サイエンス

危険な病原体を扱う研究施設が安全を確保する方法とは?


新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスといった、人類を危険に脅かすウイルスに関する研究が多くの研究機関で行われています。そんなウイルス研究の意義や安全性を確保する仕組みについて、オクラホマ州立大学でウイルスに関する研究を行っているジェリー・マライエル氏が解説しています。

Working with dangerous viruses sounds like trouble – but here's what scientists learn from studying pathogens in secure labs
https://theconversation.com/working-with-dangerous-viruses-sounds-like-trouble-but-heres-what-scientists-learn-from-studying-pathogens-in-secure-labs-161721


マライエル氏が所属するオクラホマ州立大学では、10組の研究チームが実際の細菌やウイルスなどの病原体を用いて「病原体が宿主の細胞内でどのように機能するか」「宿主の免疫系が病原体に対してどのように反応するか」「病原体と肥満・糖尿病などの基礎疾患との関わり」「病原体の排除方法」といった事柄を研究しています。

マライエル氏は「病原体が何をするのか、どのように広がるのかを理解することは、研究者が病原体の感染拡大を検出・軽減・制御する手段を開発するのに役立ちます。病原体研究の目標は、病原体が引き起こす病気を治療または予防できるようにすることです。病原体が危険であるほど、科学者はそれらを迅速に理解する必要があります」「病原体がどのような害を及ぼすかを理解するための研究は、人間だけでなく、哺乳類・鳥類・魚類・植物・昆虫・その他の種の健康のために重要です」と述べ、実際の病原体を使った研究の重要性を強調しています。

こうした病原体に関する研究では、研究者への感染防止対策や、病原体を外部に漏らさないための対策といった安全対策が重要視されています。マライエル氏によると、病原体に関する研究を行う際は、「何を」「誰が」「どこで」「どのように」実施するのかを事前に文書化する必要があるとのこと。これらの計画は承認された手順と規制に従っていることを確認するべく各研究施設内の訓練を受けた専門家や、アメリカ疾病予防管理センターアメリカ合衆国農務省による独立した審査を受けます。


そして、審査に合格した研究チームはバイオセーフティとバイオセキュリティの2つの原則を順守して研究に取り組みます。このうち、バイオセーフティとは病原体の脅威から研究者と周辺環境を保護する原則で、「安全キャビネット」と呼ばれる換気された作業スペースや、実験室内の空気の動きを制御する前室、実験室に出入りする空気から病原体や有害物質を除去するHEPAフィルタの設置などが含まれます。

加えて、研究者は実験作業中にガウン・マスク・手袋などの保護具を装着し、実験内容によっては特別な呼吸器を使用するとのこと。さらに、研究対象の病原体をいくつかの断片に分割し、病原体の機能を喪失させた状態で研究が行われています。

次に、バイオセキュリティとは病原体の紛失・盗難・放出・誤用といった不適切な事態を防ぐための対策を意味しており、病原体へのアクセス制御や、徹底した在庫管理、適切な廃棄物の処分などが求められています。このバイオセーフティとバイオセキュリティの2つの原則を守ることで、各研究チームは安全に病原体の研究を行っています。


病原体には、その危険性ごとに1~4のリスクグループが設定されています。また、各研究施設には扱えるリスクグループ示すバイオセーフティーレベル(BSL)が設定されており、「リスクグループ3の病原体はバイオセーフティレベル3(BSL-3)以上の研究施設でしか扱えない」というように、危険性の高い病原体は厳格な安全対策を施した研究施設でしか扱えない仕組みになっています。

マライエル氏によると、BSL-1とBSL-2の研究施設では人や動物に深刻な影響をもたらす病原体を扱うことはできず、BSL-3の研究施設では「深刻な影響をもたらす可能性があるが、治療法が確立している病原体」、BSL-4の研究施設では「深刻な影響をもたらし、治療法が確立されていない病原体」の研究が可能とのこと。なお、BSL-4に指定された研究施設は世界に約50カ所しか設置されておらず、日本では2015年に国立感染症研究所村山庁舎がBSL-4に指定されています。

最後に、マライエル氏は「ハンタウイルスデングウイルスジカウイルスニパウイルスといった、人類に深刻な脅威をもたらす病原体が世界に蔓延しています。研究者はこれらの病原体の感染メカニズムを理解し、迅速な診断方法を開発し、ワクチンや治療法を開発するために取り組んでいます」「次のパンデミックが発生する前に、科学者が病原体についてできる限り多くのことを研究することは理にかなっています」と締めくくっています。

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in サイエンス, Posted by log1o_hf

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