アート

MIT勤務の音楽家が提唱する新時代の音楽とは?

by iLexx

MITメディアラボで講師を務めるトッド・マコーバー氏は、イギリスの王立音楽アカデミーの客員教授に選任された作曲家であると同時に、過去にはロボットが登場するオペラを手がけたことがあるなど、テクノロジーにも造詣が深い人物です。そんなマコーバー氏が「技術は音楽にどんな未来をもたらすのか?」を考察しています。

Toward New Musics: What The Future Holds For Sound Creativity : NPR
https://www.npr.org/2019/07/26/745315045/towards-new-musics-what-the-future-holds-for-sound-creativity

◆ストリーミング配信が新しい音楽の鍵
音楽は長い間「楽器や歌の生演奏を聴く」ものでしたが、1877年にエジソンが最初の蓄音機を発明したのをきっかけに、「過去に録音された音楽を再生して聴く」という新しい概念が誕生しました。そして、マコーバー氏が「録音という概念の誕生以来の契機」と指摘しているのが、インターネットの普及です。

by Con Karampelas

インターネットが登場することで、音楽はレコードやCDなどの物理的なメディアに頼ることなく、ソフトウェアとして事実上無限に複製し再生することが可能になりました。こうした環境の変化により、音楽はどんどん身近なものになってきましたが、一方で聴き心地はいいものの没個性的で新鮮味のない音楽が氾濫する結果にもなっています。マコーバー氏はこうした昨今の音楽を、スーパーなどのエレベーターの中で流されるような音楽になぞらえて「エレベーター・ミュージック」と呼んでいます。

そんな中、マコーバー氏が「生きている音楽」が誕生する場として注目しているのがストリーミング配信です。マコーバー氏は「ストリーミング配信の『遍在性と流動性』こそが、本当に新しいものを作るための鍵です」と指摘し、インターネット環境さえあればどこにいても動的な音楽を楽しめるストリーミング配信の可能性を強調しています。


マコーバー氏がこれほどストリーミング配信にこだわっているのは、「録音された音楽は静的な記録でしかない」という考えが背景にあります。この考えをある意味で最も鋭く切り取った音楽が、ジョン・ケージ氏が手がけた「4分33秒」です。一切楽器を演奏せず、演奏会場内外のさまざまな雑音を聴くことをコンセプトにしたこの曲は、ケージ氏が提唱している「偶然性の音楽」の精髄であるといえます。

以下のムービーを再生すると、実際に4分33秒が演奏されている様子が分かります。

John Cage's 4'33" - YouTube


マコーバー氏は、1970年代にビートルズが活動を停止した際、ジョン・レノンがプロデューサーのジョージ・マーティン氏に「これまでリリースした曲全部をもう一度レコーディングしたい」と漏らしたという逸話を引用し、「マスタリングされた音楽は作品のごく一部しか表現しておらず、アーティストが望むものであるとは限りません」と話しています。

◆進化する音楽
マコーバー氏が、録音された音楽の代わりに登場する未来の音楽として挙げているのが「進化する音楽」です。例えば、従来のポップソングは多ければ数千種類以上もの異なるサウンドを組み合わせて作られていますが、録音された無数のサウンドはミックスダウンという工程で少ないトラック数に落とし込まれてから1曲の音楽に編集されます。

by JacoTen

他方で、「進化する音楽」はクラウド接続されたアプリやソフトから、誰でも簡単にミキシングや新しいサウンドの追加・合成が行える状態で提供されるだろうとのこと。こうしたアプリによる音楽の配信は双方向的に行われるため、リスナーやほかのアーティストが好きなだけリミックス・カバー・コラボレーションを行うことが可能になります。作曲者とリスナーが共同でコンテンツを作り上げていくことで、音楽が無限に進化していく可能性を秘めたこの枠組みを、マコーバー氏は「手続き型生成コンテンツ」と表現しています。

マコーバー氏は、ピアニストであるグレン・グールドの「可能な限り最高の世界に『芸術』は無用です。聴衆こそがアーティストであり、彼らの人生もまた芸術なのです」という言葉を引用して音楽の未来像についての考察を締めくくっていました。

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in 動画,   アート, Posted by log1l_ks

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