サイエンス

声を正常に発せられなくなって気付いた「声の力」とは?


人間は声の高さや、話すスピードで感情を表現することができます。そんな人間の「声の力」について、ジャーナリストのジョン・コラピント氏が、声帯を痛めて通常の声が出せなくなった自身の経験を元に語っています。

The day my voice broke: what an injury taught me about the power of speech | Music | The Guardian
https://www.theguardian.com/music/2021/jan/19/vocal-polyps-injury-singing-john-colapinto-steven-zeitels?src=longreads

数年前のある日、コラピント氏は上司からボーカルとしてバンドに参加するように誘われました。バンドへの参加を快諾したコラピント氏は、バンドの練習に週に2回程度参加しました。コラピント氏はボイストレーニングを受けた経験は無く、声帯を構成する筋肉や粘膜などの構造が傷付きやすいことを知らなかったとのこと。練習の度に熱唱を繰り返したコラピント氏は、段々と自らの声がかすれていく事に気づきます。それでもコラピント氏は練習を続け、ライブの本番では、高音が正しく発声できない程まで声帯を消耗してしまいました。


ライブの前後からコラピント氏の声は乾いたような声に変化したとのこと。その状態が3カ月ほど続いたある日、コラピント氏は偶然エレベーター内に居合わせたボイストレーナーの女性から「あなたの声は深刻な状態です」と告げられます。ボイストレーナーの女性は、「私たちは歌ったり話したりする時に腹筋、肩、背中といった全身の筋肉を使っています。あなたは、声帯の異常を補うために、全身の筋肉を酷使している状態です」と語りました。コラピント氏がこのことを妻に伝えると「喉に腫瘍ができているかも知れないから病院に行きましょう」と提案されたそうです。

妻の提案に従い耳鼻咽喉科を受診したコラピント氏は、内出血を起こし腫瘍ができた自身の声帯の画像を医師に見せられます。コラピント氏は医師から腫瘍の除去手術を提案されましたが、手術には多額の費用と6週間の安静が必要でした。当時、コラピント氏は家族や仕事仲間に声の心配をされることはあったものの、日常会話や仕事には影響を及ぼしていないと考えていたため、手術の提案を断ったとのこと。その後、コラピント氏は体に負担をかけずに声を出す方法を見つけ、声帯の腫瘍を2012年後半まで10年以上の間放置していました。


2012年に、コラピント氏は人気シンガーソングライターであるアデルの声帯の手術を担当したスティーブン・ザイテルス氏に対して、インタビューのアポを取るために電話をかけました。ザイテルス氏は電話越しにコラピント氏の声を聞くなり、「あなたは、かなり重大な声の問題を抱えているようです」と指摘。その後、コラピント氏はザイテルス氏とのインタビューに臨み、アデルの手術に関する話を聞こうとしましたが、ザイテルス氏はコラピント氏の喉を診察すると言い張りました。ザイテルス氏が喉頭鏡を用いてコラピント氏の声帯を観察すると、10年前よりもはるかに大きくなった声帯の腫瘍が確認されました。

ザイテルス氏は、「あなたは自分の声がどれほどかすれているか気付いていないでしょう。また、周りの人も指摘しないでしょう。しかし、あなたの声はとてもかすれています。腫瘍がある方の声帯は通常の3~4%しか機能していません」とコラピント氏に告げました。さらにザイテルス氏は、「あなたの声には緩急や高低差がなく、感情を正しく表現できていません」と述べました。


人間は、声に緩急を加えたり、高低差をつけたりすることで感情を表現しています。しかし、コラピント氏の声帯は3~4%しか機能していないため、単調な声しか発声できず、会話する相手に対して「単調で熱意が無く、感情に乏しい性格である」という印象を与えていたとのこと。コラピント氏はこの診察結果を受けて、人間の「声の力」について考え直すことになりました。

哺乳類と鳥類は何かを伝えるために音声を発しますが、鳥・犬・チンパンジー・イルカといった動物は、恐怖・怒り・空腹などの感情を表すためにしか声を発しません。また、オウムは人間の声を真似することができますが、言葉の意味は理解していません。このため、人間は「発する音声」と「世界に存在する物事」を結びつけることに成功した唯一の動物であるとコラピント氏は語ります。


他の動物と比べて動きが遅く、身体的に弱い人間は、声を用いて互いに協力し、他の動物よりも大きな規模の集団を作り上げることで食物連鎖の頂点に躍り出たとのこと。さらに、声は過去や未来の出来事を参照し、存在しない人物をほのめかし、抽象的な哲学を解明するのに役立ちました。このように、声は文字が発明される5000年前まで、人間によるコミュニケーションの主な方法として人間の文化の発展に貢献してきたとコラピント氏は指摘します。

声色は、両親から受け継いだ声帯や喉の形状だけでなく、育った地域に特有のアクセントや、外向的・内向的、積極的・受動的といった性格の違いによっても変化します。人間は、これらの要素によって形成される声色の微妙な違いを聞き分けることができるため、声色が社会的地位の上昇や、恋愛に影響することもあるとのこと。


コラピント氏は「誰もが、録音された自分の声を聞いた時に違和感を感じたことがあるはずです。この違和感は自らが無意識のうちに周囲に伝えようとしている自分の性格と、実際に発せられている声色から想像される性格とのずれが原因です」と語り、人間は声を使って人間性を伝え合っていると指摘しています。

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in サイエンス, Posted by log1o_hf

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