サイエンス

「クジラの歌」で地震や地下の断層の調査が可能との研究結果


クジラの一部は、求愛などのコミュニケーションのために音を発することが知られており、録音されたものを人間が聞くと歌のようにも聞こえることから「クジラの歌」と呼ばれています。このクジラの歌が海底から跳ね返ってきた反響を測定することで、生態系への悪影響を出さずに地殻を調べたり地震や津波の原因となる断層を発見したりできるという研究結果が発表されました。

Seismic crustal imaging using fin whale songs | Science
https://science.sciencemag.org/content/371/6530/731

The Haunting Music of Whale Song Is an Ocean of Untapped Seismic Data, Scientists Say
https://www.sciencealert.com/whale-songs-could-help-with-scientific-studies-of-earth-s-crust

The songs of fin whales offer new avenue for seismic studies of the oceanic crust
https://phys.org/news/2021-02-songs-fin-whales-avenue-seismic.html

2021年2月12日に公開された論文で、「クジラの歌で海底の地質を調べることが可能」と発表したのは、オレゴン州立大学の地球物理学者であるジョン・ナベレク氏らの調査チームです。ナベレク氏は研究の内容について、「これまでもクジラの歌を使ってクジラを追跡したり、クジラの生態を調べたりする研究が行われてきました。しかし、クジラの歌に耳をすませると、クジラだけでなく地球からの声も聞くことができたので、クジラの歌を使えば地球の研究もできるのではないかと考えました」とコメントしています。


クジラの歌で地層を調べることが可能だと判明したきっかけは、調査チームがオレゴン州沖にあるブランコ破砕帯付近を調べていた時に地震計が受信した強い信号です。調査チームが信号の発信源を確認したところ、54台の地震計ネットワークが感知したのは地震波ではなく6頭のクジラが発する「クジラの歌」だったことが分かりました。

「クジラの歌を受信した後には、クジラの歌が岩盤から反射した際のデータも記録されている」ということに気付いたナベレク氏らが、地震計のデータをさらに詳しく分析したところ、クジラの歌が海底の堆積物や、その下にある玄武岩の層、さらにその下の斑岩の地殻に当たって反射したり屈折したりしている様子が観察されました。この分析結果は、一般的な科学調査による測定の結果とほとんど一致していたとのことです。

by Kuna et al., Science, 2021

調査チームは、クジラの歌が岩盤に当たることで発生した反響を地震計で記録すれば、地震や津波の原因となる地震断層をより詳細に調べることが可能だと考えています。また、地震によって海底の堆積物が揺さぶられると、堆積物の隙間から海水が排出されて堆積物の沈降速度が加速するため、これを応用することで地震の調査もできるとのこと。

クジラの歌は、圧縮空気を放出した際に発生する音を使ったエアガン発振による調査とは異なり、任意の海域を高い精度で調べることはできないため、従来の観測技術に取って代わるものではありません。しかし、人工的に音を発生させる観測技術は、生態系への影響が大きくコストもかさむため、規制当局から調査の許可を得るのが難しいとのこと。一方、クジラの歌を使った観測技術は、すでに海底に敷設されている地震計で世界中の海にいるクジラの鳴き声を計測するだけで済むので、コストや海洋生態系に与える影響は最小限に抑えられます。

ナベレク氏は「今回の研究結果は、クジラの鳴き声のデータを使った新しい調査方法の開発につながる概念実証となるものです。この手法が実用化されれば、クジラの鳴き声を使って従来の地震調査を補完したり、標準的な調査が不可能な領域の海洋地殻を調べたりすることが可能になるでしょう」と述べました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1l_ks

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