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GoogleがCookieレスな「プライバシー・サンドボックス」を実現させると何が起こるのか?


インターネット上では無数の企業が広告取引を行っていますが、広告取引を行う上で重要なユーザーの個人情報は、Cookie、とくにサードパーティーCookieを利用して収集されています。しかし、Googleは2022年をめどにChromeのサードパーティーCookieサポートを廃止する予定であり、新たな「広告取引の仕組み」の開発が急がれています。Googleが作り出そうとしている新たな仕組み「プライバシーサンドボックス」とは一体何なのか、実現することで何が起こるのか、ジャーナリズムに関するニュースサイトのPress Gazetteが情報をまとめています。

Death of third party cookies: Enter sandbox from Google
https://www.pressgazette.co.uk/death-of-third-party-cookies-sandbox-google/

インターネットユーザーが特定のウェブサイトを訪れた際に、ウェブサイトに入力した情報などをウェブブラウザに保存するのがCookieの役割です。このとき、来訪したウェブサイトから発行される「ファーストパーティーCookie」は基本的にそのウェブサイトを離れた後のユーザーの行動を追跡しませんが、来訪したウェブサイト以外の広告会社から発行された「サードパーティーCookie」が存在した場合、ユーザーがウェブサイトを離れた後にも、その行動が追跡されます。近年はこのようなサードパーティーCookieが「過度にユーザーの行動を追跡し個人情報を侵害している」として規制対象となっており、Appleは2020年3月にSafariでサードパーティーCookieを完全にブロック。この流れを受けてGoogleもChromeでのサードパーティーCookieのサポートを2年以内に廃止する方針だと2020年に発表しました

しかし、Googleは収益の大部分を広告から得ている世界最大の広告企業であり、過去には「Cookieをターゲティング広告に使わないとサイトの収益が半減する」と主張していました。このため、Cookieに変わる仕組みを考案することが急務になっています。

GoogleがサードパーティーCookieに変わる仕組みとして2019年に提案したのが「プライバシーサンドボックス(Privacy Sandbox)」というもの。

Googleが「ユーザー情報を保護しつつ広告の関連性も損なわない」仕組みの開発を行うと宣言 - GIGAZINE


プライバシーサンドボックスがどのような仕組みになるのかは記事作成時点で議論中。具体的には、Google版CAPTCHAのような「トラストAPI」でボットか人間かを判別することや、個人を識別可能になる情報に予算(バジェット)を与えて、その予算内で情報取得を可能にする仕組み「プライバシーバジェットAPI」、広告配信をサーバーではなくブラウザ単位で行う「TURTLEDOVE」などが提案されています。

Googleはどのような「Cookieなしの広告システム」を作ろうとしているのか? | GIGAZINE.BIZ


このほか、使用しているデバイスやインストールされているフォントといった細かなブラウザの特徴を使ってユーザーを識別するフィンガープリントを使用することも検討されましたが、Google Chromeの開発を行うジャスティン・シュウ氏によると、「Cookieと異なりユーザーはフィンガープリントを削除できず、ユーザーが識別されることを避けたくても開発者はその方法を提供できない」という理由から、ユーザーの選択を制限するとして却下されたとのこと。

このように、2022年に完成予定とされつつも、プライバシー・サンドボックスは依然として内容が固まっておらず、広告業界からは懸念の声も上がっています。またCookieを廃止した広告システムを構築することにより、さらにGoogleの市場支配が進むという見方もあります。Cookieはその性質上、ウェブサイトを運営している企業、ブランドや個人を所有者としますが、ブラウザ単位で広告配信やターゲティングが行われることになれば、情報の所有者はChromeの開発元であるGoogleになるためです。Googleが広告市場を支配することで媒体側の収益が減少する可能性も、十分に考えられるとのこと。

ただChromeベースで広告を配信する場合、Googleによるユーザーのクロスデバイストラッキングはより容易になると考えられています。ユーザーはChromeにログインしてブラウジングを行い、YouTubeを見て、何かを購入するという流れになるので、「ユーザーは何に興味があり何を購入するのか」という一連の流れの把握が容易になるためです。つまり、広告主にとっても「最終的に購入につなげるための分析」などがやりやすくなるものの、一方で「全てがGoogleによって提供され」「それがどのような仕組みになっているのかはGoogleのみが知る」という点が懸念材料として存在するわけです。


上記のような懸念点に加え、媒体側がCookieへのアクセスを行わずにプライバシーサンドボックスを利用することで収益が3分の2も減少する可能性があるとして、Marketers for an Open Webという組織は、イギリスの競争・市場庁(CMA)に対しプライバシー・サンドボックスの立ち上げ延期を要請しました。

Cookieを排除した仕組み作りとしてGoogleはプライバシー・サンドボックスを提案していますが、これ以外にもさまざまな組織がCookieレスな仕組みを提案・開発しています。デジタル広告のプラットフォームを提供するTheTradeDeskはハッシュ化・暗号化されたメールアドレスをIDとする「Unified ID Solution 2.0」を利用するアプローチを考案しており、SaaS企業のLiveRampもUnified ID 2.0を含めた新たなインフラの構築に賛同しています。また、インターネット広告の業界団体であるInteractive Advertising Bureau(IAB)は新たな技術標準とガイドラインを構築するためのプロジェクト「Project Rearc」を立ち上げました。

このように、インターネット広告に関わる状況は大きく変わろうとしており、関係者はこれまで得られた収益が得られなくなることを懸念しています。しかし一方で、広告システムが新しくなることにより、媒体側はデータ取引の管理者としての地位を復活させ、これまで以上に収益増が見込める可能性も考えられるとのこと。事実、ニューヨーク・タイムズはサードパーティーCookieを廃止し独自の広告システムを構築することで、これまでに匹敵するパフォーマンスを記録したと発表しています。

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in ネットサービス, Posted by darkhorse_log

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