サイエンス

記録的大寒波を大陸にもたらす「成層圏突然昇温」とは?


イギリスの国立気象局であるイギリス気象庁が、地表から10km~50kmにある大気層である成層圏の気温が突然上がる「成層圏突然昇温」という現象を2021年1月上旬に観測しました。この現象によって、ヨーロッパやシベリアに記録的な大寒波が訪れる可能性が指摘されています。

New year begins with a sudden stratospheric warming | Official blog of the Met Office news team
https://blog.metoffice.gov.uk/2021/01/05/new-year-begins-with-a-sudden-stratospheric-warming/


Beast from the East 2? What 'sudden stratospheric warming' involves and why it can cause freezing surface weather
https://theconversation.com/beast-from-the-east-2-what-sudden-stratospheric-warming-involves-and-why-it-can-cause-freezing-surface-weather-152876


冬になると北極圏は24時間夜になってしまうため、北極圏上にある成層圏はマイナス60℃以下にまで下がります。その結果、北極圏上空には強い偏西風が吹きすさび、極渦と呼ばれる強い風の渦が形成されます。ただし、ごくまれに極渦が弱まると、数日間で北極圏上空の成層圏の平均気温が突然最大50℃も上昇する「成層圏突然昇温」が発生します。

成層圏突然昇温が起こると、上空の冷気が下降し、地球の周りを東に向かって蛇行するジェット気流が強く影響を受けます。ジェット気流は大西洋を横切るとき、通常はイギリスの方を向いていますが、成層圏の急激な温度上昇によってジェット気流は赤道に向かって移動し、弱まります。

すると、本来ヨーロッパに吹く暖気が、シベリアや北極からの冷たい空気に置き換わってしまい、ヨーロッパや北アジアが長期に大寒波に襲われる可能性が生じるというわけです。実際に、2018年2月にヨーロッパを襲った「東からの獣」と呼ばれる大寒波は、この成層圏突然昇温によるものだったとされています。

動画:「東からの獣」直撃、英ロンドン真っ白に 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
https://www.afpbb.com/articles/-/3164646


この成層圏突然昇温は、太平洋赤道域で海面水温が平年よりも低い状態が続く「ラニーニャ現象」が起こると発生しやすいという説があります。

実際にラニーニャ現象が2020年末から続いていることが確認されており、2020年12月頃から突然成層圏の温度に変化が起こったとのこと。気候学者のサイモン・リー氏は、2021年1月頃から成層圏突然昇温が確認されたと報告しています。

Happy Major Sudden Stratospheric Warming day! pic.twitter.com/DYYelxYYsb

— Simon Lee (@SimonLeeWx)


イギリス気象庁は成層圏の極渦の弱化を確認しており、成層圏突然昇温によって、イギリス全土が70%の確率で厳しい寒さに襲われると予想しています。イギリス気象庁の主任研究員であるポール・デイヴィス氏は「成層圏突然昇温が発生すると、寒波を免れることはできません。しかし、イギリスの天候データは、1~2週間で不安定ながら比較的穏やかな状態に戻ることを裏付けています」と語っています。

なお、2019年末もラニーニャ現象が起こっていましたが、それでも2020年は「観測記録史上最も暑い年」だったとNASAが発表しています。「海面水温が下がったにもかかわらず気温が上がる」という異常事態に、気候科学者のジーク・ハウスファザー氏は「ラニーニャ現象は、間違いなく2020年の年末に冷却効果をもたらします。それでもなお2020年が最も暑い年だったということは、過去5年間で地球温暖化が進んでいることを示唆しています」と述べ、早急に炭素排出量を削減するべきだと訴えました。

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in サイエンス, Posted by log1i_yk

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