サイエンス

水質汚染の原因になる「ビール廃棄物」で逆に水をきれいにするプロジェクト


クラフトビール造りが盛んに行われているアメリカでは、クラフトビール産業が下水に排出する廃水が深刻な問題になりつつあります。そんな中、ビール造りの副産物として発生する廃棄物が、逆に下水問題を解決する糸口となった事例が報告されています。

Beer Waste Helps Montana Town Save Money On Water Treatment : NPR
https://www.npr.org/2020/02/12/804586191/beer-waste-saves-montana-town-1-million-on-water-treatment

アメリカ・モンタナ州の都市ボーズマンの浄水施設が処理する廃水は、1日当たり600万ガロン(約2億3000万リットル)に及び、その中には約5万人の地域住民の生活排水と10カ所のビール醸造所から出る廃水が含まれています。

特にビール醸造所からの廃水には、酵母やホップなどを由来とした窒素分とリンが多量に含まれており、水質汚染の原因となってしまいます。しかし、エンジニアリング・コンサルタントのCoralynn Revis氏によると「醸造所からの廃棄物がしかるべき時に、しかるべき場所にあれば、むしろ水の浄化におおいに役立ってくれます」とのこと。


2017年に「ビール醸造所の廃棄物が、水を浄化する微生物のエサになる」というアイデアを思いついたRevis氏は、ボーズマンにある浄水施設の管理者やビール醸造所の所有者と協力して、実際に「ビール廃棄物」で水を処理するプロジェクトをスタートさせました。

最初の2年間は試行錯誤が続きましたが、最終的にプロジェクトチームは、ビール廃棄物をいつ、どれだけ投入すればいいかを特定することに成功。微生物のエサとして購入していたミョウバンをビール廃棄物に置き換えることで、年間約1万6000ドル(約175万円)のコストを削減することができるようになりました。

しかもこの浄水施設では、より厳格で安全な水質基準を満たすため、100万ドル(約1億1000万円)を投じた改修が予定されていましたが、プロジェクトのおかげで改修せずに新基準を満たすことが可能になったとのことです。


プロジェクトに参加したビール醸造所のオーナーであるマイケル・ガリティ氏は「醸造と発酵に関する知識があるのに、なぜ今までこれをやらなかったのか不思議なくらいですよ」と話しました。浄水施設の管理者であるDrue Newfield氏によると、微生物のエサとして使用したビール廃棄物は、処理過程で完全に消えてなくなってしまうとのことです。

Revis氏らの取り組みは環境保護庁の目にも留まり、同庁が主催する水質浄化プロジェクト評価プログラム「(PDFファイル)PISCES Program 2019」に見事入賞を果たしました。


Newfield氏はこれについて「表彰してもらうためにやったのではありません。『最高の仕事をやり遂げるにはなにをすればいいか?』を考えただけですよ」と述べました。Revis氏らのプロジェクトチームの元には、モンタナ州の内外から問い合わせが殺到しているとのことで、今後はさまざまな課題に挑戦しつつ、ビール廃棄物を廃水処理に生かす取り組みを拡大させていく計画だとのことです。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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