インタビュー

『カイジ ファイナルゲーム』原作・脚本の福本伸行さんにインタビュー、週刊以上のペースで話を作り続けて「千夜一夜物語でも生き残れる」というストーリー巧者


週刊ヤングマガジン連載の人気漫画「カイジ」を原作として、藤原竜也さん演じるカイジが評価の高い実写映画シリーズの最終章『カイジ ファイナルゲーム』が2020年1月10日(金)から公開となりました。前2作は原作をベースにした展開がありましたが、本作は原作者・福本伸行さんの手による完全オリジナルストーリーで、“日本の派遣王”黒崎義裕らと4つのオリジナルゲームで戦うカイジの姿が描かれます。

福本さんはいかにこの最終章を生み出したのか、映画以外の創作についてのことも含めて、いろいろなお話をうかがってきました。

映画『カイジ ファイナルゲーム』公式サイト
https://kaiji-final-game.jp/

吉田鋼太郎さん演じる黒崎と、藤原竜也さん演じるカイジとのバトル。


GIGAZINE(以下、G):
福本さんは2010年に「カタリダス〜MAKE IT GREAT〜」という番組に出演したとき、「感情」と「ネタ」に重きを置けばマンガは面白くなるというプレゼンテーションをしていました。本作も映画として「感情」と「ネタ」を組み合わせるようにして生み出されたのでしょうか。

福本伸行さん(以下、福本):
今回、映画が3作目だということで、1作目・2作目を見た人でも「そうだ、『カイジ』はこういう映画だったな」と感じられるものにしようと考えました。映画だと感動をウリにするものがありますけれど、結果として感動するものなのであって「感動を作る」というのはおかしいですよね。だから、カイジの世界観を、「ネタ」も含めてしっかりやっていこう、カイジがいろんなことを思ったり感じたりする姿を描こうと。

G:
本作では「バベルの塔」「最後の審判~人間秤~」「ドリームジャンプ」「ゴールドジャンケン」と4つのオリジナルゲームが出てきますが、これはどのような順番で思いついたのですか?

福本:
「バベルの塔」と「最後の審判~人間秤~」が同時ぐらいだったかな。「バベルの塔」はいかにも入口のゲームであって、これを軸に話を作ることはできないだろうと思いました。一方で「最後の審判~人間秤~」は、「人間って最後はなんなの?」と思わせるようなすべてをお金に換算する勝負で、ギャンブルですらないんですけれど(笑)


G:
(笑)

福本:
でも、これは難しいけれど、うまく表現できれば面白いんじゃないだろうかと考えました。


G:
「ドリームジャンプ」と「ゴールドジャンケン」は、それぞれ最初にゲームの舞台を見たとき、過去に登場した「鉄骨渡り」や「限定ジャンケン」をアレンジしたようなものなのかと思いましたが、ゲームの中身はまったく異なるものでした。

福本:
「ドリームジャンプ」は最初「デスバンジー」という名前にしようかと考えていました。そのまま、バンジージャンプですからね。

G:
確かに(笑)

福本:
ある種の救済ですよね。死んじゃってもいいと考えている人たちを集めて、勝ったら大金を得て生き永らえることができる。帝愛グループからすれば「無駄死によりはいいだろう」という発想です。そういう世界観もいかにも「カイジ」っぽいし、それをいかにくぐり抜けるか……というのが「ネタ」の部分ですが、「運が良くて勝ち残った」とはしたくなかったんです。

G:
なるほど。「カタリダス〜MAKE IT GREAT〜」では、言葉のチョイスについて質問を受けて、小説のかっこいいセリフや言い回しに傍線を引いていたという話が出ていました。

