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ゲームの中で登場する「魅力的な架空の武器」はどのようにデザインするのか?


League of Legendsの運営・開発元として知られるゲームメーカーのRiot Gamesが、同社の新作タイトルでありベータ版が先行配信中のFPSVALORANT」に登場する武器をどのようにデザインしているかについて、ブログの中で解説しています。

The Craft and Fantasy of VALORANT Weapon Skins
https://beta.playvalorant.com/en-us/news/dev/the-craft-and-fantasy-of-valorant-weapon-skins/

VALORANTにおける武器スキンの制作とファンタジーの実現
https://beta.playvalorant.com/ja-jp/news/dev/the-craft-and-fantasy-of-valorant-weapon-skins/

VALORANTのプロデューサーを務めるPreeti Khanolkar氏が、同作に登場する武器の見た目を変更する武器スキンをどのようにデザインしているかを公式ブログ上で解説しています。同氏はVALORANTの開発でアート部門のリーダーを務めるショーン・マリノ氏と共に、プレミアムコンテンツチームの運営も担当しており、このチームが武器のスキンやガンバディー、スプレーといったカスタマイズアイテムの開発を担当しているそうです。


VALORANTは「あらゆる状況でゲームプレイ優先のアプローチを行う」と武器開発の基本方針について説明しており、スキン開発はあくまでも「他のプレイヤーのゲームプレイ体験を損なわない範囲で」プレイヤーに個性を発揮できる方法を提供することだそうです。

VALORANTの開発チームにおける武器スキンのデザインルールは主に以下の4点です。

・スキンのモデル・外観・ビジュアルエフェクト・アニメーション・サウンドといった要素は、一人称視点でのみ十分に没入感が得られるものに仕上げること。
・別プレイヤー視点(三人称視点)からは武器のモデル(形状)だけが見えるようにすること。
Pay to Win要素は決して取り入れないこと。
・上記3点のルールに違反するスキンを発見した場合、すぐに修正すること。

VALORANTの開発において開発チームが特に重視しているのは、「プレイヤーが望んでいるか否か」だそうです。Khanolkar氏は「我々は武器スキンをプレイヤーのために作成しています。そのため、我々の素晴らしい開発チームは、プレイヤーからの膨大な量のアンケート結果や、ラボで得られたフィードバックを綿密に精査し、プレイヤーがVALORANTに求めているテーマを探っています。これは、例えばVALORANTが伝統的なSFやハイ・ファンタジーなどのジャンルに傾倒すべきなのか、それとも完全に抽象的なものを作成すべきなのかといった、ゲームの方向性を探る上でも活用されています」と述べています。

テーマが決まったら、続いてアイデア出しが行われます。コンセプトアーティストにラフスケッチを頼んだり、既に取り組んでいるアイデアを拡張したりすることで新しいアイデア生まれることもあるそうです。以下の写真はホワイトボード上に130枚以上のふせんを貼ったアイデア出しの様子を撮影したもの。Khanolkar氏は開発チームが行ってきたアイデア出しについて「我々はブレインストーミングの初期段階において、その場で生まれたひらめきが話題にあがっても『それで?』と尋ねるようにしています。決して、『ダメだ』とは言いません」と説明しています。


複数挙がってくるアイデアの中で、採用されるものと採用されないものをどのように区別しているかというと、開発チームは各アイデアに対して複数の問いかけを行うそうです。また、アイデアに賛成するメンバーと反対するメンバーを集め、アイデアからコンセプトを作り出す作業を行い、アイデアをゲームの中で表現する具体的なイメージに昇華していくとのこと。

・アイデアを言い表す形容詞は何か?
・アイデアにはどんな主題歌がピッタリか?
・アイデアからなる世界観をひとつのアートで表現できるか?
・別次元の世界ではどんな人がこの武器を使用しているか?
・武器の素材は何か?
・武器を使用した際、プレイヤーにどのように感じてもらいたいか?武器の雰囲気はどんなものか?
・プレイヤーがこの武器スキンを初めて見た際に「おおっ!」と驚く点は?

Khanolkar氏は「実際に何を作ろうとしているのかを明確にせずに、スキンの作成を始めたいとは思いません」「これらの質問に回答することで開発チームの考えをまとめ、ゲームの全体的な体験がまとまりのあるものとなるように、ビジョンを統一します」と説明しています。

開発チームによるアイデア出しが終わり、採用されるアイデアが決まったら、コンセプトアーティストが時に抽象的なアイデアからスキンのコンセプトアートを作成します。コンセプトアートは複数回にわたりブラッシュアップされ、最終的なコンセプトアートが完成したのち、このコンセプトがVALORANTというゲームにふさわしいファンタジー要素を持ち合わせ、厳格なゲームプレイにおける制限に適合すると判断されれば、スキンのモデルが作成されます。なお、「厳格なゲームプレイにおける制限」というのは、例えば、「そのスキンのモデルがベース武器の一人称視点と三人称視点の両方のシルエットと一致していて、地面に落ちていても認識可能である」などだそうです。


