生き物

イギリスの農業職で最も過酷な「knackerman」とは何なのか?


「農業」と一口に言っても、野菜や果物などを栽培する仕事だけでなく、酪農・肉牛・養鶏などの畜産や農機や肥料などを扱う農業資材会社や種苗メーカー、流通、販売など多岐にわたります。そんな農業関係の中でも最も過酷といわれる「knackerman」という職について、イギリス大手紙のThe Guardianが解説しています。

The knackerman: the toughest job in British farming | Farming | The Guardian
https://www.theguardian.com/environment/2021/apr/13/the-knacker-the-toughest-job-in-british-farming

The Guardianが報じたのは、イギリスで35年にわたってknackermanを続けているというイアン・カーズウェル氏についての密着取材記事です。knackermanとは、事故・病気・災害・老衰などで出荷されなかった家畜の死骸を処分施設まで運んだり、死骸から肉や骨粉、皮などを専門業者に回収してもらう職業のことで、現代では「Fallen stock collectors」とも呼ばれています。


カーズウェル氏が所属するAndersonsにはknackermanが12人所属しており、イギリスのウェスト・ミッドランズ州全域の死骸を引き受けているそうです。The Guardianの密着取材に応じたカーズウェル氏は長身でガッシリとした体躯を有し、ブルーのワークシャツに長靴、ありふれたデジタル時計だけでなく、トラックの後部に取り付けられた死骸回収用のウィンチを操作するリモコンを首にぶら下げていました。

畜産場に向かう道すがらにカーズウェル氏が語ったところによると、1日のうちに何カ所も畜産場を巡るために計100~300マイル(約160~480km)も移動するため、knackermanに必要なスキルの半分は「効率的な運転ルートを考えること」です。取材日当日には事前に予定されていた畜産場に加えて、近隣にいると知って突然連絡してきた畜産場など計15カ所を巡る予定でしたが、カーズウェル氏は長年にわたってウェスト・ミッドランズ州を走り抜いた結果周囲一帯の近道を知り抜いているため、カーナビの電源を入れることすらなかったとのこと。

取材日には、最初の養羊場で2頭の羊を回収して次に向かう際に、「深手を負った雄羊がいるのですが、もう長くありません」と別の養羊場から連絡があり、現場に向かうと農場主が手押し車で死骸を運んできて、「ケンカをして、首を折りました」と告げたそうです。カーズウェル氏は犬に首をかまれて命を失った死骸に加え、死んでから数日が経過してゴム手袋のように膨らんだ死骸を回収しました。このように、羊は丈夫ではないため、ケンカや疥癬、青舌病牛疫、毛刈り後に残った傷跡からの感染症、錆びたクギや毒草の誤飲、天候の変化によるストレス、ミネラル不足、流産などのさまざまな原因で死亡します。そして、時にはカーズウェル氏自身がボルト銃を頭部に撃ち込み、処分を行うこともあります。


knackermanに必要な資質について問われたカーズウェル氏は「忍耐。間違いなく忍耐です」と語ります。カーズウェル氏に処理を依頼する人にも、表面的には平静を装っているものの怒りをぶつけてくる人や、自分の家畜をいないかのように扱う人、家畜が死んだことに心を痛める人などのさまざまなタイプがあり、こうした人と関わるためには忍耐が必要だとのこと。忍耐に次いで必要だとカーズウェル氏が挙げたのが、「経験」です。どれだけ消臭しようとも動物は体にこびりついた「死の匂い」を嗅ぎ分ける上、こちらの動揺を見抜いてくるため、処分時には経験で動物の行動を正確に予測しなければならないとカーズウェル氏。

かつては動物の死骸には利用価値があり、骨は肥料に、肉はペットフードなどに、脂肪はろうそくに、皮は革製品に用いられていました。しかし現代では、羊毛も毛刈り費用が売価を上回るために刈られることはなく、馬の皮も薄すぎて使えず、肉も抗生物質や抗炎症剤が残留しているために用いられることはありません。こうした状況に併せて牛海綿状脳症(BSE)の蔓延によって「死骸は農場外に持ち出さなければならない」という法律が制定されたため、「出荷できなかった死骸を売ってお金を稼ぐ」という文化は廃れて、「お金を払って死骸を引き取ってもらう」という文化に変遷を遂げています。

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in 生き物,   , Posted by darkhorse_log

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