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災害などの危機から逃れる上で「他人とのつながり」が足かせとなる可能性があるとの研究結果


人間は社会的な動物であることが知られており、多くの人間が相互にコミュニケーションを取って情報伝達を行うことは、集団の安全性や作業の効率を高める上で重要です。ところが、新たな心理学研究により、「他人とのつながりが災害などの危機から逃れる上で足かせになっている可能性がある」との結果が示されました。

Collective communication and behaviour in response to uncertain ‘Danger’ in network experiments | Proceedings of the Royal Society A: Mathematical, Physical and Engineering Sciences
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspa.2019.0685

Study Reveals Why Large Groups of Humans Are Hopeless in a Crisis
https://www.sciencealert.com/large-groups-of-humans-are-hopeless-during-a-crisis-even-when-the-emergency-is-simulated


カーネギーメロン大学とイェール大学の共同研究チームは社会的集団が危機への対処にどのような影響を与えるのかを調べるため、ゲーム形式の実験を行いました。まず研究チームはオンラインで募集した2000人以上の被験者を、「10人で構成された集団」「20人で構成された集団」「40人で構成された集団」「60人で構成された集団」にそれぞれ分割し、合計で108個のグループを作りました。これらのグループに加えて168人の被験者が「集団に属さない孤立した被験者」として集められ、研究チームは各グループと個人を対象に実験を行いました。

実験は「近い内に災害が起きる可能性がある状況で、避難するかどうかを判断する」というゲーム形式で行われました。このゲームでは、他の被験者が発信する「安全」「危険」という情報と自分の判断に基づいて、「避難する」「避難しない」という2つのアクションのどちらかを選ぶことを求められます。セッションの開始前に被験者は2ドル(約215円)を受け取りますが、「避難する」を選んだ場合は1ドル(約108円)を支払う必要があります。一方、「避難しない」を選んだ場合は何も支払う必要はありません。


各被験者はノード(集合点)として4人の「隣人」と接続しており、隣人はお互いのノードが何色なのかを見ることができます。被験者が手元の「安全」ボタンを押すと5秒間にわたって自身を示すノードが青色に点灯し、周囲に「このセッションで災害は起きない」という情報を伝えることができ、「危険」ボタンを押すとノードが赤色に点灯して「このセッションで災害が起きる」という情報を伝達できます。1ドルを支払って避難を選択した被験者はそれ以降ボタンを押して情報を伝達できず、「隣人が避難したかどうか」をその他の被験者が知ることもできませんでした。

各セッションで、集団に属する被験者のうち1人だけが「このセッションで災害が起きるかどうか」について正しい情報を知らされており、この1人に接続している4人の隣人だけは、誰が正しい情報を持っているのかを知っていたとのこと。「安全」「危険」ボタンを押すことができるのは正しい情報を持った被験者だけでなく、集団に属している誰でも自由に押すことが可能であり、たとえ隣人が「安全」のランプを点灯させたとしても、そのランプを無視して「危険」のランプを点灯させることや、ボタンを押さず隣人に何も情報を与えないことも可能でした。つまりこれらのセッションでは、集団の誰かが意図的にフェイクニュースを拡散させることもできる状況だったというわけ。


ゲームは1セッション当たり75秒間で、災害が起きる場合はゲームがスタートしてから75秒後のセッション終了と同時に、災害が発生したことが知らされました。被験者がセッション終了までに「避難」のアクションを選択すれば避難を完了できましたが、「避難」のアクションを制限時間内に選ばなかった場合は、避難せずにその場にとどまったと判定されました。なお、災害が起きる可能性はちょうど50%になるように調整されていました。

今回の実験では、「1セッションが75秒であること」「セッション終了と共に災害が発生すること」「災害が起きる可能性がちょうど50%であること」などの情報は、被験者に知らされていませんでした。被験者は実際の災害と同様に、「いつ災害が自分の元に到達するのか、そして災害が起きる可能性がどれほどあるのか」といった状況について知らない状態だったといえます。


もし「セッションで災害が起きなかった」場合、避難しなかった被験者は手持ちの2ドルに加えて「同一のグループ内で避難しなかった人の数×0.1ドル(約11円)」を獲得し、避難した被験者は手元に残った1ドルに加えて「同一のグループ内で避難しなかった人の数×0.1ドル」を獲得できました。一方、「セッション中に災害が起きた」場合、避難しなかった被験者は手持ちの2ドルを失った上に何も獲得できず、避難した被験者は手元に残った1ドルと「同一のグループ内で避難した人の数×0.1ドル」を獲得できました。

つまり、同じグループ内で正しい判断をした人が多いほど自身の獲得金額も増えるため、正しい情報を持っている被験者には「ランプを押して隣人に正確な情報を伝えるメリットがある」ことになります。その一方で、被験者は75秒後にセッションが終了することを知らないため、隣人に正しい情報を教えようとランプを押している最中にセッションが終了してしまい、結果として逃げ遅れてしまうパターンもあり得ます。


実験の結果、集団に属していない被験者と比較して、集団に属する被験者は「災害が起きないセッション」と「災害が起きるセッション」の両方で、避難した人が明らかに少ないことが判明。つまり、集団に属していると不要な避難をしてしまう可能性も減るものの、たとえ一部の人々が「このセッションで災害が起きる」という事実を知っていたとしても、必要な避難をせずに災害の被害を受けてしまう可能性が高まることが示されました。

研究チームは実験の中で、集団に属する一部の被験者が「フェイクニュース」を生み出すことも発見しています。そして、一部の被験者が発信した「災害が起きる」という正しい情報よりも、「災害は起きない」というフェイクニュースの方が圧倒的に拡散しやすく、信じられやすいこともわかったとのこと。被験者がゲームのルールを理解していたため、フェイクニュースの拡散は不合理だと思われるにもかかわらず、研究全体を通じて「安全」の信号が「危険」の信号を上回って拡散されていたそうです。

架空の状況でさえ集団に属する人々は現状維持を好み、積極的に行動することを避ける傾向が見られたことから、研究チームは「ある意味で対人コミュニケーションは、集団的な安心と引き換えに実際のセキュリティを低下させる可能性があります」と指摘。集団は「災害が起きる」といった不都合な真実を拡散しにくいことから、「ソーシャルネットワークは人々が無視したい真実を伝える経路として、上手く機能しないかもしれません」と、研究チームは述べました。

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in メモ, Posted by log1h_ik

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