サイエンス

日本の子宮頸がんワクチン推奨中止で約1万7000人に発症リスク、4000人以上が死亡するとの予測も


子宮頚がん(しきゅうけいがん)の主な原因の1つであるヒトパピローマウイルス(HPV)に対するワクチン接種は、日本では体の痛みなど副作用があることから2013年に政府による推奨が取りやめられました。これによりワクチン接種率が大幅に低下し、女性の子宮頸がん発症リスクが大幅に増加していることが大阪大学の研究チームにより報告されています。

Potential for cervical cancer incidence and death resulting from Japan’s current policy of prolonged suspension of its governmental recommendation of the HPV vaccine | Scientific Reports
https://www.nature.com/articles/s41598-020-73106-z

HPVは発がん性のリスクが高く、性行為のほか出生時に感染するケースも報告されています。また、HPVは子宮頸がんだけでなく、咽頭がんや舌がんなどを引き起こすことも判明しています。

のどや舌のガンの原因にも、性行為により感染するHPV(ヒトパピローマウィルス)について知っておくべきこと - GIGAZINE


日本では2010年から公費負担でHPVのワクチンが接種できるようになり、2013年4月からは接種対象年齢である小学6年生から高校1年生への定期接種が開始されました。しかし、ワクチンを接種した一部の人々に疼痛の副作用が見られたことから、政府はワクチン接種の公費負担は継続しながらも、2013年6月以降は積極的なワクチン接種の推奨を取りやめています。

大阪大学大学院医学系研究科の研究チームの報告によると、1994~2005年度生まれの人々のHPVワクチン接種率は以下の通り。ワクチン接種が推奨された時期に接種対象年齢であった1994~1999年生まれの接種率は半数を超えていますが、推奨取りやめ以降の対象年齢である2000年生まれ以降は接種率が大きく下がり、2002年以降は1%以下となっています。

1994年度生まれ:55.5%
1995年度生まれ:73.5%
1996年度生まれ:78.2%
1997年度生まれ:78.8%
1998年度生まれ:78.7%
1999年度生まれ:68.9%
2000年度生まれ:14.3%
2001年度生まれ:1.6%
2002年度生まれ:0.4%
2003年度生まれ:0.2%
2004年度生まれ:0.1%
2005年度生まれ:0.0%

以下のグラフは、ワクチン接種の推奨が取りやめられた以降の接種対象年齢である2000~2005年生まれの女性が、子宮頸がんを発症する人数の推定値を示したものです。縦軸は発症者数の推定値、横軸は女性が生まれた年度を表しています。黒く塗られた部分は2019年時点の推定値、グレーは2020年時点での推定値を表しています。明るいグレーの部分は2021年以降もワクチン接種の推奨が行われなかった場合の推定値を表しています。


また、以下は2000~2005年生まれの女性が子宮頸がんにより死亡する人数の推定値を表したグラフ。縦軸は死亡者数の推定値、横軸は女性が生まれた年度を表しています。黒く塗られた部分は2019年時点での推定値、グレーは2020年時点の推定値、明るいグレーは2021年以降もワクチン接種が推奨されなかった場合の推定値です。


研究チームは2020年までにワクチン接種の推奨が再開されなかったことにより、2000~2005年までに生まれた女性だけでも約1万7000人以上が子宮頸がんを発症し、最大で4000人以上が死亡すると推測しました。2021年以降もワクチン接種の推奨が再開されなければ、さらに4000人以上が子宮頸がんの発症リスクにさらされ、1000人以上が死亡する可能性があると主張しています。

研究チームは論文の中で「我々は政府に対し、ワクチンの推奨を可能な限り早期に再開すること、予防接種を受けられなかった女性に手頃な価格で予防接種を受ける機会を提供することを真剣に求めています。また、予防接種を受けていない女性に対しては子宮頸がんの検査の実施もより強く推奨されるべきです」と述べ、ワクチン接種の推奨再開を強く訴えています。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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