サイエンス

睡眠不足が集中力に与える影響とは?


睡眠不足はさまざまな健康問題を引き起こすだけでなく、睡眠不足が続くと徹夜した人並みに認知能力が落ちたり人生の喜びが失われたりすることが知られています。こうした睡眠不足が認知機能に与える影響について、認知機能の専門家であるオックスフォード大学のデビッド・ジェームス・ロバートソン氏らが解説しています。

Poor sleep linked to inability to focus – new study
https://theconversation.com/poor-sleep-linked-to-inability-to-focus-new-study-160399

近年では「睡眠不足と健康の関係」について多数の科学的調査が行われており、睡眠不足は心臓病や脳卒中糖尿病のリスクを高めるだけでなく、メンタルヘルスを悪化させ、さらに免疫システムの低下にまで関連しているといった研究結果が報告されています。しかし一方で睡眠不足が認知機能に与える影響については少数の科学的調査しか行われてこなかったそうで、ロバートソン氏らは自ら研究を行うことにしたとのこと。

ロバートソン氏らが行った実験は、慢性不眠症の診断を受けた被験者23人と睡眠障害を持たない被験者23人の集中力を比較するというもの。両グループの被験者には、睡眠状況を随時チェックできる検査室で一夜を過ごしてもらった翌日の夕方に「注意力テスト」を受けてもらい、集中力を測定しました。

今回の調査で実施された「注意力テスト」は、以下の写真のように円形に配置された文字の中から「X」という文字に反応してもらうというもの。このテストでは被験者の集中力をかき乱すために、「X以外のアルファベットもランダムに表示する」「選ぶべき場所以外にもアルファベットを表示する」という2つの仕掛けが施されており、「初級」「中級」「上級」という3段階の難度が存在しました。


その結果、前日によく眠ったことが確認された睡眠障害のない被験者に比べて慢性不眠症の被験者は、作業に集中したり、ダミーのアルファベットを無視したりすることが困難だということが判明。さらに、最も重篤な不眠症を患っている被験者では、タスクに集中することもダミーのアルファベットを無視することもできなかったことが確認されました。

「テレビに集中していてスマートフォンの通知を見逃した」という経験が誰にでもあるように、人間の認知機能には「集中している際に気を散らすような聴覚情報・視覚情報その他を無視する」というメカニズムが備わっています。ロバートソン氏らが行った実験によると、不眠症の被験者においても同様の認知メカニズムが正常に機能していることが確認されたものの、注意力散漫の傾向が強かったとのこと。このことから、ロバートソン氏らは「環境内のどの要素に注意を向けるべきかについての判断を担当する脳機能が影響を受けている可能性がある」と解釈しています。


ロバートソン氏らは、不眠症を完治させた被験者は「主観的にはパフォーマンスがわずかしか改善していない」と語るという2018年の研究を挙げて、不眠症の治療が集中力にどのような影響を与えるのかを知るためには客観的な測定が必要だと指摘。いずれにせよ仕事中や運転中のパフォーマンスに睡眠不足が影響を与える可能性について自覚し、適切な時間帯に就寝することが大切だと語りました。

なお、日本の国土交通省は2018年に自動車運送事業者向けに「乗務員を乗務させてはならない事由等として、睡眠不足を追加します」という声明を打ち出してまで「睡眠不足が交通事故を引き起こす」という事実の周知を徹底させようとしています。

睡眠不足に起因する事故の防止対策を強化します!! | 自動車総合安全情報
https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/03sleep/index.html

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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