自分が変わるきっかけになったのは高校2年生の時に、ディズニー映画の『人魚姫』を見たことでした。

G:
ほうほう。

チョ・ギョンフン監督:
あまりにも面白くてショックを受け、アニメにのめり込んでいきました。その後は、日本で1980年代から1990年代に作られたアニメをたくさん見ました。日本が経済的にも発展し、文化も豊かな時代でしたよね。「名作」と呼ばれるような作品を見て、「アニメはこんなにも魅力的なんだ、壮大なものなんだ」と知り、自分でもアニメを作ってみたいと思うようになりました。

G:
監督が「最高のアニメーション大国である日本で公開されて光栄」とコメントを寄せていたのは、そういった流れもあったのですね。今回、『整形水』は3Dで制作されていますが、なにか、2Dではできない表現を求めた部分などはあるのでしょうか。

チョ・ギョンフン監督:
予算の問題もありますが(笑)、本作は登場人物が少なく、ファンタジー的な見せ方や、アニメーションとしてアクションのことを考えると、3Dの方がやりやすいのではないかと思いました。また、2Dでやるなら、日本のアニメと同じようにリミテッドアニメーションでということになるのですが、ホラー作品として違和感を出したり、窮屈な思い、不安な思いをさせるにあたっては、2Dよりも、3Dの滑らかな動きやリアルな雰囲気が適しているのではないかという考えもありました。日本でも、アニメ制作会社のorangeさんなどが3Dアニメを作っておられるので、我々もやってみようということで挑戦しましたが、なんせ初めてのことでしたから、かなりの試行錯誤となりました。

G:
韓国の映画業界は非常にレベルが高いと感じるのですが、業界内にいて、なにかその理由や原因となるものは感じますか?

チョ・ギョンフン監督:
日本の方から、映画のレベルが高いと言ってもらえるのはうれしいことですが、私からすれば、日本のアニメのレベルも非常に高いと感じています。つまり、お互いにいいものだけを選んで見ているからそう見えているだけで、過大評価されているだけなのではないか、と(笑)

G:
(笑)

チョ・ギョンフン監督:
でも、韓国の映画業界にいいところがあるというのは事実だと思います。それは作り手、クリエイターのエネルギーをそのまま映画に反映しようとする動きがあるという点です。

G:
おお。

チョ・ギョンフン監督:
「世の中がこういうものを求めているから作ろう」ではなく、作り手の本質的な「作りたい」という思いを反映している作品が多いのではないでしょうか。そのためにクリエイターたちは、世の中の資本や、時には政府とも熾烈な戦いを繰り広げてきました。その中で、自分たちが作りたいものを貫き、作ったものを観客に見てもらおうという情熱が効を奏して、大きな力になっているのではないかと思います。

G:
なるほど。本作で原作となった「整形水」は10話ほどのエピソードですが、映画という形にするときに苦労はありませんでしたか?

チョ・ギョンフン監督:
むしろ、私は原作を見たときに、これこそ映画化にぴったりな分量だと思ったんです。核心となるモチーフがあり、事件の展開は映画の尺である90分から110分ぐらいになりそうだと。骨組みを活かして肉付けすれば完成度も高められますから、本当にいいあんばい、適量でした。シナリオもすぐに書き上がって、ストーリーボードも早く完成しました。

G:
おお、制作自体は順調だったんですね。

チョ・ギョンフン監督:
大変だったのは作画作業の部分ですね。作画に取りかかろうとした時点で予算に限界があり、それ以上の制作費が集まらずに大変でした。監督としては「ここはこう撮りたい」という目標、基準がありますが、制限によって諦めざるを得ない部分もあったのは残念でした。スタッフ補充も諸般の事情でかなわなかったのも大変だった点ですね。

G:
作品はこうして無事に完成しているので、あとはその情熱を映画館で受け取ってもらえればというところですね。本日はお話、ありがとうございました。

映画『整形水』は2021年9月23日(木)から公開中です。

映画『整形水』本予告 9/23(木・祝)公開 - YouTube

©2020 SS Animent Inc. & Studio Animal &SBA. All rights reserved.

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
アニメ映画「映画大好きポンポさん」平尾隆之監督インタビュー、「マイノリティがマジョリティに一矢報いる」作品をいかにマジョリティにも伝わるように作ったか? - GIGAZINE

アニメ映画『100日間生きたワニ』上田慎一郎監督&ふくだみゆき監督インタビュー、セリフ音声をもとに尺を変える作り方で邦画っぽい独特の間合いに - GIGAZINE

アニメ『NIGHT HEAD 2041』平川孝充監督インタビュー、独特の雰囲気をどのようにして再現していったのか? - GIGAZINE

真島ヒロの人気漫画をアニメ化した『EDENS ZERO』の石平信司総監督&鈴木勇士監督にインタビュー - GIGAZINE

アニメ映画『漁港の肉子ちゃん』の渡辺歩監督にインタビュー、肉子ちゃんはあえてマンガチックでファンタジーな存在に - GIGAZINE

in インタビュー,   動画,   映画,   アニメ, Posted by logc_nt

You can read the machine translated English article here.