サイエンス

有害な行動を見ると脳は「悪臭を嗅いだ時」と同じ反応を起こす

by Helen Horstmann-Allen

「人の有害な行動」を見た時の脳の反応と、「悪臭を嗅いだ時」の脳の反応が同じであることを研究者が突き止めました。これはつまり、人の有害な行動を見た時に味や匂いの感じ方が変化したり、逆に悪臭を放つ人に対して「有害だ」と判断しやすくなったりするということだと研究者は説明しています。

Unhealthy behaviors trigger same brain responses as bad smells
https://medicalxpress.com/news/2020-10-unhealthy-behaviors-trigger-brain-responses.html

匂いは食べ物の新鮮さといった情報を提供するため、匂いをきっかけに嫌悪感が生まれることで、人は毒のある食べ物を避けることができます。これと同様に、痛みによって人は撤退が可能になり、ケガのリスクを減らすことも可能です。嫌悪感や痛みといった反射的な反応は人が生存率を上げるために利用してきた進化の産物ですが、多くの心理学者はこのような生存反射が「他人の不健全・有害な行動」にも反応すると考えているとのこと。


これまでの研究では、不品行のような「道徳的判断」に影響する人間の基本的な感情が「嫌悪感」であるか「痛み」であるかについて、議論が起こっていました。そこで、ジュネーヴ大学心理学部のCorrado Corradi-Dell'Acqua氏は「嫌悪感」と「痛み」のいずれが道徳的感情に影響を与えるかを独自の方法で調査しました。

この研究でCorradi-Dell'Acqua氏はまず、被験者に対して悪臭をかがせるか、熱による痛みを与えました。悪臭と痛みという異なる方法で同程度の刺激を作り出した後、研究チームは被験者にトロッコ問題のような「価値判断」を誘起する本を読んでもらったとのこと。トロッコ問題は「制御不能なトロッコの進行先に5人がおり、そのままだとひき殺されてしまう。しかし、たまたま自分が分岐器の近くにおり、トロッコの進行先を変更することができるが、変更するとその進路で1人が確実に死ぬ。あなたは進行先の切り替えをするか?」といったもの。


実験の結果、トロッコ問題のジレンマは被験者の匂いの感じ方を変えて嫌悪感を生み出しましたが、感じる痛みに変化はなかったとのこと。なお、被験者が痛みをどう感じているのかは、電気刺激に対する発汗や神経系の反応を測定することで確かめられました。

その後、Corradi-Dell'Acqua氏は2つの刺激に対する脳の変化を確認。一般的に、痛みと嫌悪感という2つの刺激により脳が活動する場所は同じであるため、両者を見分けるのは非常に難しいとされています。そこで研究チームは特定の部位に集中するのではなく、MRIを使って脳全体の活動を調べました。この結果、嫌悪感に対する脳全体の反応は道徳的反応から影響を受けることが示されたと研究者は報告しています。

今回の研究結果を受けてCorradi-Dell'Acqua氏は、「たとえば、何かを飲みながら汚職記事のような道徳的判断に影響を与えるものを読むと、匂いや味が悪く感じられることがあります。その逆として、匂いが不適当な道徳的判断を引き起こすこともあり、悪臭を放つ人に対して『この人は有害だ』と判断を下すこともあります」と述べました。

なお、調査で利用したMRIを使った手法は新しいものであり、「心理学の重要な発見に加えて、この研究は嗅覚的な嫌悪感を調べるバイオマーカーのプロトタイプを開発する機会となりました。2つの点について、大きな前進があったと言えます」とCorradi-Dell'Acqua氏は述べています。

by Aqua Mechanical

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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