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AppleのM1チップはタスクの処理方法を工夫することでユーザーに「処理が速い」と思わせている


2020年11月にAppleが発表した独自開発のSoC「M1」は、「MacBook Air」「Mac mini」「MacBook Pro」などに搭載されており、優れたベンチマークスコアを記録しているほか、実際にレビューを行ったメディアからも絶賛を受けています。そんなM1チップについて、新たに「M1チップは単純に高い性能を持っていることに加え、タスク処理の方法を工夫することでユーザーの快適さを維持している」と指摘されています。

How M1 Macs feel faster than Intel models: it’s about QoS – The Eclectic Light Company
https://eclecticlight.co/2021/05/17/how-m1-macs-feel-faster-than-intel-models-its-about-qos/

Apple’s M1 is a fast CPU—but M1 Macs feel even faster due to QoS | Ars Technica
https://arstechnica.com/gadgets/2021/05/apples-m1-is-a-fast-cpu-but-m1-macs-feel-even-faster-due-to-qos/

コンピューターのパフォーマンスについて考える際、一定の時間でどれほどのタスクを処理できるのかを示す「スループット」をパフォーマンスと同一視する傾向は一般的です。スループットは測定するのが簡単であり、「スループットを向上させればパフォーマンスも向上する」と考える人も多いとのこと。

しかし、実際にコンピューターを扱うユーザーが知覚するのはスループットではなく、タスクの処理を行ってから反応が返ってくるまでの時間である「レイテンシ」です。そのため、レイテンシを犠牲にしてスループットを最大化したとしても、ユーザーはなかなかコンピューターの反応が返ってこないために「処理が遅い」と感じてしまいます。


Mac関連の記事を執筆するライターのハワード・オークリー氏は、M1チップが単純な処理能力の向上に加え、タスクを処理する方法を工夫することでユーザーが感じるレイテンシを抑えているため、ユーザーが「処理が速い」と感じていると指摘。オークリー氏がM1チップの処理における重要な要素としているのが、アプリが要求する「Quality of Service(QoS/サービス品質)」だとのこと。

QoSとは、パケットやタスクに優先順位を付けることで重要なものを優先的に処理し、サービスの可用性を適切に管理する技術のことです。macOS向けアプリの開発者は、最も優先順位が低い「background」から最も優先順位が高い「userInteractive」まで5段階のQoSレベルをアプリに割り当てることが可能であり、macOSはこのQoSレベルに従ってタスクを処理します。

ところが、同じmacOSであっても、IntelのプロセッサとM1チップではタスク処理の方法に違いがあるとオークリー氏は指摘しています。実際にオークリー氏が10GBのテストファイルを圧縮するというタスクをIntelのプロセッサを搭載したmacOSデバイスで実施したところ、全てのQoSレベルで全コアを使って処理が実行されました。


一方、高性能コア「Firestorm」と消費電力が少ない高効率コア「Icestorm」が各4コアずつ、計8コアで構成されているM1チップでテストを実施したところ、QoSレベルが「background」に設定されていた場合は高効率コアでのみタスクが実行されたそうです。この場合、高性能コアが完全に待機状態であっても処理に使用されませんでした。さらに、QoSレベルが「background」より上位に設定されていた場合は高性能コアを含めた8つのコア全てで処理が実行され、高効率コアのみで処理が行われた場合より高速で処理が完了したとのこと。

以下の画像は、macOSのバックアップ機能であるTime Machineを使用した際のCPU使用率を示したもの。ほとんどの処理が高効率コアで実行され、高性能コアでは時々わずかな処理が行われているだけであることがわかります。

by Howard Oakley

M1チップにおける2種類のコアは、高効率コアが主にmacOSと多くのバックグラウンドタスクを実行するために存在し、高性能コアはユーザーがタスクを実行する際に備えて待機していると言えます。つまり、バックグラウンドタスクの実行中でもユーザータスクを高性能コアで処理できるため、ユーザーが感じるレイテンシが軽減されて「処理が速い」と感じるとのこと。

オークリー氏は、「OSの問題に直面してインターフェースの速度が低下することは、ユーザーにとても悪い印象を与えます」と指摘。Intelプロセッサを搭載するMacがバックグラウンドタスクで問題に直面した場合、ユーザープロセスにも悪影響が及ぶ可能性がありますが、M1チップ搭載のMacでバックグラウンドタスクの問題が発生しても、それは高性能コアには影響を及ぼさないため、ユーザープロセスは影響を受けません。

海外メディアのArs Technicaは、「AppleのM1チップが非常に高速だと感じるのは、4つのコアが他のコアよりも遅いからではありません。それは、タスクの待ち時間を短縮するために最大スループットを犠牲にするという、意欲的なOSによるものです」と述べました。

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in ハードウェア, Posted by log1h_ik

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