メモ

憲法で保障する国も現れた新しい人権「神経の権利」とは一体どんな権利なのか?


チリの国民議会が2021年4月に、個人の肉体と精神の不可侵性に関する条文に「脳の活動とそこから得られる情報の保護」を追加する憲法改正案を承認し、世界で初めて「神経の権利(neuro-rights)」を憲法に盛り込んだ国になりました。コロンビア大学の神経学者を中心とした専門家のチームが、チリ憲法にとどまらず国連で採択された世界人権宣言にも「神経の権利」を追加すべきだと提唱し、その内容と必要性を解説しています。

Projects | NeuroRights Initiative
https://nri.ntc.columbia.edu/projects

'This is not science fiction,' say scientists pushing for 'neuro-rights' | Reuters
https://www.reuters.com/article/us-global-tech-rights-idUSKBN28D3HK

神経の権利を推進するコロンビア大学のプロジェクト・NeuroRights Initiativeが最も懸念しているのは、脳神経に関する技術であるニューロテクノロジーが人々の自由を脅かす用途で使われるようになることです。

例えば、脳波測定などを用いて人の脳を電気的に分析する「マインド・リーディング」には、犯罪や自殺の兆候を事前に察知できるといったメリットがありますが、人の内面を簡単に暴くことができるという危険性があると危惧されています。また、脳にインプラントなどを埋め込んで刺激を行う深部脳刺激療法(DBS)では、マウスの行動を制御して過食症を防げることが分かっていますが、悪用すれば「マインド・コントロール(洗脳)」が可能になると指摘する専門家もいます。

「脳内の思考を自由に読み取ったり制御したりする技術」は一体どんなメリットや問題があるのか? - GIGAZINE


コロンビア大学の神経学者であるラファエル・ユステ教授も、ニューロテクノロジーの乱用に懸念を抱いている科学者の1人。そこで、ユステ教授が率いるNeuroRights Initiativeは、次の(PDFファイル)5つの権利で構成された「神経の権利」を、国連の世界人権宣言で保護される権利に追加するべきだと提唱しました。

◆1:個人のアイデンティティに対する権利
ユステ教授らによると、ニューロテクノロジーがデジタルネットワークに接続されるようになれば、個人の意識と外部から技術的に入力されたものの境界線が曖昧になる危険性があるとのこと。そこで、この権利では「自意識と外部から入力されたものの『境界線』を明確にすることで、テクノロジーが自我を乱すことを防がなくてはなりません」と規定しています。


◆2:自由意志の権利
前述の通り、ニューロテクノロジーを用いれば意志決定に影響を与えることができるため、ユステ教授らは「個人は、外部の神経技術から未知の操作を受けることなく、自分自身の意志を完全に自己決定できるようにするべきです」としています。

◆3:精神的プライバシーの権利
この権利は、神経活動の測定で得られたデータを「神経データ(NeuroData)」と規定し、これらの秘密を保障することを目的としたもの。精神的プライバシーの権利を守る具体的な方法としては、神経データの販売や商業的な使用についての厳しい規制などが上げられます。

◆4:精神的強化への平等なアクセスの権利
ニューロテクノロジーは病気の治療にとどまらず、脳のパフォーマンスを上げることにも応用できるとされており、すでに経頭蓋直流電気刺激(tDCS)という手法で脳を強化しようという動きもあります。そこでユステ教授らは、全ての市民がこうした技術の恩恵を受けられるようなガイドラインを作成する必要があると訴えました。


◆5:アルゴリズムの偏りから保護される権利
機械学習やAIの分野では、偏見が含まれたデータを用いることでアルゴリズムによる差別が深まってしまう「アルゴリズムバイアス」という問題があります。こうした問題を防ぐため、ニューロテクノロジーに関連したアルゴリズムの開発には、基礎段階から差別対策を盛り込むべきだとされています。

ユステ教授は、世界的な技術会議であるWeb Summitでの講演の中で「ニューロンの活動を記録したり変更したりすれば、原理的には人の心を読んだり書き換えたりすることも可能です。これはSF小説の中の出来事ではなく、動物実験で実際に成功しているものなのです」と述べて、神経の自由を保護する取り組みの緊急性を強調しました。

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in メモ, Posted by log1l_ks

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