サイエンス

はげ頭をフサフサに戻すカギとなるのは「幹細胞」と「3Dプリント技術」

by Fernando de Sousa

薄毛を治療するための方法はさまざまですが、最新の研究では幹細胞と3Dプリンターを用いた方法が注目を集めています。

A "Cure" for Baldness Could Be Around the Corner - The Atlantic
https://www.theatlantic.com/health/archive/2019/07/hair-for-all/594826/

「プロペシア」という商品名で知られるフィナステリドや、「Rogaine」という商品名で販売されるミノキシジルといった治療薬は、発毛効果があるとして男性型脱毛症(AGA)などの治療薬として使用されています。何十年も前から薄毛治療に使用されてきた治療薬ですが、これらは抜け毛を完全に防いだり、毛髪を完全に復活させたりすることはできません。加えて、これらの治療薬は高価で、月額44ドル(約4800円)ほどを支払う余裕がある人でなければ利用することは不可能。

多くの科学者たちも薄毛治療のための研究を続けており、2018年には毛包に合成ビャクダンの匂いを嗅がせることで髪の損失を防ぐことができるという研究成果が発表されています。しかし、これは「薄毛の治療」ではなくあくまで「薄毛の予防」であるため、すでに薄毛に悩んでいる人を救うことはできません。

by alq666

記事作成時点では薄毛を改善するための唯一の解決方法が植毛です。人間の体は各毛包の基部にある真皮乳頭と呼ばれる何千もの幹細胞から1本1本の毛髪を生成します。人間の頭皮にはこの毛包が約10万個存在するといわれているのですが、時間の経過と共に真皮乳頭が消えていくと、毛包は小さくなり休眠状態に入ります。そのため、薄毛の人の頭皮にはまだ髪の毛が存在するものの、毛包が休眠しているため非常に細い毛髪しか生えなくなります。

一度毛包が休眠状態に入ると、回復することはできません。そのため、薄毛を改善するとなると、毛の生えた別の頭皮から毛包ごと外科的に移植する必要性が出てきます。これが植毛です。植毛には1万ドル(約110万円)ほどの費用が必要となるほか、移植するのに十分元気な毛包が頭皮に多く残っていなければいけません。頭部以外の毛(背中や脇など)を毛包ごと移植するケースも存在するそうですが、そういったケースの場合は見た目的に良いものには仕上がらないとのこと。

加えて、植毛したのちに拒絶反応を引き起こす可能性もあります。

by US Army Africa

そんな中、最新の研究では幹細胞研究と3Dプリンターを用いた最新の印刷技術を用いる方法が模索されています。つまり、3Dプリンターで人間の髪の毛を複製し、それを頭皮に植えていくという新たな毛髪移植技術が模索されているわけです。

最新の3Dプリンターを用いた毛髪移植について、毛髪移植を専門とする皮膚科医のロバート・バーンスタイン氏は「長い間、この種の技術はまだまだ10年先のものだと言われてきました。しかし、今ではより身近なものに迫っています」と語っています。

3Dプリンターを用いることで血管や内臓などの生体細胞を透明ゲルの中に出力したり、人間の細胞を使って心臓を作成したり、生体を材料に皮膚や骨を作り出すことにも成功しています。こういった生体の中でうまく機能しなければいけないものと比べれば、毛髪はタンパク質フィラメントを互いに巻き付けたヒモのようなものであり、ただ頭皮から抜け落ちないようにすればいいだけなので、出力は非常に単純です。

by Rob Wingate

既に毛包のクローンを作成する企業Stemson Therapeuticsが立ち上げられており、人の皮膚や血液に由来する幹細胞から毛髪のクローンを成長させ、真皮乳頭や毛包を既に収縮して休眠状態に入ってしまった毛包に移植することを試みています。

Stemson Therapeuticsのジェフ・ハミルトンCEOは、国際幹細胞研究学会(ISSCR)の年次総会の中で、人間の毛包をマウスに移植することに成功したと語っており、それを撮影したというのが以下の画像。マウスの皮膚から人間の髪の毛のようななものが生えている様子がチェックできます。


また、毛根の形状は毛髪を同じ方向に伸びるように成長させるために重要な要素だそうです。ハミルトンCEOの同僚であるアレクセイ・テレスキフ氏が数年前に人間の毛包のクローンをマウスに移植した際、毛髪が意図していたのとは異なる方向(体内や斜め)に生えてきたそうです。このことから、クローンとして複製した毛包をただ移植するだけでは髪の毛がさまざまな異なる角度で生えてきてしまい、髪の毛が不自然に見えてしまうであろうことが予測されています。

そのため、形を維持できる毛包の開発が求められており、ハミルトンCEOは2019年のISSCRの中でその解決策を提案しています。その方法は、人工の骨格を形成し、クローンとして作成された毛包の周囲に配置して直接毛髪の成長を助けるというものです。ハミルトンCEOはこの人工骨格の詳細を明かしていませんが、医薬品大手のAllerganと提携して開発したことを明かしています。加えて、この人工骨格を用いたクローン毛包移植の臨床試験を、1年半以内にスタートすると語りました。


コロンビア大学の皮膚科学教授であるアンジェラ・クリスティアーノ氏は、毛包と真皮乳頭を別々に皮膚上に移植するために、アメリカのゼリー菓子・ジェロのような型を、3Dプリンターを用いて出力することに成功しています。この研究成果は科学誌のNature Communications上で報告されており、「さまざまな種類の脱毛症や、慢性創傷などの内科的治療に変革を起こす」と記されています。

しかし、「オーダーメイドで3Dプリント用の型を作成するということは、途方もなく高価になるということを意味しています」とThe Atlanticは記しており、技術が進歩するにつれてコストは低下していくものの、3Dプリンターを用いた髪の毛の再生が手頃な価格で提供されるようになるのはまだまだ先のことだとしています。

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in サイエンス, Posted by logu_ii

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