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地域社会に属する多くの人々が一斉にトラウマを抱えてしまう「集団的トラウマ」とは?


悲惨な出来事を経験したり深い悲しみを覚えたりした人が、その後も長年にわたって心的外傷(トラウマ)に苦しむケースがあることは広く知られています。一般に知られている個人的なトラウマと違い、地域社会に属する人々がまとめてトラウマを抱えてしまう「集団的トラウマ」について、エディスコーワン大学で自然災害への対応などを研究するエリン・スミス准教授が解説しています。

Collective trauma is real, and could hamper Australian communities' bushfire recovery
https://theconversation.com/collective-trauma-is-real-and-could-hamper-australian-communities-bushfire-recovery-131555

スミス氏が集団的トラウマという概念のルーツとして挙げるのは、「自殺論」を著したことで知られるフランスの社会学者エミール・デュルケームの研究です。デュルケームは人々が持つ規範・価値観・儀式が社会秩序の基盤であることを指摘し、これらの要素が打撃を受けた社会が回復する上で重要になるという意見を打ち出しました。

集団的トラウマは、予期せぬできごとがコミュニティのつながりを深く傷つけた時に起こります。たとえば1972年にアメリカ・ウェストバージニア州で発生したバッファロー・クリーク洪水では、炭鉱住民の集落が洪水によって激しく損壊し、実に100人を超える人々が亡くなりました。社会学者のカイ・T・エリクソン氏は洪水の翌年にこの地域を訪れ、「コミュニティ全体が恒久的なショック状態に陥っている状態」、つまり集団的トラウマの存在を発見しました。

激しい洪水は単に人命を奪い、社会インフラなどを破壊しただけでなく、コミュニティの関係性や長年にわたって繰り返されてきた生活のルーチンも破壊しました。洪水によって社会的なつながりが失われたことで、被害のあった地域に住む人々は集団的トラウマを発症してしまったとスミス氏は指摘しています。


オーストラリアのトラウマ専門家であるロブ・ゴードン氏は、社会的な断絶や孤立が地域社会の生活に深刻な問題を引き起こし、コミュニティの社会構造そのものを破壊してしまうと指摘。悲惨な災害から回復するにはコミュニティの社会構造が重要な役割を果たしますが、社会構造そのものが破壊されると、災害から立ち直ること自体が困難となってしまいます。

また、集団的トラウマの原因となるのは自然災害だけではなく、戦争や紛争、ジェノサイドといった人為的な災害も、コミュニティが築き上げてきた生き方を破壊し、集団的トラウマを生み出します。近年では、2019年から2020年にかけてオーストラリアを襲った歴史的な大規模火災も、社会的なつながりを壊して集団的トラウマを生み出す原因となり得るとのこと。

これまで、長年にわたってトラウマから回復させるさまざまなアプローチが考案されてきましたが、ほとんどは個人のトラウマに焦点を当てたものでした。それでも、近年ではオーストラリア赤十字社が(PDFファイル)「集団的トラウマを引き起こすイベントに対処するガイドライン」を発表するなど、集団的トラウマへの理解も深まりつつあるそうです。

集団的トラウマから回復させる治療的介入についてはまだ不明なことも多いものの、人々を社会的に再接続させ、コミュニティとのつながりを認識させることが集団的トラウマからの回復には重要だと考えられています。深刻な感染症の流行や自然災害、長引く戦争、紛争、テロ事件といった災害からコミュニティを立ち直らせるため、安心感や社会的つながりを与える仕組みを作ることが大切だとスミス氏は述べました。

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in メモ, Posted by log1h_ik

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