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60~70年代の音楽レコードのジャケット写真はなぜ「アーティストが巨大な椅子に座りがち」なのか?


60年代から70年代にかけて、洋楽のレコードジャケットや雑誌のグラビアで、アーティストや俳優が巨大な背もたれのついた籐椅子(とういす)に座る写真が流行しました。なぜ巨大な椅子に座った写真が多用されるようになったのかを海外ニュースメディアのVoxがムービーで解説しています。

Why this chair is on so many album covers - YouTube


60年代から70年代にかけて、音楽レコードのジャケットにはアーティスト自身の写真が使われることがよくありました。そして、ジャケットに写るアーティストが決まって座っていたのが、大きな背もたれのついた籐椅子です。


以下の写真は1880年に撮影されたもので、進化論を唱えたチャールズ・ダーウィンが籐椅子に座っている姿が写っています。籐椅子は19世紀末にアジアからヨーロッパへと伝わり、20世紀初頭のガーデニングブームで「開放感のある庭やベランダに置く家具」として大流行しました。


籐椅子は軽くて動かしやすく、通気性も優れているため、常にライトで照らされて蒸し暑い写真スタジオでも重宝されました。


また、写真スタジオで籐椅子が重宝されたのは、「籐椅子は装飾性が高く、華やかで目を引くような写真が撮影できる」という理由があります。


そのため、大型の籐椅子は「写真家の椅子」と呼ばれることもありました。


20世紀前半の政治家や偉人の写真を見ると、籐椅子に座っているものが多く存在します。以下の写真に写っているのは、アメリカ合衆国第33代大統領であるハリー・S・トルーマンで、立派な籐椅子に座っています。そのため、籐椅子は権力の象徴としても捉えられていたとのこと。


そんな籐椅子は、熱帯のツル科植物の茎を手で編んで作ったもの。ヨーロッパやアメリカでも生産されていたそうですが、人気のある籐椅子はほとんどが中国や東南アジアで作られていました。


西洋の椅子のように4本の足が生えたものではなく、以下の写真のように砂時計に似た形状の足をしているものが特に人気だったそうです。


人気のある籐椅子の形は時代と共に変化しましたが、1920年頃に登場した「ピーコックチェア」と呼ばれる、巨大な背もたれのついた籐椅子は特に人気のあるデザインとなりました。


1920年代といえばトーキー映画が登場した頃であり、映画俳優という職業が誕生した時代です。人気のある映画俳優のポートレート写真が多く撮影されましたが、俳優がポートレート撮影で座っていたのがこのピーコックチェアでした。


ピーコックチェアが写る最も古いポートレートは、1914年頃に発表された「ピーコックチェアに座る監獄の鳥」という題名の写真で、籐椅子に座る女性とその娘が写っています


この「ピーコックチェアに座る監獄の鳥」はフィリピンのビリビッド刑務所で撮影されたもので、写っている女性は囚人だったと伝えられています。


当時のフィリピンはアメリカの統治下にあり、フィリピンを観光で訪れたアメリカ人は、ビリビッド刑務所の囚人が作る工芸品を土産として購入していたとのこと。そして、ビリビッド刑務所で作られていた工芸品の1つが、このピーコックチェアだったというわけです。


当時の新聞や雑誌でも、ビリビッド刑務所でピーコックチェアが作られていることが紹介されています。例えば、ファッション雑誌のヴォーグは1916年に「フィリピンの刑務所に立ち寄ってピーコックチェアを買った」というレポートを掲載していたそうです。


1960年代になり、多くの女優がこのピーコックチェアに座ってポートレートを撮影しました。


映画やドラマの中にもピーコックチェアが登場するようになり、アジア生まれのピーコックチェアがアメリカの文化の中に受け入れられるようになりました。


そして同じく1960年代に、音楽レコードのジャケット写真にもピーコックチェアが登場。


ピーコックチェアが写るアルバムジャケットの写真にはいくつかの種類がある、とVoxは分類しています。まずは、足を組んで座ったもの。


胸より上をクローズアップしたもの


グループ全員で並びながら一人だけピーコックチェアに座っているもの


なぜか屋外の開けた場所でポツンと座ったもの


そして、座っているところを真正面から撮影したもの。このタイプでは、アーティストはカメラ目線でこっちをにらみ付けているものがほとんどです。


この「真正面から撮影」タイプに大きな影響を与えているのは、1960年代後半から70年代にかけて黒人解放闘争を展開していた武装集団「ブラックパンサー党」の党員募集ポスターだとVoxは主張しています。このポスターに写っているのは、ブラックパンサー党の設立者であるヒューイ・P・ニュートンで、武器を持ちながらピーコックチェアに座り、カメラをにらみ付けています。


ブラックパンサー党のポスターは、アメリカの兵隊募集ポスターで知られる「アンクル・サム」を参考にしているとのこと。黒人解放運動が盛り上がり、ブラックパンサー党が大きくなるにしたがって、党員募集のポスターもアメリカの街角に多く貼られるようになりました。


ポスターの影響によって、ピーコックチェアはニュートンを象徴する存在となり、ブラックパンサー党の集会でも最も高い壇上に飾られていました。そして、黒人解放運動をイメージさせるアイテムとなったことから、ピーコックチェアはヒップホップやファンク、R&Bなどのブラックミュージックのアルバムジャケットにも登場することがあります。


80年代に入ると、ピーコックチェアがアルバムのジャケット写真に使われることは少なくなり、現代ではほとんど見られなくなったとのこと。「それでもピーコックチェアは現代でも写真によく写っている椅子です。なぜならピーコックチェアに座れば本当にかっこよく見えるからです」とVoxは述べました。

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in 動画,   アート, Posted by log1i_yk

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