映画

タコとの特別な絆を描くドキュメンタリー映画の制作に至るまでの過程


タコは食材として人気がある一方で、ひねって開ける保存容器の開け方を5カ月も記憶したり、人間を個別認識したりできるという非常に頭が良い生物としても知られています。そんなタコとの1年以上にわたる交流を描いたドキュメンタリー映画「オクトパスの神秘: 海の賢者は語る」の製作秘話を、制作マネージャーのスワティ・ティヤガラジャン氏が明かしています。

THE MAKING OF MY OCTOPUS TEACHER by Sea Change Project
https://stories.seachangeproject.com/the-making-of-my-octopus-teachernbsp

「オクトパスの神秘: 海の賢者は語る」は、クレイグ・フォスター氏が南アフリカの藻場でフリーダイビングの最中に発見した好奇心旺盛なタコとの1年間にわたる交流を描いたドキュメンタリー映画。タコがどのように眠り、食べ、生きるかをありのまま映像化した点や、タコとの関係が人生に与えた影響に関するフォスター氏の独白などが評価され、エミー賞ドキュメンタリー部門の候補として選出されたり、環境保護団体EarthXの主催する映画祭で最優秀作品賞を受賞したりしました。

オクトパスの神秘: 海の賢者は語る | Netflix (ネットフリックス) 公式サイト
https://www.netflix.com/jp/title/81045007


フォスター氏はBBCの自然ドキュメンタリーシリーズ「Blue Planet II」の撮影のために南アフリカに赴いた際に、撮影の傍らでタコと関係を構築していたとのこと。Blue Planet IIのカメラオペレーターでありフォスター氏の旧友でもあるロジャー・ホロックス氏はフォスター氏とタコの関係に光るものを感じ、撮影を開始したと明かしています。

撮影現場である藻場は英語で「Kelp forest(海藻の森)」と表現される、その名の通りコンブ目の海藻で満たされた海域で、中型・小型の生物は大型の捕食者から隠れるように海藻の中に暮らしています。自身の体表の色や模様を変化させて岩などに隠れることのできるタコを追跡するため、フォスター氏は専用の追跡システムを数年かけて開発。さらには狭い場所での撮影を行うため、フォスター氏ら撮影チームは小型の撮影機材を確保するだけでなく、酸素ボンベやウェットスーツなしで冷たい海に入って素潜りする技術も習得したとのこと。

数百時間にもわたる撮影の後、2017年に海洋保護ジャーナリストとして活動していたピッパ・エールリッヒ氏を迎え、さらに6カ月にわたる本格的な撮影を続けます。当時は文字通り毎日撮影のために海に潜っており、荒波が岩に押し寄せるような悪天候でも撮影を敢行していたそうです。


こうして撮影された一連の映像を、本格的な「映画」として構築するには、何百時間もの映像を何度も見直すという作業だけでなく、タコに関する行動を理解するための科学的知識が必要でした。フォスター氏は「タコの心理学者」として名高いカナダ・レスブリッジ大学のジェニファー・マザー教授の協力を得ることに成功。マザー教授は南アフリカにまで来て、映画に協力しました。


フォスター氏、エールリッヒ氏、ティヤガラジャン氏はどのシーンを採用するかについて毎日夜遅くまで協議して、多数の美しいシーンを「主題から離れすぎている」という理由で除外したとのこと。こうして1年間も編集作業を続けて、ようやく試写段階までこぎつけましたが、試写段階の作品はインパクトがあったものの、「実際に撮影に参加した人にとってはわかりやすいが、視聴者にとってはわかりにくい」作品になっていたため、さらなるブラッシュアップを行うという決定を下しました。


チームは視聴者に実際の体験を伝えるために、「タコの話に焦点を当てる」と決めましたが、問題の1つは「どれだけ環境保全に関する話題を入れるか」だったとのこと。編集当時、南アフリカのフォールス湾ではタコ漁業が盛んに行われており、タコ用の網にクジラが引っかかって溺死するという事件が10日で2件も発生していたそうです。フォスター氏とティヤガラジャン氏は映画の中にクジラの話題を含めるべきだと考えていましたが、「クジラの話題がそのほかの話を圧倒してしまう」という理由でエールリッヒ氏が不採用を決定。エールリッヒ氏は、よくある二極化した環境問題論について触れずとも、ありのままを伝えれば自然保護について考えさせられる映画になるという信念を抱いていたそうです。


さらに、「客観的な視点を欠いている」と自認していたチームはBBCのドキュメンタリームービーを多数手がけた経歴を持つジェームズ・リード氏を引き入れることに決定。リード氏は南アフリカまで赴いて現場を確認してからエールリッヒ氏を引き連れて帰国し、映画を現代的なスタイルに編集し直しました。

その後、色調編集などにさらに6カ月の時間を費やし、映像が完成。完成した映像はNetflixに送付され、Netflixの厳しい品質管理基準を突破し、2020年9月7日にNetflixオリジナル作品として一般公開されました。ティヤガラジャン氏は自身が手がけた作品について、「私たちな南アフリカの海藻の森で自然と深くつながるという感情的でスピリチュアルな魔法のような経験を毎日体験しており、世界中の視聴者とこの体験を共有できることを楽しみにしています」とコメントしています。

My Octopus Teacher Trailer | CPH:DOX 2020 - YouTube

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in 生き物,   動画,   映画, Posted by darkhorse_log

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