サイエンス

死亡率の高い超多剤耐性結核をわずかな数の薬で治療する方法を科学者が発見

by qimono

日本に住む多くの人は「結核」という病気にあまり馴染みがなく、せいぜい昔の人々がよくかかった感染症だという程度の認識かもしれません。しかし世界では依然として、結核はエイズを超えるほどの死者数を出す恐ろしい感染症であり、近年では結核の治療に使う抗生物質に耐性を持った、多剤耐性結核(MDR-TB)超多剤耐性結核(XDR-TB)が猛威を振るっています。そんな超多剤耐性結核の新たな治療法を、科学者らが発見したと報じられています。

Scientists Discover New Cure for the Deadliest Strain of Tuberculosis - The New York Times
https://www.nytimes.com/2019/08/14/health/tuberculosis-xdr-tb-cure.html

結核の感染者数は全世界で毎年1000万人に及んでおり、中でも抗生物質の効きにくい多剤耐性結核や超多剤耐性結核は、高い致死率を誇っています。超多剤耐性結核に感染する人は全結核患者の中でも少数だそうですが、100カ国以上で3万件以上の症例が確認されています。さらに、医療従事者は「多くの超多剤耐性結核患者は診療を受ける前に死亡している」と考えているため、実のところ数字以上に感染者が多く存在する可能性もあるとのこと。超多剤耐性結核に感染すると、治療を受けたとしても生存率は34%程度だそうです。


南アフリカでは結核の流行が問題となっており、感染者の中には超多剤耐性結核菌に感染した人も少なくありません。2006年、超多剤耐性結核が世界で最初に発見されたのも南アフリカのツゲラ・フェリーという町であり、超多剤耐性結核だと確認された53人の患者のうち、52人が死亡しました。年齢の中央値は35歳と比較的若く、多くの患者は過去に結核の治療を受けた経験がないため、他の感染者から超多剤耐性結核菌をうつされたとみられています。何人かの患者は医療従事者であったことから、治療にあたった患者から感染した可能性があるとのこと。

世界保健機関(WHO)は世界中で超多剤耐性結核についての調査を行い、2006年の時点で、すでに南アフリカだけでなく、アメリカを含む28カ国に超多剤耐性結核菌が広がっていることがわかりました。当初、超多剤耐性結核と診断されることはほぼ死亡宣告に等しかったそうで、死亡率は80%を超えることもありました。

by NIAID

近年では超多剤耐性結核に効果がある治療法も少しずつ見つかっていますが、その治療は過酷なものです。たとえば南アフリカで典型的な超多剤耐性結核の治療法は、1日に最大で40錠もの薬を最長2年間にわたって服用するというもの。結核菌は肺の奥深くに穴を掘り、死んだ細胞の塊の中にバリケードを作ります。それらの結節をばらばらにし、内部のすべての細菌を殺すには、長期間にわたって薬を服用する必要があります。

しかし、抗生物質は下痢や吐き気といった症状をもたらすため、患者にとって大きな負担となります。事実、超多剤耐性結核の治療法として多くの抗生物質を与えられても、患者の中には抗生物質の副作用に耐えかねて服用を中断し、結核で死んでしまうケースがあるとのこと。強い抗生物質を長期間にわたって投与されることにより幻覚を見る患者もいるようで、中には「皮膚の下に虫がいる」と考えて皮膚を切り裂く患者もいます。また、ひどい耳鳴りに悩まされた患者が自殺を試みるなど、超多剤耐性結核の治療は非常に辛いものだそうです。

by qimono

そんな超多剤耐性結核の新たな治療法の臨床試験が、南アフリカで行われました。BPaLという治療法の臨床試験は「Nix-TB」という名称が付けられ、南アフリカの超多剤耐性結核患者に対して試験が行われました。BPaLはベダキリンプレトマニドリネゾリドという3種類の薬を用いた治療法で、1日わずか5錠の服用で超多剤耐性結核を治療するとされています。

Nix-TBの被験者は109人と小規模な臨床試験でしたが、その効果は目覚ましく、90%を超える患者が治療によって救われました。治療を受けたTsholofelo Msimangoさんという女性も、かつては超多剤耐性結核によって治療を受けていたものの、抗生物質による治療に耐えられず服用を中断し、死に瀕していたとのこと。しかし、BPaLによる治療から5年が経過した2019年の時点でMsimangoさんは健康体に戻り、若い息子もいるそうです。

2019年8月14日、アメリカ食品医薬品局(FDA)もBPaLによる治療を承認しました。さらにWHOもFDAの承認にもとづいて、BPaLを認める予定だとのこと。

by Pixabay

一方で、BPaLによる治療も副作用が全くないというわけではありません。BPaLに含まれるリネゾリドを長期間結核患者に投与し続けると、患者が歩行困難になってしまうケースがあるほか、プレトマニドに対しては一部の団体が「十分な臨床試験が行われていない」といった反対を表明しています。

しかし、プレトマニドを開発したニューヨークの非営利団体・TB Allianceの社長であるメル・スピーゲルマン博士は、「自分自身を患者の立場に置いてみてください」「治癒率が90%の3種類の薬物と、治癒の可能性が低い20種類以上の薬物という選択肢が提供されています。誰がランダム化の臨床試験に同意するでしょうか?」と主張。ランダムで行う臨床試験には多額の費用がかかるほか、効果を確認するまでさらに5年以上の月日がかかってしまうと述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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