生き物

ミツバチは「動物の糞」を巣の周りに塗ってスズメバチから身を守ることが判明

by budak

高い情報処理能力を持っているミツバチは、身につけた技術を別の個体に教えたり数字の概念を記号と結びつけて認識したりできることが知られています。そんなミツバチの脅威となるのが比較的大型で攻撃性が高いスズメバチの仲間ですが、新たな研究で「ミツバチは動物の糞を巣の周りに塗ってスズメバチから身を守る」ことが明らかとなりました。

Honey bees (Apis cerana) use animal feces as a tool to defend colonies against group attack by giant hornets (Vespa soror)
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0242668

Bees Witnessed Using Tools in Nature For The First Time... And It's Really Gross
https://www.sciencealert.com/scientists-discover-the-first-tool-and-non-plant-weapon-used-by-honeybees-poo

Honey bees use animal poo to repel giant hornet attacks | Bees | The Guardian
https://www.theguardian.com/environment/2020/dec/09/honey-bees-use-animal-poo-to-repel-giant-hornet-attacks


アジアで進化したミツバチの一種・Apis cerana(トウヨウミツバチ)は身近な天敵であるオオスズメバチとの対抗手段として、巣に侵入したオオスズメバチを大量のミツバチで取り囲んで蜂球(ほうきゅう)と呼ばれる塊を形成し、振動して温度を上昇させて蒸し焼きにすることが知られています。しかし、新たに発表された論文ではトウヨウミツバチが決死の蒸し焼き戦法だけでなく、「動物の糞」を使ってスズメバチに対抗していることが示されました。

研究のきっかけとなったのは、カナダの研究者らがベトナムの養蜂家を訪れた際、巣箱の入口近くに妙な茶色っぽい斑点を目撃したことでした。研究者が養蜂家にこの斑点が何なのかを尋ねたところ、養蜂家は「トウヨウミツバチが集めてきた『水牛の糞』」だと答えたとのこと。トウヨウミツバチが家畜の糞便を収集して巣箱に塗ることを知った研究者らは、ベトナムの研究者とも協力して調査を進めることにしたそうです。

まず研究チームがベトナムの養蜂家72人にアンケートしたところ、63人が「巣箱の入口近くに動物の糞で作られた斑点がある」と回答しました。巣箱に動物の糞が塗られていたと回答した養蜂家はいずれもトウヨウミツバチを飼育しており、Apis mellifera(セイヨウミツバチ)のみを飼育している5人の養蜂家は、5人とも巣箱に糞が塗られていないと回答したとのこと。


研究チームが聞き取り調査を行った多くの養蜂家は、トウヨウミツバチが動物の糞を巣箱に塗っているのは、スズメバチが巣を攻撃したことへの反応だと主張しました。実際に研究チームがトウヨウミツバチの巣箱を観察したところ、Vespa sororというスズメバチの一種が巣箱を攻撃している最中に、巣箱に塗られる動物の糞が増加することがわかったとのこと。

Vespa sororはインドやタイ、ベトナム、中国南部に生息するオオスズメバチの近縁種であり、この地域に生息するトウヨウミツバチにとって脅威的な存在です。Vespa sororを含めたいくつかのスズメバチはミツバチの巣を襲い、わずか数時間で数千匹ものミツバチを殺したり幼虫を巣に持ち帰ったりする上に、時には巣を乗っ取ることもあります。

by Rushen

以下のグラフは、縦軸が巣箱に塗られた動物の糞でできた塊の数、横軸が時間を表しています。実線で示された「Vespa sororに攻撃されていた巣箱」と破線で示された「Vespa sororの攻撃を受けていない巣箱」を比較すると、Vespa sororの攻撃を受けた巣箱において、一貫して糞が塗られ続けていることがわかります。巣箱に塗られる糞の塊の数は、Vespa sororの攻撃が終わった後もしばらく多いままだったそうです。


また、研究チームがVespa sororから採取した抽出物を巣の入口近くに置いたところ、トウヨウミツバチは実際のVespa sororから攻撃を受けた際と同様に、動物の糞を巣箱に塗り始めました。トウヨウミツバチが巣箱に塗った糞は水牛のものだけではなく、鳥やその他の哺乳類が排せつした糞も含まれていたそうで、中には巣箱に塗るのではなく入口の近くに糞を山盛りにすることもあったとのこと。なお、Vespa sororより小さくて攻撃性が低いVespa velutina(ツマアカスズメバチ)から攻撃を受けた場合では、巣箱に糞を塗る行動がほとんど観察されなかったとのこと。

by Heather R Mattila/Plos One

実際に巣箱に糞を塗ることの効果について研究チームが測定した結果を示したのが以下のグラフ。薄い灰色が「ほとんど糞が塗られていない場合」、濃い灰色が「中程度の糞が塗られた場合」、黒色が「多くの糞が塗られた場合」を表しており、左から順に「Vespa sororが巣を訪れた頻度」「Vespa sororが巣に着陸した頻度」「Vespa sororが巣の入口に着陸した頻度」「Vespa sororが巣の入口をかんで破壊しようとした頻度」を示しています。どの場合でも、中程度または多くの糞が巣に塗られていた場合はVespa sororの攻撃が減少していることがわかります。糞が中程度以上塗られている巣はそうでない巣と比較して、Vespa sororが入口に着陸する頻度が77~81%減少し、巣にかみつく頻度が94%減少しました。


研究チームが調べたところによると、トウヨウミツバチが動物の糞を巣に塗る行動はベトナム全土だけでなく、中国やタイ、ブータン、ネパールでも報告されていたとのこと。一体なぜ動物の糞がVespa sororを撃退できるのかは不明ですが、糞に含まれている化学物質が攻撃を抑止する可能性や、Vespa sororが標的とする巣を示したマーキングをかく乱させる可能性があると研究チームは考えています。

また、今回観察された「トウヨウミツバチが動物の糞を収集し、外敵を撃退するために巣箱に塗る」という行動は、野生のトウヨウミツバチが「道具を使う」ことを示した最初の例かもしれないとのこと。道具の使用についてはさまざまな意見がありますが、トウヨウミツバチの行動は「外部から物体を収集し、保持し、操作し、本来の存在理由とは別の方法で適用する」という道具の使用に必要な要素を満たしていると、研究チームのヘザー・マティラ教授は述べました。

by Heather R Mattila/Plos One

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
なぜミツバチは針で刺すと死んでしまうのか? - GIGAZINE

ミツバチの毒に含まれる物質が「乳がん細胞を破壊して増殖を抑える」との研究結果 - GIGAZINE

人間がミツバチ社会から学ぶべき「意志決定方法」とは? - GIGAZINE

ミツバチは「数」の概念を記号と結び付けて認識できることが判明 - GIGAZINE

オオスズメバチを駆除するためにアメリカの農務省は「小型発信器」を取り付けて巣を見つけ出している - GIGAZINE

アメリカで「殺人バチ」と恐れられるオオスズメバチの巣を初めて駆除することに成功 - GIGAZINE

in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

You can read the machine translated English article here.