全人類が肉を食べなければパンデミックは防げるのか?


世界的なパンデミックを引き起こした新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は動物から人に感染する人獣共通感染症であり、生鮮市場が感染源となった可能性も指摘されています。そんな中、「全人類が動物の肉を食べないヴィーガンになればパンデミックは起きない」と主張する人も現れていますが、実際に人間が肉を食べなければパンデミックを防げるのかどうかについて、ジョンズ・ホプキンズ大学の健康安全保障の専門家であるAmesh Adalja氏が解説しました。

Does eating meat cause pandemics? What some calls for veganism get wrong
https://www.inverse.com/mind-body/can-going-vegan-prevent-pandemics

ヴィーガンの人々は、可能な限り動物を搾取せずに生きることを主義として掲げており、食生活においても動物の肉や卵、乳製品などを摂取しないように努めています。そんなヴィーガンであるミュージシャン・作家のMoby氏が、2021年3月に「ヴィーガンの世界にパンデミックはありません。パンデミックの100%は人獣共通感染症です」とツイートしました。

A reminder: in a vegan world there would be no pandemics. 100% of pandemics are zoonotic in origin. #veganforlife pic.twitter.com/t9oEvtU1tS

— moby XⓋX (@thelittleidiot)


Moby氏は公衆衛生の専門家ではありませんが、COVID-19は野生動物の売買が行われていた生鮮市場が発生源という説もあるため、肉を食べる習慣がCOVID-19のパンデミックの原因となった可能性は否定できません。しかしAdalja氏は、問題となるのは動物たちを物理的に消費することそのものではなく、人間の生き方や動物を消費する方法にあると指摘しています。

人間は他の動物と共に地球上に住んでおり、ヴィーガンになったからといって自分以外の種と相互作用することを避けることはできません。Adalja氏は、「アライグマにかまれて狂犬病になる可能性があります。これはアライグマを食べるつもりだったからではなく、野生で偶然遭遇したからです」と述べています。

実際、人獣共通感染症を引き起こす原因となる肉食だけではなく、蚊に刺されてマラリアになったりダニにかまれてライム病になったりするケースがあります。Moby氏が言う「ヴィーガンの世界にパンデミックはない」という主張は誤りであり、たとえ全人類がヴィーガンでも人獣共通感染症のパンデミックが発生する可能性は消えません。


動物を食べることよりも重要なのは人間と動物の相互作用です。確かに過去数十年で問題となった感染症は動物から人間に感染したものが多いものの、動物が持つ病原体が人間に感染してパンデミックを引き起こすには、以下のハードルを越える必要があるとAdalja氏は述べています。

・細菌やウイルスが動物から人間に感染する環境がある。
・人間に感染した細菌やウイルスが病気を引き起こす。
・人間同士で細菌やウイルスが伝染する。

Adalja氏は、過去にも動物から人間に病原体がうつったケースは何度も発生しており、散発的に感染が広がっていたと指摘。ところが、現代において人獣共通感染症が世界を揺るがす大問題となっているのは、現代の生活様式が関係しているとのこと。「1万年前にヴィーガンはいませんでしたが、パンデミックもありませんでした」とAdalja氏はコメントしています。

人間が狩猟採集社会から農耕社会へと移行したことにより、多くの人々が1カ所に住むようになって人口密度が上昇しました。こうした社会の変動に伴って人間同士の相互作用が緊密になった結果、人間から人間へ病原体が感染する可能性が高まり、14世紀に発生したペストの大流行では当時の世界人口の22%に当たる1億人近くが死亡したといわれています。


現代社会はペストが流行した時代よりも医療や衛生の水準は向上しているものの、感染症が広まるスピードが国際化によって飛躍的に速くなっています。「地球の片側で発生したアウトブレイクが、気付かないうちに地球の反対側に到達する可能性があります。これはCOVID-19で起きたことです」とAdalja氏は述べ、グローバリゼーションや大都市の発展により、食肉や動物製品の消費がもたらす影響以上にパンデミックの発生率が高まっていると主張しました。

確かに、肉を食べることはパンデミックの発生と無関係というわけではありませんが、数ある原因の1つという位置付けに過ぎません。また、動物を飼育する方法を変えることでパンデミックが発生するリスクを軽減できることが、いくつかの研究で示されています。


2008年の研究では、鳥インフルエンザの発生率が大規模な商業養鶏場で有意に高かったことが判明し、一定空間に大量の動物を押し込めて育てる方式が病気の発生率を上げる可能性が示唆されています。別の研究では、養鶏場などで作業する労働者を保護するため、適切な衛生環境と装備を提供し、季節性インフルエンザの予防接種を受けさせるといった対策が重要だと結論づけられました。

Adalja氏もこれらの研究に同意し、「事前に生物学的な安全対策を実践すれば、ほとんどの場合で感染を最小限に抑えることができます」とコメント。また、国際的な監視を強めてパンデミックの兆候を早期に検出することも、病気が世界中に広まる前に封じ込める役に立つ可能性があるとのことです。

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in 生き物,   , Posted by log1h_ik

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