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マスクの製造は想像よりも難しい、その理由は?


くしゃみなどで他人の体液を吸い込んでしまう飛沫感染と、直接的な皮膚接触や物体表面を介した接触感染によって新型コロナウイルスの感染が拡大すると(PDFファイル)考えられているため、こういった感染を抑えるとされている「マスク」の需要が世界中で急増しています。この需要急増に伴って「マスク不足」が世界中で生じているわけですが、「マスクの供給を増やすのは想像よりも困難」と、アメリカのラジオネットワークであるナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)が報じています。

Coronavirus Spurs Demand For Face Masks — But They're Surprisingly Hard To make : Goats and Soda : NPR
https://www.npr.org/sections/goatsandsoda/2020/03/16/814929294/covid-19-has-caused-a-shortage-of-face-masks-but-theyre-surprisingly-hard-to-mak

中華人民共和国国家発展改革委員会は2020年2月末の段階で「マスク生産能力が1日あたり1.1億枚に達した」と発表しましたが、当局の号令によっておむつや生理用ナプキンなどの繊維製品を製造していた企業だけでなく、iPhone自動車を製造していた企業までも「マスク事業」に編入。マスクの生産能力を強化し続けています。


上海市に本社を置く寝具会社Mercury Home Textilesは上海当局の指示を受け、わずか数日で防護服の製造を開始。1週間経たずに1日当たり3000着を製造できるようになったと報告しました。吉林省長春市の下着製造業Hejie Streetはマスク事業に転身を果たし、原材料の入荷遅延やパイプ凍結などのトラブルに見舞われましたがわずか8日で製造を開始しています。NRPは中国のマスク生産能力に関して、2020年3月16日の時点で「1日あたり2億枚のマスクの製造が可能で、2020年2月初頭に比べて生産能力は20倍以上に拡大している」と述べています。

しかし、多くの製造業がマスク事業に目を向ける中、質の高いマスクの製造は困難だとNPRは指摘しています。中華人民共和国国家発展改革委員会の発表によると、中国が1日に製造する2億枚のマスクのうち、医療関係者が使用できる水準の「N95マスク」はわずか60万枚のみ。当局はこのN95マスクを増産しようと試みていますが、「失敗に終わっている」とNPRは記しています。

by phot0geek

N95マスクは、「メルトブローン」と呼ばれる製法で作られた極細繊維不織布が不可欠です。メルトブローン製法によってできる不織布は、直径1ミクロン未満というナノ単位の繊維が織り込まれており、害のある微粒子を通しません。しかし、メルトブローン製法に用いられる産業機械は、その性能故に導入が困難という問題を抱えています。

メルトブローン製法の産業機械に必要なシリコンダイを作成する世界でも数少ない企業であるHills Inc.のティモシー・ロブソン氏は、中国の製造業における「生産ラインの品質」の問題を指摘。「メルトブローン製法の産業機械はトースターのように、『買ってきてすぐ使える』ようなものではありません。中国には欧米のような工場もありますが、地面がむき出しの掘っ立て小屋で、出荷する商品も見かけ倒しという工場もあるんです」とロブソン氏は語りました。

by Kai Hendry

問題は生産ラインの品質だけではありません。アメリカやドイツ、日本からメルトブローン製法の産業機械を中国国内に輸入販売するHaigong MachineryのLeo Liu氏は「メルトブローン製法の産業機械は製造に6カ月かかる上に、搬入してから組み立てるのに1カ月を要します」とコメント。マスク製造に参入しようとLiu氏に話を聞きに来るメーカーは多いものの、導入までのプロセスとそのコストを知ると、どの会社も諦めるそうです。

以上のように、メルトブローン製法に用いられる産業機械は中国国内でも数が限られています。それゆえ、メルトブローン製法による不織布は価格が高騰しつつあるとNPRは指摘。メルトブローン製法の不織布のサプライヤーである中国のXuzhong Guohongは、「新型コロナウイルス騒動以前は、メルトブローン生地の販売価格は1トンあたり6000ドル(約66万円)未満でした。しかし、現在はその10倍である6万ドル(約660万円)にまで達しています」と述べ、この価格高騰の原因が供給不足にあると語りました。

N95マスクを1日に20万個製造しているというShengjingtongのGuan Xunze会長は「製造は簡単なものではありません。耳に引っかける輪や、マスクが鼻筋にピッタリ張り付くようにする金属帯、そしてパッケージなど、巨大な製造システムが必要です」とコメント。同社は地方自治体からメルトブローン不織布の提供を受けているため、不織布の価格高騰の影響は受けていませんが、Xunze会長は「事業開始時点では従業員は30人でしたが、地方政府は当社に180人を追加で割り当てました」と経営にまで政府の指示があると主張。「利益はほとんどありません」と語りました。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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