福本:
引いていましたね。山本周五郎とかをよく読んでいて、主人公が絡まれたときに言って様になるセリフとかあるじゃないですか。それは、赤木しげるなら赤木らしいセリフが、カイジなら赤木とはまた違うセリフがあるはずで、そういうのがいいなぁと思っていました。山本周五郎ではないですが、たとえばチンピラ同士がケンカを始めるときに「さあ、パーティーの始まりだ!」なんて言うのも、気が利いててなんかいいなぁと思いますし、まったく意外なことを言っているのに存外的を得ているとか、そういうのもいいですよね。

G:
本作では脚本として福本さんと徳永友一さんがクレジットされています。福本さんの担当した分量はどれぐらいあったのでしょうか。

福本:
基本的なアイデアについては9割とか9割5分ぐらい出していて、セリフもストーリーの組み立てもほとんど僕がやっています。僕が文章で書いたものを送って、来たものを直して、という作業を8回くらいはやったんじゃないかな。

G:
8回!なかなか大変ですね……。

福本:
徳永さんはプロの脚本家で実力のある方ですが、なにぶん、マンガとは違って演じる役者さんがいて、いろいろと状況が切り替わるので、ネタそのものはいじれないけれど、細かい点を変更したりすることがありました。

G:
なるほど。直しにあたっては徳永さんと相談するのですか?それとも、佐藤監督と相談して進められたのですか?

福本:
監督はたぶん、途中では口を挟んでいないんじゃないかと思います。直すときは、戻ってきたものに対して僕が「じゃあ、こことここのセリフを変えよう」と手を入れて、それを持って徳永さんとプロデュースの方と打ち合わせをして、という形の繰り返しでした。

G:
ということは、かなり時間をかけて作り上げたんですね。

福本:
かかってるんですよ~。もう、割に合わないぐらい(笑)。映画だと「尺」の都合というのもあるのですが、最初はとりあえずうわーっと全部出して、ページ数や時間のことは考えずに肥満気味のものを作り、それをどんどんシェイプアップしてという作り方でした。

G:
作業時間はどれぐらいかけられたのですか?

福本:
どのぐらいだろう。途中で間が空いているし、基本は漫画を描いているので、そんなには多くないと思います。戻ってきたものが僕の手元でストップしている状態が一番時間のムダなので、できるだけ早めにチェックして打ち合わせするようにしていたから……ペースとしては1カ月に多くて2回会うぐらいのペースでしたよ。公開までに時間がかかったのは、完成直前でいったんストップしてしまったからで、それがおととしぐらいに再び動き始めたので、後半の作業量は前半を4としたときに1ぐらいの割合です。

G:
脚本チェックを手元で止めている時間がムダなので早めにチェックした、という話が出ましたが、その間も漫画は描き続けていたわけですよね。ふだん、締切はどのようにして守っているのですか?

福本:
僕は基本的に先行するタイプ。先行して描き溜めているんです。ペースとしては月6本描いていたこともあるし、描き溜めがあるから締切に追われることはないです。

G:
おお。

福本:
最近ちょっと作業が滞った時期、久々に締切に追われることがあって、「これは体に悪い、やっちゃいかん」と思いました。

G:
体に悪い(笑)

福本:
体に悪いし、あんなことしていちゃダメです。人間として心が病みます。やっぱり先行しないとね。編集は漫画家をマシーンだと思っていて「1週間あったらできるでしょ?」なんて思ってますから!

(一同笑)

G:
「カイジ」の作り方について、2009年のインタビューで、まずギャンブルのアイデアやネタをきっちり決めて、その上で効果的にするためにどういう人間を巻き込むか決めていくと答えていましたが、今もこうした作り方をしているのですか?

本作でもいろいろな人々がカイジの戦いに巻き込まれていきます。


福本:
そうですね、まずは勝ち方が大事です。勝つ理由というのか、そこが面白くなければダメです。その上でゲームがあり、仲間が加わり、時には裏切られる、というのがドラマとしてあります。それをどうすればもっと面白くできるか、気の利いたトリックをどうすればよりよくできるかと考えていきます。たとえば、カイジ1人の命がかかっているよりも、カイジの選択に100人の命がかかっていた方がしびれるじゃないですか。


G:
確かに(笑)。そのアイデアはどのようにして生み出しているんですか?机の前でじっと考えているのか、動き回っているのか、それとも常日頃から考え続けているんですか?

