生き物

健康な脳でいるための鍵は「ミトコンドリア」か


細胞の重要な構成要素の1つ・ミトコンドリアは、「生体のエネルギー通貨」と呼ばれるアデノシン三リン酸(ATP)を生産する機能を担っています。そのため、ミトコンドリアの損傷や機能不全があると、ATP生産が滞り、脳が正常に動作するためのエネルギーが不足することになります。

しかし、この他にも、ミトコンドリアが脳に働きかけるような機能があることがわかってきています。

Could mitochondria be the key to a healthy brain?
https://doi.org/10.1146/knowable-061621-1


1960年代、ミトコンドリアが独自のDNAを持っていることが発見されました。1970年代、イェール大学の博士課程に在籍していたダグラス・ウォレス氏は、ミトコンドリアがATP生産機能を持つことから、ミトコンドリアDNAに変異が生じると病気になるのではないかと考えました。ウォレス氏によると「当時は誰も合理的とは思わなかった」というこの考え方は、1988年にウォレス氏らの研究チームによりレーベル遺伝性視神経症とミトコンドリアDNAの変異の関連性が証明されたことで真剣に受け止められるようになったとのこと。

以後、何十もの疾患が、ミトコンドリアDNAやミトコンドリアの機能と関係する核DNAの変化と関連するのではないかと考えられています。これらの疾患に共通するのは、多くが神経系のものか、脳に影響を及ぼすものであるということです。


脳は人間の全体重のわずか2%ですが、エネルギーは全体の20%も消費する器官であり、フィラデルフィア小児病院ミトコンドリア・エピゲノム医学センター所長となったウォレス氏は「停電で電圧が低下した時、エネルギー消費量の大きい家電が影響を受けるように、ミトコンドリアの機能がわずかに低下しただけでも、脳に大きな影響があるのです」と語っています。

ウォレス氏は、ミトコンドリアと自閉症スペクトラム障害との関連について特に興味を持っているとのこと。複数の研究で、ミトコンドリア病の症例が一般集団の場合は約0.01%であるのに対して、自閉症の人々では5%と高かったことが示されています。また、一部の自閉症患者では、ミトコンドリアDNAや、ミトコンドリアの機能に影響を与えることが知られているヒトゲノムの遺伝子のいずれかに変異があることがわかっています。この変異が自閉症の原因になっているのか、それともあくまで一因なのかは、さらなる研究が必要ですが、マウスを用いた研究により、関連がある可能性が示唆されています。

なお、自閉症は、特定の環境要因により発症リスクが高まることが分かっています。自閉症の研究を行っている小児神経科医のリチャード・フライ氏は、この「自閉症の発症リスクを高める環境要因」が、ミトコンドリアの健康状態を乱す可能性があることを発見しました。

他の研究では、出生前にさらされた大気汚染の量によりATP生産速度が変わることや、亜鉛や鉛などの金属に幼少期にさらされるとミトコンドリアの機能の変化に相関関係があることなどがわかっており、こうした点からフライ氏は、自閉症と環境要因との間のミッシングリンクがミトコンドリアであることが示唆されていると指摘しています。

脳疾患に関する研究者であり、ミトコンドリア研究には携わっていないというトレド大学のロバート・マカルムスミス氏は「ミトコンドリアの機能障害が疾患の原因なのか、二次的影響なのかは明らかになっておらず、『鶏が先か卵が先か』の状態です」とコメント。ただし、ミトコンドリアがこれらの疾患でどういった役割を果たしているのかを研究するのは重要なことであり、ミトコンドリアを標的とした治療法が、たとえ疾患を治せなくても、結果的に患者のためになるという有望な証拠があると付け加えました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by logc_nt

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