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有意義な会話を成立させるための戦略「アフォーダンス」とは?


雑談や会話をしている時、話がうまくかみ合わなかったり話を切り上げたいタイミングがずれたりと、うまく会話が成立しないことがあります。素晴らしい会話や有意義なやりとりを生み出すために活用できる「アフォーダンス」の概念について、教育や心理学を専門とするライターのケビン・ディキンソン氏が複数の研究を要約する形で解説しています。

4 key strategies for great conversations - Big Think
https://bigthink.com/the-learning-curve/4-key-strategies-for-great-conversations/


ディキンソン氏は会話がうまく成立しない状況のことを、アニメーターのフリッツ・フレラング氏の名前をとって「フレラングのドア」と表現しています。フレラング氏は主に1930年代から1960年代に活躍したカートゥーンアニメーターで、当時のカートゥーンアニメではしばしば「キャラクターAが別のキャラクターBを追いかけて同じ扉をくぐると、Aは右側の扉から顔を出すのに、Bは左側の扉から顔を出して、いつまでも捕まらない」というようなギャグが用いられました。うまくいかない会話も同じで、バラバラにつながった廊下を走り回ってただアニメの時間を埋めているだけのように、不毛な状態にあるとディキンソン氏は述べています。


また、会話が終わるタイミングも双方が納得する形であることは少ない可能性があります。認知科学や心理学を扱う学術誌「Psychological and Cognitive Sciences」に掲載された論文「会話は人々が望んでいるときに終わりますか?」では、会話がどのように始まり、展開し、終わるのかについて、932件の会話を対象として研究しました。結果として、親しい間柄でも、見知らぬ人同士の会話でも、両方が望んで終了する会話はほとんどなく、会話を継続したいと希望する時間と比べて実際の会話時間の差異は半分程度であることが示されています。

研究者らはこの結果について、囚人のジレンマなどの特定のゲーム理論に例えました。囚人のジレンマとは、お互いに協力することがお互いにとって良い選択だと理解していても、協力しないことで利益を得る条件があり、相手がどう選択するか分からない状況だと、お互いに協力しなくなり全体にとって悪い結果になるという理論です。会話はお互いに一致する目標を持っていないことが多く、仮に同じ希望の会話時間や目指したい結論を持っていたとしても、それを理解していないことが多いため、どちらのためにもならない形で会話を切り上げてしまうことがあります。


論文の主著者である心理学者のアダム・マストロヤンニ氏は、会話に関する研究を総括した結果、多くの会話上の困難は「ギブアンドテイクの不均衡から生じます」と結論付けています。マストロヤンニ氏によると、会話のきっかけを与える人は常に奉仕的である一方で会話の中身は相手に任せており、それを受ける相手は会話を盛り上げていると感じていますが、話題に応えているだけで熟慮された応答を提供していないことが多いそうです。マストロヤンニ氏は、「与える側も受け取る側も、その会話が100%正しいということはなく、両者は相手が改宗するか死ぬしかないという双方の主張で対立します。私たちは、相手に異端審問を課すのではなく、自分自身の会話のテクニックを完成させることに集中するべきです」と述べています。

そこで、会話のギブアンドテイクの代わりにマストロヤンニ氏が提案しているのが、「アフォーダンス」のテクニックです。フォーダンスとは、「与える、提供する」という意味を持つ言葉を由来とする用語で、環境が動物に対して与える意味のこと。心理学においてアフォーダンスは「誰かが行動する機会を与える環境の特性」という意味でも用いられ、例えばドアノブがある場合、「このドアは開け閉めできる」とほとんどの人が認識し、「扉を開けたい」「扉が開くのが怖い」というような感覚を呼び起こします。


会話においては、アフォーダンスは「ドアを開くキッカケ」を提供することで、相手は好きなようにドアノブをつかんで開き、一緒に扉を通り抜けることができるとマストロヤンニ氏は述べています。一方で、アフォーダンスを面倒くさがって話題をギブアンドテイクの形にすると、与えた話題に相手が従うことに期待して話題から話題へと駆け足で移動することになり、フレラングのドア状態に陥ります。

アフォーダンスを具体的に実施する方法として、アメリカ企業のリーダーのコミュニケーション能力の低さに落胆しネットワーキングの専門家になったという作家のミッチェル・ティリス・ルデルマン氏は「会話の扉を開けるための戦略」である「良い質問をする」「聞いたことを詳しく調べ、共有する」「共通点を探す」「つながりで終わる」の4つを提案しました。いずれにしても、一言の応答で終わるような話題提起は避け、お互いへの根本的な好奇心を刺激しながら会話を深めていく事が重要です。


アフォーダンスのような洞察力は、人間があいまいさや矛盾に対応する能力であり、人間が持っている独特な創造性の元です。そのため、複数の機能を接続・統合・調整できる計算システムである「汎用人工知能(AGI)」に最も求められるものとして、アフォーダンスを挙げている研究もあります。アフォーダンスに関する議論は、今後のAI研究や進化論のほか、科学哲学にも多様な影響を与える可能性が考えられています。

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ディキンソン氏は「会話がどのように機能するか理解し、アフォーダンスを生み出す方法を把握することで、私たちは会話を追い求める時間を減らし、会話を楽しむ時間を増やすことができます」と語っています。

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in メモ, Posted by log1e_dh

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