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アルゴリズムで作られた680億曲以上のメロディは「パブリックドメイン」として成立するのか?


著作権に詳しい弁護士でプログラマー兼ミュージシャンでもあるダミアン・リール氏が、680億曲以上、総計600GBを超えるほど大量のメロディをアルゴリズムを用いて作曲し、そのすべてを「いかなる権利も保有せずにパブリックドメインにする」というCreative Commons 0(CC0)ライセンスで公開しました。しかし、IT系メディアのMotherboardがその権利関係に疑問を呈しています。

All the Music, LLC – Helping Songwriters Make All of Their Music
http://allthemusic.info/


Musicians Algorithmically Generate Every Possible Melody, Release Them to Public Domain - VICE
https://www.vice.com/en_uk/article/wxepzw/musicians-algorithmically-generate-every-possible-melody-release-them-to-public-domain

「楽曲が特定のメロディに似ている」という著作権侵害の訴訟では、被告となるアーティストがコピー元とされる楽曲を一度でも聴いた可能性がある場合、それは「無意識にオリジナルのコンテンツを侵害した」とみなされる可能性があります。リール氏は、ミュージシャン兼プログラマーの仲間であるノア・ルービン氏と共に、「アーティストの創造的な自由を侵害すると考えられる著作権訴訟をやめさせよう」と考え、アルゴリズムでメロディを生成し、パブリックドメインとして公開することを考案しました。


リール氏とルービン氏は、メロディの有限性を判断するために、1オクターブという範囲内で考えられるすべての8音・12拍のメロディコンボを記録するアルゴリズムを開発しました。アルゴリズムは、ハッカーがパスワードを推測するために使う総当たり攻撃と基本的に同じ動作を行い、1秒間に30万パターンのメロディを作り出すそうです。リール氏とルービン氏はアルゴリズムをGitHubで公開しています。また、687億曲、容量総計600GBを超えるメロディのデータセットはInternet Archiveで公開されています。

リール氏によるアルゴリズムとメロディの詳しい解説は以下の記事を読むとよくわかります。

「全てのメロディの著作権を取得する」という試みがなぜ未来の音楽を守ることになるのか? - GIGAZINE


アルゴリズムによって作り出されるメロディは、音符を単なる数字で記述するMIDI形式で出力されます。プロジェクトの公式サイトによれば、リール氏とルービン氏は生成したメロディをCC0ライセンスでリリースしています。IT系メディアのMotherboardは「たとえCC0ライセンスでメロディを公開しても、それがパブリックドメインとして認められるかどうかは別問題だ」と指摘しています。

パブリックドメインは政府の著作物であるか著作権の保護期間が終了したものであり、法的にほとんどの著作権が消滅していますが、著作者人格権は保護されています。一方、著作者人格権を含むすべての権利放棄を宣言するCC0はライセンスとしては限りなくパブリックドメインに近く、著作者人格権が放棄されていることでむしろパブリックドメインよりも自由に他者が著作物を扱うことができるといえます。

しかし、CC0は「著作者人格権を含むすべての権利を放棄する」と宣言するライセンスであるものの、最終的には国の法律によって権利放棄が認められるかどうかが判断されます。また、ライセンスは変更される可能性もあるため、絶対的なものではありません。実際に、SpaceXがCC0ライセンスで公開していた公式写真をCC2.0に変更して話題となりました。

SpaceXが公式写真のCCライセンスをひっそり変更、「混乱を招く」という批判も - GIGAZINE


つまり、裁判で使うために生み出された膨大な数のメロディはCC0ライセンスでパブリックドメインを宣言されていても、法的にはパブリックドメインとして認められていないため、法的にはかなり微妙な存在であるとのこと。リール氏自身も「著作権法の下では(MIDI形式データの中身である)数字は法的事実であり、著作権法の下では法的事実はギリギリ著作権を持つか、ほとんど著作権を持たないか、まったく著作権を持たないかのいずれかです」と述べていますが、「もしこれらの数字が昔から存在していて、それを取り出しているだけならば、(オリジナルを主張する)メロディは著作権で保護されないかもしれません」と語っています。

「メロディが似てる」と訴えられたアーティストにとって、アルゴリズムによって作られたCC0ライセンスのメロディを示すことで、訴訟を切り抜けることができるとなれば心強いものですが、法的にパブリックドメインとして認められない可能性がある以上、リール氏のメロディが法廷における武器として機能するかどうかは怪しいところ。それでも、リール氏は「メロディだけについていえば、アーティストに対する著作権訴訟は減り、訴えが却下されるようになるかもしれません」と楽観的に語っています。

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in ソフトウェア, Posted by log1i_yk

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