サイエンス

植物を「数秒ごとに明滅する照明」で育てることで栽培に必要なエネルギーを削減できる

by Quang Nguyen Vinh

気候条件に左右されることなく通年で植物を栽培できる屋内栽培のメリットは大きく、近年では技術の進歩に伴って巨大な「植物工場」を建造する動きも盛んになっています。しかし、太陽光を利用できない屋内栽培では人工照明を使って植物の光合成などを促す必要があり、栽培に必要なエネルギーコストが一つの課題です。フロリダ大学で園芸科学教授を務めるケビン・フォールタ氏らの研究チームは、「照明を短いスパンでつけたり消したりする」ことで、栽培に必要なエネルギーコストを抑えられる可能性があることを発見しました。

Manipulation of seedling traits with pulsed light in closed controlled environments - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0098847219304666

Micro-naps for plants: Flicking the lights on and off can save energy without hurting indoor agriculture harvests
https://theconversation.com/micro-naps-for-plants-flicking-the-lights-on-and-off-can-save-energy-without-hurting-indoor-agriculture-harvests-120051

自然の光や水を利用する農業は気象条件に左右されやすく、日照量が少なかったり例年よりも雨が少なかったりした年は、野菜の価格が上昇して人々の生活に大きな影響が出ることもあります。そんな中、屋内の工場で植物を栽培すれば外部条件に作物のできが左右されないため、オランダをはじめとする一部の国々では積極的に植物工場の建設が進んでいるとのこと。


植物工場はビルの中で何層にもわたって栽培環境を整えることが可能で、都会のスペースを有効利用できるほか、食物消費量の多い都市部で栽培することで輸送コストを減らせるといった利点があります。その一方で、屋外での栽培とは違って植物の生育に必要なあらゆる要素を人工的に管理しなくてはならず、栽培コストは比較的高くなりがちです。

中でも植物工場の中心的な問題としてフォールタ氏が挙げているのが、植物に与える「人工照明」だそうです。一般的に植物栽培用の人工照明は赤と青の発光ダイオードを組み合わせて作られており、植物工場の運用コストのうち25%を照明代が占めることもあります。この点が農業に多額のコストをかけられない発展途上国での植物工場建設を難しくしているほか、植物が吸収する二酸化炭素量よりも栽培に伴って排出される二酸化炭素量が大きくなることで、地球温暖化を促進してしまいます。

by Singkham

フォールタ氏は30年以上にわたって、光が植物の生長に対しどのような影響を与えるのかを研究してきました。近年になってフォールタ氏は、「植物は光のオン・オフが日中と夜間のサイクルで固定されているが、この光のオン・オフサイクルを早めたらどうなるのだろうか?」という疑問を持ち始めたとのこと。そこで、実際に数時間から数秒のサイクルで光のオン・オフを切替えた場合に、植物の生長がどのように変化するのかを確かめる実験を行いました。

光合成を行う植物は生長するために光が必要であり、そのサイクルを乱すことは植物の生長に悪影響を与えるかもしれません。実験開始前、フォールタ氏は「光を細かく分割して植物に浴びせることは、太陽のリズムに合っている植物の体内時計に受け入れられないだろう」と考えていたそうです。

研究チームは合計12時間の光と12時間の暗期を、6時間ごと、3時間ごと、1時間ごと、さらに30分といった短いサイクルで植物に浴びせ、その生長を調査しました。調査に使われた植物はケール、カブ、ビートといった種類で、12時間のサイクルで4日間にわたり生育すると、植物は正常に生長しました。ところが光と暗期のサイクルが6時間、3時間、1時間、30分といった短いスパンに分割されたところ、光を浴びせられた総時間に変化はなかったものの、フォールタ氏の予想どおり植物は上手く生長しなかったとのこと。

by PhotoMIX Ltd.

しかし、研究チームがさらに光と暗期のサイクルを短くしていき、ついに5秒おきに光のオン・オフを切り替えるようにしたところ、植物は12時間のサイクルで育てられたものとほぼ同じように生長しました。研究チームはこの不思議な発見について、「5秒おきに光のオン・オフが切り替わると、植物の体内時計は日の出と日の入りを正しく認識できないのではないか」と考えています。

フォールタ氏らが今回の発見を発表しようとしたところ、なんと今回と同様の実験が80年以上も昔の1931年に行われていたことが判明。アメリカ合衆国農務省の研究者らはキバナコスモスを使った(PDFファイル)実験で、短いスパンでの光のオン・オフが生長にとって大きな妨げにならないことを突き止めていました。

1931年の実験もフォールタ氏の実験も、12時間周期で光を浴びせる場合と結果的に光の総量は変化していないため、植物工場における光のコストを節約することにはつながりません。しかし、フォールタ氏は「光を浴びせない時間を光を浴びせる時間と同じにするのではなく、5秒光を浴びせたら6秒の暗期を与えたり、暗期を10秒、20秒に伸ばしたりしたらどうなるのか?」と考え、さらに実験を続けることにしました。

by Somesh Singh

光のオン・オフサイクルにおけるオフの時間を延長する実験を行った結果、研究チームは「光を浴びせない時間をある程度伸ばしても、植物の生長には影響しない」ことを発見しました。光合成などのプロセスを促進するために5秒間光を当て、その後10秒、20秒と暗期の時間を伸ばして植物の生長度合を測定したところ、暗期が5秒だった場合と等しく植物が生長したそうです。

また、研究チームが実験室内でリーフレタスの栽培実験を行ったところ、やはり暗期を多少延長してもリーフレタスの生長が妨げられなかっただけでなく、暗期を長くするほどレタスが青々となり、葉が大きく生長することもあったそうです。研究チームは屋内栽培において暗期の時間を調節することにより、同じ品種であっても多様なパターンの食品を生み出すことができる可能性もあると主張しています。


今回の研究から、屋内栽培において暗期を長めに設定することで、栽培にかかるエネルギーコストを30%以上節約できるかもしれないと研究チームは指摘。市場に出回る野菜のコストを抑えるだけでなく、排出する二酸化炭素量を削減して持続可能な栽培プロセスを生み出すこともできるかもしれないそうです。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

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