サイエンス

科学研究が「誤ったシステム」によって悪い方向に進んでいるという指摘

by Louis Reed

科学研究の再現性が危機に瀕していることは、これまでにもたびたび指摘されてきました。バージニア大学の病理学教授であるジェームス・ジムリング氏は、2019年時点での科学研究のシステムが、サブプライム住宅ローン危機のような事態を招きかねないとして警告しています。

We're Incentivizing Bad Science - Scientific American Blog Network
https://blogs.scientificamerican.com/observations/were-incentivizing-bad-science/

2007年から2009年にかけて、アメリカではサブプライム・ローンへの投資を証券化することで銀行が利益を得ようとする動きが大きくなりました。いったんローンが投資家に売却されると、銀行はリスクを負わないため、適性の有無を問わずに銀行が一般消費者にローンを課すケースが増加。もちろん、消費者の適性を判断する格付け機関は存在しましたが、格付け機関は銀行からお金を受け取っているため、銀行に不利になるような格付けはほぼ行われませんでした。このような仕組みにより、2008年に至るまでには不良債権と持続不可能な負債が積み重なり、最終的にバブルが崩壊しました。

同様のことは科学の世界でも起こりえます。「弱い証拠をもとにたくさん刺激的な論文を発表する人」が「長い時間をかけて十分な証拠を集めて数少ない論文を発表する人」よりも報われ、自分以外の科学者や企業がフォローアップ研究を行ってくれ、論文を発表した科学者がリスクを負わなくてよい世界が、科学界でサブプライム・ローン危機を起こしうる状況だとジムリング氏は考えています。

by RU Recovery Ministries

科学の世界では、新しい科学的発見をした人は発表後、別のイノベーションへと移りがちです。そして出版バイアスもあり、その発見を引き継いだ他者が間違いを指摘しても、一般大衆の耳に届かないことがあります。事実、ドイツの製薬会社であるバイエルは、薬の開発のためバイエルの研究者が科学論文の内容を再現しようとしたところ、全体の65%は再現できなかったという内容を発表しています

これは科学者が詐欺行為を行っているわけでも不正行為を行ったわけでもありません。データは本物であり、観察は実施されました。しかし、「より多くの論文を発表すべき」という競争が存在する科学の世界で、慎重さや自己批判を繰り返し時間をかけてしっかりと証拠を集める科学者は、出世しにくく、リソースが限られ、功績が目立ちにくいという状況があります。サブプライム・ローン問題の1つは、銀行にとってローンの質が意味のあるものではなくなった事にありましたが、同様のことが科学の世界でに起こりつつあるとのこと。


もちろん、科学界では論文の質を管理するために「査読」のシステムが導入されています。しかし、近年はオープンアクセスジャーナルが登場することで、論文発表のシステム全体に変化が生じています。

オープンアクセスジャーナルは、論文を無料でアクセス可能にし、科学論文の公共性を高めることを目的としています。しかし、これまでの出版社が読み手から料金を徴収するのに対し、オープンアクセスジャーナルでは掲載する論文執筆者に料金を求めます。このため、出版側がお金を得るには、出版数を増やすのではなく、記事掲載本数を増やす必要が出てきます。著名なジャーナルに論文が掲載されるのであれば論文著者はお金を喜んで払うと考えられます。これにより、より刺激的な論文が発表され、参考文献が多くなり、ジャーナルの影響力が大きくなり、より多くの論文が提出されるようになるほど、お金が生み出される仕組みが作られます。

by Dmitry Ratushny

過去数十年にわたって科学の世界では美徳と偉業が作り出されてきましたが、21世紀の銀行家のように自主規制が失われ、物の見方や行動が変化してしまう可能性も大いにあります。科学は最終的には自己修正されるものであり、進行中の研究によって過去の不完全な結論が修正されますが、これには多くの時間を要します。

現存するインセンティブの構造を変えるためにリーダーシップが取られない限り、時間や労力を無駄にする研究が促進される状況が続く、とジムリング氏は述べています。このような無駄や研究の遅れは、治療法や技術が確立されていない病気に苦しむ人にとって耐えられるものではないと、ジムリング氏は問題を指摘しました。

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in サイエンス, Posted by logq_fa

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