あのハーバード大学で最も人気を集める「ビッグデータについての講義」がネットで無料公開中

アメリカのマサチューセッツ州にあるハーバード大学は、各種大学ランキングの最上位に位置するアメリカ屈指の名門校であるとともに、イギリス植民地時代の1636年に創設されたアメリカ最古の大学でもあります。そんなハーバード大学が2017年からビッグデータを扱うコースを創設、2019年春には同校で最も人気のある講義になりました。

Big Data to Solve Economic and Social Problems | Opportunity Insights
https://opportunityinsights.org/course/

Raj Chetty’s plan to change how Harvard teaches economics - Vox
https://www.vox.com/the-highlight/2019/5/14/18520783/harvard-economics-chetty

New Econ Class Sails into Top Enrollment Rankings as Ec 10b Maintains Dominance for Sixth Year | News | The Harvard Crimson
https://www.thecrimson.com/article/2019/2/5/econ-data-course-popular/

2018年まで、ハーバード大学で最も新規受講者の多かった講義が、経済学部のグレゴリー・マンキュー教授による「経済学原論(Economics 10)」でした。マンキュー教授は新ケインズ派経済学の第一人者で、同氏が1992年に著した「マクロ経済学」は版を重ねながら世界数十カ国の大学で経済学の教科書として採用されています。

しかし、2019年にマンキュー教授の「経済学原論」を超えて最も新規受講者を集めた講義が、2017年から始まった「ビッグデータを活用した経済・社会問題の解法(Economics 1152)」です。「ビッグデータを活用した経済・社会問題の解法」は、創設当初からその革新的な授業の内容をインターネット上で無料公開していることもあり、最も人気のある講義となりました。

「ビッグデータを活用した経済・社会問題の解法」を教えるのは、記事作成時点では若干39歳のラジ・チェティー教授です。チェティー教授は18歳でウィスコンシン州にあるミルウォーキー大学を卒業した後、カリフォルニア大学バークレー校やスタンフォード大学といった名門大学の経済学教授を歴任。その後ハーバード大学に招聘され、同校の経済学部に在籍する終身教授の最年少記録を塗り替えました。

そんなチェティー教授が教える「ビッグデータを活用した経済・社会問題の解法」の特色は、その名の通り「ビッグデータを扱う点」と「経済学に他分野の学問を採り入れた学際的なアプローチ」にあります。経済学入門をベースに統計学やコンピューティングのエッセンスを盛り込んだ講義は、予備知識がなくても理解できるよう細心の注意が払われており、分かりやすさに定評があります。また、インド出身であるチェティー教授の、人種差別や機会の平等といったテーマに積極的に取り組む姿勢は、世界各国から集まった多くの学生の関心と共感を集めています。

チェティー教授とその講義が注目を集めるようになったのは、2008年に発生したリーマン・ショックに端を発する世界金融危機への教訓が背景にあります。近年まれに見る金融危機を目の当たりにした経済学者らは、古典的な経済学はもはや通用しないと考えるようになり、新しい観点から経済学を再考する方法を模索するようになりました。そんな中、伝統的な経済モデルや理論にとらわれない発想を持ち込んだチェティー教授の研究は瞬く間に注目の的となり、記事作成時点では「世界で最も多く引用される若手経済学者」との呼び名をほしいままにしています。

「ビッグデータを活用した経済・社会問題の解法」の講義内容はインターネット上で無料公開されており、資料をPDFファイルやPPTファイルとしてダウンロードしたり、講義の様子をYouTubeで見たりできます。

以下のムービーはチェティー教授の「授業1：アメリカにおける社会的地位上昇の地理学」です。

Lecture 01 The Geography of Upward Mobility in America - YouTube