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空き巣が発生した家の前を「自転車で通り過ぎただけ」の男性が容疑者になってしまった理由とは?


2019年3月にアメリカのフロリダ州で発生した空き巣事件で、被害者宅の前を自転車で走っていただけの男性が容疑者として警察に誤認逮捕される寸前になってしまう事態が発生しました。男性にかけられた疑義はその後解消しましたが、記事作成時点では真犯人はまだ捕まっていないとのことです。

Google tracked his bike ride past a burglarized home. That made him a suspect.
https://www.nbcnews.com/news/us-news/google-tracked-his-bike-ride-past-burglarized-home-made-him-n1151761


Google location data turned a random biker into a burglary suspect - The Verge
https://www.theverge.com/2020/3/7/21169533/florida-google-runkeeper-geofence-police-privacy

Bicyclist Becomes Robbery Suspect Due To His Android Location Data Placing Him At The Scene | HotHardware
https://hothardware.com/news/google-geofence-warrant-privacy-scare

Police issue warrant for innocent man's Google information | Daily Mail Online
https://www.dailymail.co.uk/news/article-8086095/Police-issue-warrant-innocent-mans-Google-information.html

フロリダ州ゲインズビルの飲食店従業員であるザカリー・マッコイ氏が空き巣の疑いをかけられてしまった事件は、同地域に住む97歳の女性が空き巣の被害を受けたことに端を発しています。女性は、2019年3月下旬に自宅から結婚指輪を含む合計2000ドル(約20万円)相当の金品がなくなっていることに気付き、地元のゲインズビル警察に被害届を提出。捜査に乗り出したゲインズビル警察は、事件の報告から4日後にゲインズビルを管轄するアラチュア郡裁判所に出向き、Googleに対する捜査令状を取得して、被害者宅の周辺に関する位置情報を入手しました。


Googleが提出した記録をもとに、ゲインズビル警察が被害者宅周囲の不審な動きを分析したところ、空き巣が発生したと思われる2019年3月29日に1台のスマートフォンが被害者宅を1時間に3回も訪問していたことが判明。ゲインズビル警察はGoogleに対し、そのスマートフォンの持ち主の身元に関する情報を要求しました。これを受けてGoogleの法務チームは2020年1月14日に、「7日以内に出廷して抗弁しなければ、警察にあなたの身元を開示します」とマッコイ氏に通知したとのことです。

by Agnes Lopez

身に覚えが全くないマッコイ氏は突然の通知に仰天し、近くに住む両親に相談しました。そして、両親が貯金を切り崩して工面したお金で弁護士を雇い、Googleの情報開示を停止させるとともに、一体どんな記録が原因だったかを確認しました。その結果、ゲインズビル警察がIT企業にユーザーの位置情報を提出させる「ジオフェンス令状(Geo-fence warrant)」に基づき、Googleから被害者宅周辺のAndroidデバイスのGPS・Wi-Fi・電話回線の通信記録を入手していたことが判明。マッコイ氏が自分のスマートフォンでそれらしい記録を探したところ、マッコイ氏に疑いがかかったのはフィットネスアプリRunkeeperの記録が原因だということが分かりました。

マッコイ氏はかねてからサイクリングを日課としており、ちょうど2019年3月29日にも被害者宅の周辺を含むコースを自転車で3周した記録がRunkeeperに残されていました。そこで、マッコイ氏の弁護士がRunkeeperの記録をゲインズビル警察に示したところ、ゲインズビル警察はマッコイ氏に関する身元の請求を取り下げました。しかし、ゲインズビル警察は「マッコイ氏が犯人ではないことを示す情報が見つかった」と述べただけで、取り下げをした理由については明らかにしていないとのことです。


マッコイ氏は危うく逮捕の一歩手前になった時の事を「何も知らないまま起訴されかけたので、本当にすさまじい恐怖に襲われました」と振り返りました。本名でインターネットを使用することが一般的ではなかった時代の習慣で、仮名でGoogleアカウントを取得するなど日ごろからプライバシーに用心していたマッコイ氏ですが、自分が「Googleによる位置情報の収集」に同意してしまっていたことにはまったく気づかなかったとのことです。

アメリカのニュースメディアNBC Newsの調べによると、FBIを含む警察機関からGoogleに送付されたジオフェンス令状は2017年から2018年にかけて16倍に急増。2018年から2019年にかけても、6倍へと増加しているとのこと。マッコイ氏の弁護士を務めるカレブ・ケニヨン氏は、こうしたジオフェンス令状による捜査は、憲法に違反するプライバシーの侵害だと訴えています。

警察機関がGoogleから犯人と決まったわけでもない市民の位置情報を入手することの是非については、かねてから盛んな議論が交わされています。

警察がGoogleに「容疑者捜索のため」としてユーザーの位置情報を提供するよう求める - GIGAZINE

by Downing Street

こうした事態に対し、Googleは2020年2月に、位置情報を収集するアプリへの制限を強化する方針を打ち出しました。一方で、リンゼー・グラム上院議員らを中心とした超党派の議員らは、SNS上での児童ポルノの氾濫防止などを目的にIT企業によるエンドツーエンド暗号化を規制する法案を推進しており、プライバシーをめぐる議論は過熱しつつあります。

マッコイ氏の容疑は無事に解消しましたが、ケニヨン氏は「ジオフェンス令状とプライバシーにまつわる大きな問題は依然として解消されていません。泥棒が捕まることを期待してみだりにインターネットをあさるというジオフェンス令状の在り方は、強権的な政府によるディストピア社会を描いたSF映画そのものです」と指摘し、今後も同様の問題が起きることを危惧しました。

NBC Newsによると、記事作成時点のところ今回の空き巣事件ではまだ誰も逮捕されていないとのこと。マッコイ氏は「お年寄りの女性の身に起こったことは本当に残念なことで、警察がその解決に向けて努力しているのは喜ばしい限りです。しかし、警察は捜査のためにインターネットという巨大な網をやみくもに放り投げているようにも見えます。その理由が費用対効果とは一体どういうことでしょうか?あとどれくらいの罪のない人が苦しめられればいいのでしょうか?」と述べて、網羅的な捜査手法に疑問を投げかけました。

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in モバイル,   ソフトウェア,   ネットサービス, Posted by log1l_ks

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