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生活習慣だけでなく「どこに住んでいるのか」が寿命に大きな影響を与えるとの研究結果


これまでの研究から、睡眠不足運動不足喫煙といったさまざまな要因が死亡リスクの上昇に関連していることが知られており、長生きするために日々の運動や食生活に気を配っている人も多いはず。ところが、数百万人の高齢者を対象にした縦断研究により、どのように生活するのかだけでなく「どこに住んでいるのか」が寿命に大きな影響を与えることがわかりました。

Place-Based Drivers of Mortality: Evidence from Migration - American Economic Association
https://www.aeaweb.org/articles?id=10.1257/aer.20190825

Comparing seniors who relocate long-distance shows where you live affects your longevity | MIT News | Massachusetts Institute of Technology
https://news.mit.edu/2021/seniors-relocate-longevity-0901

スタンフォード大学とマサチューセッツ工科大学の研究チームは、人が長年にわたり築いてきた生活習慣とは別に「住んでいる場所」がどれほど寿命に影響を及ぼすのかを調べるため、アメリカにおける高齢者・障害者向けの公的医療保険制度であるメディケアのデータを利用した縦断研究を実施。アメリカに住む65歳~99歳の高齢者630万人を対象に、1999年~2014年にかけて転居の履歴や死亡率を調査しました。

アメリカ合衆国国勢調査局はアメリカ全土を700近い「Commuting zone(通勤ゾーン)」に区分しており、研究チームは調査対象のうち約200万人が、15年間の調査期間中に特定の通勤ゾーンから別の通勤ゾーンへと転居したと述べています。

研究チームが着目したのは、元々は同じ場所に住んでいた人々がそれぞれ別の場所に引っ越した場合、死亡率はどれだけ変化するのかという点です。論文の共著者であり、マサチューセッツ工科大学の経済学教授を務めるエイミー・フィンケルスタイン氏は、「このアイデアは、たとえば元々ボストンに住んでいた2人の高齢者のうち片方が死亡率の低いミネアポリスへ、もう片方が死亡率の高いヒューストンへ引っ越してから、それぞれの寿命を比べるというものです」と説明しています。


もちろん、それぞれの高齢者は引っ越す前から健康状態に差がありますが、メディケアには受給者が請求した詳細な医療費データが含まれています。研究チームはこのデータを基にして、高齢者が抱える肺がん・糖尿病・うつ病など27の異なる病気や健康状態を特定し、標準の死亡リスクモデルに適用して高齢者が引っ越した時の健康状態を分類しました。また、引っ越し先の住民の生活習慣に基づく健康資本レベルや、引っ越しに伴う健康状態の変化なども考慮して調整を行い、引っ越しが寿命に与える影響を推定したとのこと。

分析の結果、ニューヨーク市やサンフランシスコ、マイアミといった東海岸や西海岸の大都市圏が、そこに引っ越してくる高齢者の寿命にプラスの効果を与えることがわかりました。その他にも、シカゴをはじめとする中西部に位置する一部の大都市圏も、高齢者の寿命にプラスの影響を及ぼしたと研究チームは報告しています。


一方、アラバマ州やアーカンソー州、ルイジアナ州、フロリダ州北部といったアメリカ南部の通勤ゾーンは、そこに引っ越してくる高齢者の寿命にマイナスの影響を及ぼしました。他にもテキサス州、オクラホマ州、ニューメキシコ州、アリゾナ州といったアメリカ南西部の多くの通勤ゾーンでは、引っ越してくる高齢者の寿命が短くなる傾向がみられました。

研究チームの分析によると、65歳の高齢者が下位10%に位置する通勤ゾーンから上位10%の通勤ゾーンに引っ越した場合、平均寿命は約1.1年長くなるとのこと。また、アメリカ全体の寿命に及ぼす「住んでいる場所」の影響は約15%と推定されているそうで、フィルケンスタイン氏は「健康資本は重要ですが、場所の影響も重要です」と述べています。

今回の研究には関与していないダートマス大学の経済学教授ジョナサン・スキナー氏は、「これはある場所から別の場所に引っ越した高齢者を対象とすることで、場所が及ぼす効果の問題に重要な示唆を与えています」とコメント。新しく住み始めた場所が個人の健康に及ぼす効果を特定した今回の研究は、今後も他の研究者によって引用され、今後数年間の健康政策に影響を与えるだろうと主張しました。


なお、今回の研究では必ずしも「平均寿命の長い場所に引っ越すと高齢者の寿命にプラスの効果が出る」というわけではなく、その逆も当てはまらないことが確認されました。たとえば、ノースカロライナ州シャーロットに引っ越した高齢者は寿命が長くなりましたが、シャーロットにおける平均寿命は高くありません。また、ニューメキシコ州サンタフェなどの地域では、地域全体の平均寿命は高いものの、そこに引っ越してきた高齢者の寿命にはマイナスの影響が及んだそうです。

平均寿命と高齢者の寿命に対する影響が相関しない理由としては、「地域全体に喫煙が普及しているため平均寿命は低いが、その他の要因によって平均的な健康状態の人々は長生きできる」といったケースが挙げられます。フィルケンスタイン氏は、次のステップは高齢者の寿命に影響を及ぼす要因を特定することだとしながらも、「ノースカロライナ州シャーロットで何かが違いを生むことはわかっていますが、何が起きているのかはまだわかりません」と述べ、今後の課題だと認めています。

研究チームは場所による違いが寿命に影響を与える可能性を調査するため、「医師」や「鎮痛薬であるオピオイドの処方」などの医療行為に関する研究に取り組んでいるとのこと。また、医療体制の他にも気候・環境汚染・犯罪・交通状況などが高齢者の寿命に影響を及ぼす可能性があるとのことで、「私たちが今しなければならないのは、『場所』というブラックボックスに入り、長寿にとって重要なのは何なのかを理解することです」とフィルケンスタイン氏は述べました。

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in メモ, Posted by log1h_ik

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