サイエンス

遺伝子編集技術「CRISPR-Cas9」の静脈注射による世界初の治療が難病を改善


遺伝子配列の特徴を利用したゲノム編集技術「CRISPR-Cas9」は、がん細胞だけを殺す新種の免疫細胞を作ったり遺伝性眼疾患を治療する研究に役立ったりと、さまざまな研究・医療技術に貢献を果たしています。そんなCRISPR-Cas9による深刻な遺伝性疾患の治療に臨んだ男性の事例を、アメリカ公共放送のナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)が紹介しています。

CRISPR-Cas9 In Vivo Gene Editing for Transthyretin Amyloidosis | NEJM
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2107454

CRISPR Gene-Editing Breakthrough Opens Door To Treating Broad Array Of Diseases : Shots - Health News : NPR
https://www.npr.org/sections/health-shots/2021/06/26/1009817539/he-inherited-a-devastating-disease-a-crispr-gene-editing-breakthrough-stopped-it

記事作成時点で65歳のパトリック・ドハティ氏は、ヒマラヤ山脈でトレッキングを行ったりスペインの山でハイキングを行ったりと、非常に活動的な生活を送ってきました。しかし、2020年頃から足の指の間に針で刺されるような痛みを感じ始めたとのこと。だんだん息切れも激しくなってきたことから病院で検査を行ったところ、認知機能障害や運動障害を引き起こす遺伝性疾患のトランスサイレチンアミロイドーシスを発症していることが判明します。

変性したタンパク質が引き起こすこの疾患は手足や心臓などに異常をきたすもので、発症者の約3分の1は親からの遺伝だとされています。ドハティ氏の父親もトランスサイレチンアミロイドーシスで命を落としており、ドハティ氏は父親の姿を見て「非常に急速に悪化するもので、ただただ恐ろしい」という印象を抱いたとのこと。

ある日、ドハティ氏は医者がCRISPR-Cas9によりトランスサイレチンアミロイドーシスを治療する新しい方法を試そうとしていることを知った時、興奮してその機会に飛びついたと話しています。ドハティ氏が参加した一連の治療は、これまで行われたCRISPR-Cas9の活用法である「細胞を取り出して編集し、細胞に再注入する」などといったものではなく、編集されたCRISPR-Cas9のNTLA-2001を静脈に注射し、肝臓が生成するトランスサイレチン(TTR)のうち、病原性を有するTTR遺伝子変異を編集することでTTRの量を減らして治療するものです。


この治療を受けたドハティ氏ほか5人が4週間の経過観察を終えたところ、体重1kgあたり0.1mgのNTLA-2001を注入された患者はTTRの量が平均52%減少し、体重1kgあたり0.3mgのNTLA-2001を注入された患者はTTRの量が平均87%減少したことが分かりました。対照的に、長期の治療を必要とする既存の治療法によるTTRの減少率は約80%だとのこと。

ドハティ氏は治療から数週間以内に気分がよくなり始め、それ以来数週間かけて体調が改善していると話しています。治療を主導したジョージ・ヤンコプロス医師は「この治療は壊滅的な病気を抱える人々にとっても、最先端の研究と技術を通じて遺伝学に基づく医薬品の可能性を見いだすため取り組んでいる科学コミュニティ全体にとっても、刺激的な最初のデータだ」と述べています。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1p_kr

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