福本:
基本的には机ですが、根本的に面白いアイデアというのはふっと出てくることがあります。ただ、アイデアの時点だと強引すぎて漫画の中に落とし込むために煮詰める必要があって、そこが大変ですね。「アイデアを考える」のにも2種類あるんだと思います。

G:
2種類ですか。

福本:
1つは、ぽーんと思いついて「ああ、これ面白い」という部分。もう1つは、その「面白い」を作品のために煮詰めていく部分。これが両方あるんだと思います。

G:
「カイジ」ではいろいろな大勝負が繰り広げられていますが、福本さんにとっては「カイジ」の連載ができるかどうかも「人生の勝負」だったのではないかと思います。2016年に行われた企画展の編集者座談会の中で「他の漫画家が限定ジャンケンを描かないようにと祈っていた」「それだけ、絶対に成功しようと思っていて。いわば、人生の分かれ道、勝たなきゃいけない勝負だと。『カイジ』の連載が始まったとき、僕は37歳。そういう意味では、漫画家として売れるまでにだいぶ時間がかかりましたね」と発言しておられますが、実際に「人生の勝負」を経験した立場として、勝負事に勝つために必要なものは何だと考えていますか?

福本:
よく言われるんだけれど……やる前から勝っていたのかもしれないね。これより前に「銀と金」や「アカギ」を描いていたので、ボクサーでいえばすでにトレーニングは積んでいた状態だったんです。もちろん「絶対に勝たなきゃいけない、連載したい」とは思っていたけれど、無理に力むという感じではなくて、もし実力が足りていれば連載できるし、実力がまだ届いていなければ出直さなきゃなと。だから、ヤンマガで通用する実力というのがこの時点であったということで、結果はもう出ていたのかなと。

G:
おぉ……なるほど。

福本:
あと「限定ジャンケン」というネタが世に出ていなかったというのもあります。新しいものというのは面白いですから。その新しいことにチャレンジできるというのは、作家として幸せなことでした。

G:
1997年に「カイジ外伝」がヤングマガジン増刊赤BUTAの12号に掲載された際のインタビューによると、「カイジ」は当初、前後編2話ぐらいで予定されていたという話が出ていました。いったい、どういう話が予定されていたんですか?

福本:
もともと「カイジ」を描くという話だったわけではなくて、「ギャンブル漫画を描いて欲しい」という話でした。当時、すでに「銀と金」とかを描いていたから、見どころのある漫画家に前後編ぐらいで描いてもらおうという話だったわけですね。ところが、話をしていったらとても前後編に収まらないものになり、5話ぐらいは必要だなという話になって、ある段階からは普通の連載として始めようというニュアンスになっていった感じです。

G:
では、どのようにしてその作品は「カイジ」になっていったのですか?

福本:
企画としては主人公の名前すらなかったんですよ(笑)。そこに「カイジ」という名前をつけたのは、あまりかっこいい名前にはしたくなかったからなんです。「シュン」とか「リョウスケ」とか、なんとなく爽やかなイメージがありますよね。かといって「タロウ」とか「マモル」「しげる」では……あっ、これは「アカギ」だ。

(一同笑)

福本:
でも、「赤木しげる」がカッコいいのは「赤木」+「しげる」だからで、「吉田」+「茂」ではずいぶん偉い人になっちゃう。

(一同笑)

福本:
それで、できればダサい名前にしようということで「カイジ」にしたんです。どこか骨太な感じのね。「アカギ」はカッコいいなと思います。

G:
なるほど、それで「カイジ」に。この流れからはちょっと離れてしまうのですが、福本さんの経歴を調べると、Wikipediaの「福本伸行」の項目に、中学時代に「ベルサイユのばら」を買ったという話が出てくきます。他にはソースが見つけられなかったのですが、なぜ「ベルばら」を?

