サイエンス

19世紀にイギリスで猛威を振るった「コレラ」はどのように終息したのか?


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行による総死者数は2021年5月10日時点で329万人を記録しており、アメリカを筆頭に先進国で新型コロナウイルスワクチンの接種が進んでいますが、インドで爆発的な感染拡大が続いていることから、今後も総死者数は増加し続けていくと考えられています。COVID-19は近代を代表するパンデミックとして捉えられていますが、これまでにも人類はペストコレラなどのパンデミックを経験してきました。イギリスで発生したコレラは一体どのようにして終息したのか、イギリスの外科医療の統制と技術向上を目的とした職能団体である王立外科医師会が「イギリスにおけるコレラ撲滅史」について解説しています。

Mapping disease: John Snow and Cholera — Royal College of Surgeons
https://www.rcseng.ac.uk/library-and-publications/library/blog/mapping-disease-john-snow-and-cholera/

コレラはコレラ菌を病原体とする経口感染症の一種で、治療しなければわずか数時間で死に至るという高い致死性が特徴。コレラのパンデミックは世界各地で繰り返し生じたとされており、インドにおいては都合4度のパンデミックで累計3800万人超が命を奪われたという推計も存在します。

現代ではコレラは「コレラ菌に汚染された飲食物」から広がることがわかっています。しかし、19世紀当時は「腐敗した有機物から広がる気体によって感染する」という瘴気説が一般的で、この瘴気説を支持する政府声明などの記録も残されています。

こうした見当違いの理論によって、イギリスでは都合4度もコレラが猛威を振るいました。しかし、1831年に当時見習い医師だったジョン・スノウが炭鉱の村・キリングワースでコレラの流行に初めて遭遇したことによって、イギリスにおけるコレラの歴史が変わることになります。

スノウはキリングワースでのコレラの治療は果たせませんでしたが、コレラに感染した炭鉱作業員の名前・症状・処置およびその結果などの詳細な記録を書き留めました。この「記録を集める」という習慣が後の発見に役立つこととなります。1854年8月にロンドンで発生した史上3度目となるコレラの流行の中、スノウはコレラによる死者を地図上にマッピングすることで、コレラの感染者のほとんどがブロード・ストリート(2021年時点ではブロードウィック・ストリートという名称)に存在する共用給水ポンプの利用者だったと突き止めます。スノウの報を受けた地元の評議会は感染者と共用給水ポンプの関連性は十分な説得力を有していると判断し、問題のポンプを停止。後に同地域での感染が大きく減少したという事実だけでなく、問題のポンプに水を供給していた貯水池からコレラ菌が発見されたことから、スノウの推測が正しかったことが確認されています。


イギリスの王立外科医師会が着目しているのは、スノウが「共用給水ポンプこそが真の原因である」と判断した論理の筋道です。スノウは1849年に出版した自身の研究についてまとめた「On the mode of communication of cholera(コレラの感染経路について)」という著作の中で、当時の風潮に反して「証拠から見て、空気感染ではない」という主張を行っていました。この著作を見ると、当時は空気感染ではないと気づいていたものの、真の原因が共用給水ポンプだとは気がついていないことがわかります。

共用給水ポンプはロンドンにおける唯一の水源ではなかった上に、スノウは共用給水ポンプ以外にもさまざまな要因を調査の対象としていました。しかし、スノウはコレラの発生状況と被害を受けた家の給水状況を照らし合わせることで、ロンドン市内で共用給水ポンプを運営していたランベス水道会社とサザーク・アンド・ヴォクソール水道会社の中でも、下水によって汚染されたテムズ川下流から水をくみ上げていたサザーク・アンド・ヴォクソール水道会社の共用給水ポンプだけがコレラの増加に関係していることを示しています。


スノウの研究により、ロンドンの上下水道システムが大きく改善しただけでなく、統計分析を疫学と公衆衛生に持ち込んだ初めての事例が誕生したこととなります。

なお、スノウはジエチルエーテルクロロホルムを外科麻酔薬として使用するための投与量を研究および計算した最初の医師の1人としても広く知られています。一方、45歳という若さで脳卒中により亡くなったという点については、「自分自身をたびたび麻酔の実験台にしていたことが主な原因では」という説が存在します。

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in サイエンス, Posted by log1k_iy

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