乗り物

なぜゼネラルモーターズは人を死に至らしめる鉛をガソリンに入れたのか?


1900年代、人体にとって有害であるはずの鉛が、自動車会社のゼネラルモーターズ(GM)主導でガソリンに混入されました。当時から鉛は人を死に至らしめると認識されており、実際に鉛入りのガソリンにより多くの健康被害が報告されました。それにもかかわらずなぜGMは鉛を混入させ続けたのか、危険性が指摘されてはいなかったのかなどの疑問について、ジャーナリストのキャット・エシュナー氏が解説しています。

Leaded Gas Was a Known Poison the Day It Was Invented | Smart News | Smithsonian Magazine
https://www.smithsonianmag.com/smart-news/leaded-gas-poison-invented-180961368/


Looney Gas and Lead Poisoning: A Short, Sad History | WIRED
https://www.wired.com/2013/01/looney-gas-and-lead-poisoning-a-short-sad-history/

1900年代、自動車のエンジンが独特な打撃音と衝撃を発する「ノッキング」を防止する方法について、自動車会社が研究を行っていました。GMの子会社であったデイトン・リサーチ・ラボラトリーでエンジニアを務めていたトマス・ミジリー氏は、溶けたバターや酢酸エチル塩化アルミニウムなどあらゆる物質をガソリンに混ぜてノッキング防止の効果がないか試した結果、最も有効な物質はエタノールであると考えました。しかし、エタノールに関してGMが特許を取ることができず、石油会社が「エタノールはエンジンの制御に悪影響を及ぼす」などと認識していたことから、エタノールをノッキング防止剤として用いる試みは失敗しました。

1921年、ミジリー氏がノッキングを防止する策として、ガソリンにテトラエチル鉛(TEL)を混ぜる手法を発見しました。TELはエタノールと同じくらいノッキング防止に効果があったのですが、当時から有毒物質としてその危険性が認知されていました。化学メーカーのデュポンなどもTELについて「甘い匂いの無色の液体であり、皮膚から吸収されるとすぐに鉛中毒を引き起こす、非常に有毒な物質」と記していました。

危険性が知られていたため、デイトン・リサーチ・ラボラトリーはTELを「エチル」と呼んで、新開発されたガソリンに鉛が添加されていることを報告書や広告に記さなかったとのこと。また新しいガソリンについての特許を取得したGMは、ガソリンにTELが使われていることを知りつつも、ノッキングを防止するほかの策がなかったことから、1923年2月にTEL入りガソリンのの販売を開始。しかし、この時ミジリー氏は重度の鉛中毒で病床に伏していました。

by Marcus Ramberg

TEL入りのガソリンが市場に出回ったことで、鉛中毒による多数の健康被害が報告されることとなりました。翌年の1924年にはTEL入りガソリンを製造する石油精製所で働く32人の労働者がTELへの曝露(ばくろ)で入院、うち5人の労働者が死亡。この際にはアメリカ公衆衛生局や保健当局が死亡を調査し、GMにTELに関する報告を要求しました。

政府による調査が続けられたものの、1926年には公衆衛生局が「製造プロセス中に労働者が保護されている限り、TELによる危険はなく、TELを直ちに販売禁止にする理由もない」と結論付けています。その後もTEL入りガソリンは販売され続けましたが、1970年半ばにようやくTEL入りガソリンの段階的廃止が決定。アメリカは1986年にガソリン添加剤としてのTELの使用を正式に禁止しました。


禁止されるまでに、TELにより非常に多くの鉛が土壌に堆積。約6800万人が危険な量の鉛を吸収し、毎年約5000人のアメリカ人が鉛による誘発性心臓病で死亡したと推定されています。エシュナー氏は「子どもは特に鉛の影響を受けやすく、現代の環境にも鉛はまだ存在しています。次の世代に残すことができない問題です」と記しています。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
古代の人々が「鉛やカドミウムなどの重金属で汚染された海産物」を食べていたことが残飯の骨から判明 - GIGAZINE

鉛中毒を引き起こす「きかんしゃトーマス」の中国製玩具がまだ大量に出回っているかもしれない - GIGAZINE

自らの発明により命を落とすこととなった10人の偉大な発明家 - GIGAZINE

「アメリカで最も優れた若き科学者」に選ばれた11歳の少女は水の鉛汚染を簡単に検知できるキットを開発 - GIGAZINE

電子タバコの蒸気は相当量のレベルの鉛・ニッケル・クロムを含有、金属コイルの加熱が原因と研究者が指摘 - GIGAZINE

in 乗り物, Posted by log1p_kr

You can read the machine translated English article here.