福本:
あっ、それは買ったことないな。

G:
おっと、失礼しました。高校の卒業後は建築会社に就職し現場監督をしており、何か一発当てようと漫画家を目指したということなのですが、「一発当てる」にしてもいろいろとある中から、なぜ漫画家を選んだのですか?

福本:
僕が18歳のころ、「ぎんざNOW!」という番組で関根勤さんたちが出てきたように、素人がテレビに出るようになるのを見てきました。他に、シンガーソングライターとか、小説家とかもありました。その中で、なんとなくだけれど向いているのは漫画家じゃないかなと思ったんです。

G:
漫画はかなり読んでいた方でしたか?

福本:
いや、まったく。もう、すべてが平々凡々ですよ。それこそ、小学校、中学校ではそれなりに勉強できたけれど、高校になったら勉強しなくなってわからなくなったし、映画も人並みには見ているけれど人並みだし、小説も読んでいるけれど人並みだし……。絵もうまくはないんですけれど、なんなんだろうね。それこそ、「ワニの初恋」という単行本の末尾に最初に持ち込んだ作品が掲載されていますけど、知り合いに「よくこれで漫画家を目指したな、俺だったら目指さないよ」と言われて「確かに」って思いました(笑)。スクリーントーンの存在も知らなくて、薄墨で塗っていましたし。


G:
すごい……。

福本:
よくこれで漫画家になれたなって、まさにそうだなと。でも、強みでもあるんです。建設会社を3カ月で辞めたあと、かざま鋭二先生のアシスタントに入ったんですが「自分は画力がないから、話作りで上がっていくしかない」とずっと思っていました。それからこうして60歳を過ぎるまでずっと、あるときからは週刊ペース以上で話を考え続けています。「アラビアンナイト」、千夜一夜物語ってありますよね。

G:
はい。

福本:
1週間に1話作ってきていたとしても、僕は二千夜ぐらいできますから、絶対に生き残れますよ。

(一同笑)

G:
そうやって数えるととんでもない数ですね。ちなみに、福本さんがこうしてギャンブル漫画を描くようになったのは「仕事が取りやすいから」という理由だったというのは本当ですか?

福本:
これは本当です。1980年代にメジャー誌では仕事が取れませんから、麻雀やパチンコの漫画を描くようになりました。雑誌がたくさんある一方で、僕は一人で話が作れるから重宝されていました。最初にかざま先生のところでアシスタントをして、うまい絵を1年半見ていたおかげで積み上げがあったことはすごく大きかったです。

G:
アシスタント時代のことがしっかり土台になっていた。

福本:
連載とまではいかなくても、ちょうど死なないぐらいに仕事をもらえる状況もよかったです。俺、読み切りばっかり描いていたから、読み切りを描く力がついて。読み切りって1話で完結するから連載よりも難しい部分もあると思うんですが、それを作り続けたおかげで、話作りは相当鍛えられたと思います。


G:
鍛えられた力により、4つもオリジナルゲームが入った『カイジ ファイナルゲーム』の脚本も生み出された、というところですね。本日はありがとうございました。

映画「カイジ」シリーズの最終章『カイジ ファイナルゲーム』は2020年1月10日(金)から公開中。数々のギャンブルはもちろん、悪魔的にウマそうなごはんも出てくるので、ぜひ楽しんでください。

映画『カイジ ファイナルゲーム』予告 - YouTube


なお、「カイジ」がどんな作品か3分でわかってしまう映像も公開されているので、原作漫画やアニメ、これまでの映画を未見の人も安心です。

甘えるな!!世間はお前らのお母さんではない!!だけど今回はファイナルゲームを楽しむために特別に教えてあげるスペシャル映像 3分で理解るカイジ - YouTube

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