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「大量破壊兵器と肩を並べつつあるドローンに全力で警戒するべき」という主張


人間が搭乗しなくても空を自由に飛び回れる無人航空機(UAV)は「ドローン」という通称が定着し、荷物の運搬や高所からの撮影、イベントでの演出などさまざまな用途に使われていますが、そんなドローンの軍事転用についてはかねてから懸念の声があがっています。アメリカの学術団体IEEEの学術誌「IEEE Spectrum」が、「一度に複数台を操作できるドローンは、もはや大量破壊兵器と同等の効果を持つ兵器になりつつある」と警鐘を鳴らしています。

To Protect Against Weaponized Drones, We Must Understand Their Key Strengths - IEEE Spectrum
https://spectrum.ieee.org/robotics/military-robots/to-protect-against-weaponized-drones-we-must-understand-their-key-strengths


「大量のドローンを同時に使う」という方法は、空にロゴや写真、さらにはQRコードを形成する目的で使われることがよくあります。

夜空に輝く巨大な「ドローン製のQRコード」が登場、実際にスマホで読み取りも可能 - GIGAZINE


しかし、国家安全保障の専門家の間では、マイクロドローンは「戦略的懸念」となっています。アナリストやメディアからは「大量のマイクロドローンは新たな大量破壊兵器になる」と言い、別の「本当に不気味なドローンの不吉な群れが、ぶんぶんと音を鳴らして地元住民を追い回している」という声も上がっており、マイクロドローンが集団監視、あるいはそれ以上の事態を引き起こすと懸念されています。

ドローンが大量破壊兵器になる危険性について専門家が警鐘を鳴らす - GIGAZINE

by John

もちろんドローン自体は新しい技術ではありません。しかし、近年の世界中の独裁国家やテロリストグループなどは、「人的被害は少ないが大量破壊兵器に匹敵する効果を持つ武器」を求めています。冷戦時代では、核兵器のような「広範囲を破壊するための大量破壊兵器」が必要とされていました。しかし最近は、平時に個人を暗殺するために化学兵器を使用される例が報告されています。

例えば、北朝鮮の金正恩は、2017年に異母兄である金正男をVXガスで暗殺したといわれています。

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また、2018年にイギリスで起こったロシアの元スパイとその娘の暗殺未遂事件では、ロシア当局によって神経剤「ノビチョク」が使われた可能性が報じられました。2020年にはプーチン大統領の政敵がノビチョクを使って暗殺されかけたことが判明しています。

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マイクロドローンやVXガス・ノビチョクなどは特定個人の暗殺に使用されています。こうした兵器は拡張性があり、より扱いやすく、大量破壊兵器と同様の戦略的影響を与えます。IEEE Spectramはこの新しいカテゴリーを「Weapons of Mass Agility(WMA、大量敏捷兵器)」と呼び、「独裁国家やテロリスト集団がますますWMAを魅力的な兵器と見なす」と述べています。

2021年3月、軍事関連ニュースメディアのThe War Zoneは、海軍艦艇周辺でのドローンの飛行に関する大規模な調査の結果を報じています。それによると、2019年7月にアメリカ海軍は駆逐艦USS Kiddの近くで、数日間にわたってドローン群を数回発見したと記録しています。海軍によれば6台のドローンが視界の悪い状況で複雑な操縦を行い、時速29km以上で航行していた駆逐艦を追尾していたとのこと。このドローンの活動は、海軍やFBI、沿岸警備隊の内部調査を引き起こし、海軍作戦本部長も注目していました。War Zoneは、海軍の甲板記録や内部通信などの情報公開請求により、奇妙な出来事の詳細を明らかにし、船の位置情報を使って状況を再現しましたが、無人機についての有力な説明は得られませんでした。

アメリカ海軍は、駆逐艦1隻を建造するのにおよそ1000億円もの費用をかけています。一方、アゼルバイジャンがアルメニアとの紛争で使用したトルコ製の軍用無人機(UCAV)・バイラクタルTB2は150kgのレーザー誘導弾を搭載しており、1台につき1億~2億円程度です。つまり、駆逐艦1隻分の価格で少なくとも500台のUCAVを保有することができるという計算になります。

民生用のドローンは、UCAVに比べるとまだまだ性能が劣りますが、その積載量や性能、自律的な能力は急速に向上しています。実際に民生用ドローンを使った暗殺事件は起こっており、2018年にはベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領が演説中に爆発物を搭載したドローンで暗殺されかける事件が発生しています。

IEEE Spectrumは、ドローンに携わる技術者やエンジニアに対して、「武器化されて致命的な効果を発揮する可能性のあるアプリケーションを開発する際には注意が必要」と呼びかけています。また、政治家や軍事戦略家は、WMAから身を守るために警戒する必要があると訴えました。IEEE Spectrumは「これまでのところ、幸いにもそWMAの使用は限られていますが、市販のドローン技術が成熟して普及するにつれて、その危険性はますます高まっていくでしょう」と警鐘を鳴らしました。

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in ハードウェア, Posted by log1i_yk

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