サイエンス

盲導犬の代わりに「AI搭載のバックパック」が視覚障害者の歩行をサポートする技術が開発される


視覚障害者の人々が安全に街中を歩くためには、前方の路面を確認する白杖を使ったり盲導犬のサポートを受けたりすることが必要です。ジョージア大学の研究チームは盲導犬や白杖を最新テクノロジーに置き換える試みとして、「AIを搭載したバックパックで視覚障害者をサポートするシステム」を開発しました。

Intel AI-Powered Backpack Helps Visually Impaired Navigate World
https://www.intel.com/content/www/us/en/newsroom/news/ai-powered-backpack-visually-impaired-navigate.html#gs.073v8o

AI-equipped backpack allows the blind to walk in public without dogs or cane
https://techxplore.com/news/2021-03-ai-equipped-backpack-dogs-cane.html

近年では、テクノロジーを使って視覚障害者の人々を支援する動きが進んでいます。たとえば、Googleは周囲にある物体や文字を読み上げてくれる視覚障害者向けのスマートフォンアプリ「Lookout」を開発しているほか、Microsoftも同様のアプリである「Seeing AI」の提供を開始しています。

しかし、ジョージア大学の人工知能研究者であるJagadish K. Mahendran氏が率いる研究チームは、これらのスマートフォンアプリだけでは十分ではなく、より良い支援システムが必要だと考えたとのこと。そこで、外を歩く視覚障害者の人々をサポートするシステムとして「AIを搭載したバックパックで視覚障害者をサポートするシステム」を開発しました。


実際に研究チームが開発したシステムがどのようなものになっているのかは、以下のムービーを見るとよくわかります。

Visual Assistance System for the Visually Impaired - YouTube


研究チームが開発したシステムは、バックパックやウエストポーチ、服などを利用したもの。空間認識AIカメラを搭載して深度情報も取得できるカメラキット「OAK-D」をベストの内側やウエストポーチに取りつけ、バックパックの内部に軽量のコンピューターユニットやGPSを取りつけます。


ベストのポケットやウエストポーチには小型のバッテリーも入っており、約8時間にわたって連続使用が可能だとのこと。


OAK-DユニットはIntel製のカメラデバイス向けプロセッサー「Movidius ビジョン・プロセシング・ユニット(VPU)」を用いて、コンピュータービジョンアプリ向けのキット「OpenVINO ツールキット」で開発したプログラムを実行します。研究チームが開発したAIシステムは、目の見える歩行者が街中を歩く時に認識する道や縁石、車、自転車、他の歩行者、標識、道に張り出す木の枝などを認識するように訓練されており、使用者はBluetoothイヤホンを介して音声指示を聞くことができるそうです。


バックパックのテストは、実際にカリフォルニア州モンロビア近辺の街中で行われました。OAK-Dユニットを取りつけたベストやウエストポーチ、バックパックを装備した男性が道を歩いていると……


前方にある「STOP(止まれ)」の標識を音声で読み上げ、道路の交差点にさしかかっていることを教えてくれました。音声によって周囲の状況を指示してくれることで、白杖や盲導犬の助けがなくても視覚障害者の人が状況を認識することができます。


また、システムは歩行する先にある障害物を検出すると警告を発します。たとえば、電柱などを支える細いワイヤー状の支線があると、「Center(中央)」という音声で自分の直線上に障害物があることを教えてくれます。


この声に従って体をズラすと「Left(左)」という音声が流れ、障害物が自分の左側にあることを伝えてくれました。


また、庭から道路にはみ出た植え込みに遭遇すると、「Top(上)」「Front(正面)」と言って頭上に障害物があることを教えてくれます。


「Describe(説明)」と発声してAIに呼びかけると、AIが周囲の状況を認識して「Yellow pavement(黄色い歩道)」「Person(人)」「Traffic light(信号機)」などを、「10 o'clock(10時の方角)」「11 o'clock(11時の方角)」「2 o'clock」といった風に、時計に見立てた方角付きで説明してくれます。


人工知能研究者であるMahendran氏がこのバックパックを開発したのは、視覚障害者の友人に会った際に「研究者がロボットに物を見ることを教えている一方、物を見ることができず助けを必要としている人間がたくさんいる」という、皮肉な現実に気付かされたからだとのこと。

OAK-Dを開発するLuxonisの創業者兼CEOを務めるBrandon Gilles氏は、「Luxonisにおける私たちの使命は、エンジニアがIntel AIの力を素早く利用できるように支援し、重要なものを構築できるようにすることです。そのため、OAK-Dを使用して構築されたAI搭載のバックパックのように価値があり、注目に値するものをとても速く目にすることができて、非常に満足しています」と述べています。

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in ハードウェア,   サイエンス,   動画, Posted by log1h_ik

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