また、新しい武器スキンのアニメーションがベースとなる武器の印象を維持する必要もあります。その理由は、同じ性能の武器を使用しているのに使用感が変わってしまうとプレイヤーに不利益が生じるためです。なお、Khanolkar氏は「新しいスキンを使用したとしても、武器の動作を再学習する必要はありません。射撃の感覚は同じであるべきで、遅く感じるようなことがあってはいけません。また、早く感じることがあってもOKですが、実際に動作が早くなってはいけません」と、シューティングゲームならではの調整ポイントも明かしています。加えて、FPSであるため「同一の武器ながらスキンによって画面占有率が変わってしまう」ということがあってはいけないともKhanolkar氏は説明しています。

ただし、非常にまれなケースではあるものの、武器スキンの持つファンタジー要素を守るために、時に例外を設けて上記のルールの一部を破ることもあるそうです。例えば、同一武器の画面占有率がスキンによって変化するというのは本来あってはならないことですが、装備時のアニメーションによりスキンの画面占有率がほんの少しだけ大きくなってしまうことが「許されるケースもある」とのこと。ただし、大量のテストやPay to Win要素とは無縁かが確認されたのち、承認されます。


さらに、VALORANTでプレイヤーが集中することは、キルやスパイクの設置・解除など、勝利に直結するアクション自体です。これが武器のスキンにより変わってしまうことを開発チームは危惧しています。そのため、武器スキンに関連したビジュアルエフェクトは「カッコイイ見た目であるべきですが、決して気が散るようなものであってはいけない」とKhanolkar氏は説明しています。そのため、VALORANTでは武器スキンによってマズルフラッシュの形や大きさには変化がなく、弾丸の軌道は発射した人の一人称視点でしか見えないように調整されています。

VALORANT Closed Beta Reaver Animation - YouTube


さらに、武器スキンでファンタジーを適切に表現するために必須の要素が効果音です。ただし、スキンによって効果音が異なるため、「特定のスキンを使用するとゲーム中の重要な音を聞き逃してしまうケースがある」といった状況が起きてはいけません。

そのため、武器スキンで新しい効果音を用いる場合、ベースとなる武器の効果音よりも音が大きかったり小さかったりすることがないように調整しつつ、それでも違いがわかるように効果音の選定を行うそうです。また、弾薬のリロード時など、アニメーション内でゲームプレイに関連する部分には必ず音を組み合わせるようにしているのですが、これらのアニメーションで音が再生されるタイミングや音が消えるタイミングを、できる限り同じにするように努めているとのこと。

ベース武器では音が鳴らないタイミングで効果音を鳴らす場合、効果音の追加によりプレイヤーを楽しませることが可能で、スキンのテーマを上手く表現できている場合にのみ実現するようになっています。ただし、純粋に装飾でしかない効果音については、プレイヤーの周囲でゲームプレイ上より重要な効果音が鳴っている際には、ボリュームが低下するように調整されています。


これらのルールを守って設計された新規の武器スキンは、デザインプレイテストチームが1日2回のプレイテストを行うことで、スキンで表現されるファンタジーが想定通りに実現されているかや、ゲームプレイにおける制限が守られているかなどが、再び厳しい目でチェックされます。あらゆるスキンでフィードバックを集め、ゲームの競技性が損なわれないようにしながら、ファンタジー要素をいかに表現できるかを突き詰めていくとのこと。デザインプレイテストチームは開発チームの中で最も厳しい批評家であり、「だからこそ頼りになる」とKhanolkar氏。

デザインプレイテストチームからのフィードバックのうち、実際にスキン改善の役に立ったものとして、「とても気が散るのでゲーム内通貨で買いたいとは一切思わない」「走っているアニメーションの速さや滑らかさ、反応性が、ベースの近接武器を持って走っているときと同じとは感じられない」「クラシックさを感じられない。実際に与えられるダメージ量が、効果音やビジュアルエフェクトから得られる印象と一致しない。かっこいいけど、ゲームプレイに少し悪影響がある。また、モデルがかなり大きい」といった、かなりシビアな意見が挙げられています。

なお、VALORANTの開発チームは武器スキン制作が成功したか否かは、「プレイヤーの意見を聞いた時に判明します」としており、正式版がリリースされればより多くの意見が得られるようになり、より良い武器スキンを制作できるようになるとしています。なお、VALORANTは日本では2020年6月2日に正式リリース予定となっています。

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in 動画,   ゲーム,   デザイン, Posted by logu_ii

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