生き物

ボノボの母親は息子の性生活を守って繁殖の手助けをする

by Steve Halama

コンゴ民主共和国に生息するボノボはチンパンジー属に分類されており、人間に近いとされる類人猿の一種です。生物学全般を対象にした学術雑誌「Current Biology」に掲載された論文によると、ボノボの母親は息子の性生活を守るために行動し、繁殖の手助けをするそうです。

Males with a mother living in their group have higher paternity success in bonobos but not chimpanzees: Current Biology
https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(19)30338-0

Think your mom is overbearing? Bonobos can relate. - The Washington Post
https://www.washingtonpost.com/science/2019/05/20/think-your-mom-is-overbearing-bonobos-can-relate/

研究者らが長年にわたってボノボを観察する中で、ボノボの母親が自身の息子が子孫を残す手助けをすることがわかっています。ボノボの母親は息子が群れのメスと性行為をしている最中に、近づいてくる別のオスを追い払って二人の仲を邪魔させないように警戒するそうです。また、ボノボの母親は息子の性生活を守るだけでなく、時には息子と手を組んでメスを奪い合うライバルを倒し、群れの中のヒエラルキー上昇を目指すこともあるとのこと。


このようにボノボの母親が息子のために過保護とも思えるような行動を取ることは以前から知られていましたが、息子にとって実際にどのような利点が発生しているのかは不明でした。しかし、新たに論文を発表したマックスプランク進化人類学研究所の研究チームによると、コンゴ民主共和国に住む母親が健在なボノボのオスは、母親がすでに死亡しているオスと比較して3倍も多く子孫を残すことが判明しました。

同様の行動がボノボと近しい種であるチンパンジーにも見られるのかどうか、研究者らはコートジボワールやタンザニア、ウガンダなどでも観察を行いましたが、チンパンジーでは母親が息子の繁殖を助ける行動は見られませんでした。この違いについて、研究チームはチンパンジーの群れはオス優位であるのに対し、ボノボの群れはオスとメスのヒエラルキーに優劣が少なく、基本的にメスはオスから暴力を振るわれないことが関係していると考えています。

by Rob Bixby

論文の主筆者であるMartin Surbeck氏は、「ボノボの母親に見られるこの行動は、群れでのヒエラルキーが高い点が関係している可能性が高いです」と指摘。Surbeck氏らが行った2010年の研究では、ボノボのオスは自身の母親が近くにいない場合、群れの外側にいることが多いことを発見しました。

一般的にボノボの群れにおいて、生殖能力の高いメスが群れの中心にいることが多いため、オスにとって群れの中心に近づけないことは繁殖上大きな不利となります。しかし、たとえ群れの中のヒエラルキーがそれほど高くないオスであっても、「母親同伴」であれば群れの中心にまで近づけることをSurbeck氏らは発見。「ボノボの社会において、母親はメスに近づく『社会的パスポート』の役割を果たします」とSurbeck氏は述べています。

また、母親の存在は群れにおけるヒエラルキーにも関係しているとのこと。母親の群れの中での地位が高ければ高いほど息子の地位も高くなり、母親が一度地位を落とすと息子も同様の扱いを受けるようになってしまうことがあるそうです。

by DORIS META F

マックスプランク進化人類学研究所の霊長類学者であるAmmie Kalan氏は今回の研究には関わっていませんが、ボノボの母親が息子の性生活を助ける行為は、ヒトに特有の「おばあさん仮説」という理論と絡めた視点でとらえることができるため、今回の研究は非常に魅力的だと述べています。

おばあさん仮説とは、ヒトの女性が生物としては珍しく閉経を迎え、さらに繁殖能力を失った後も長く生きることが、いったいどのような生物学的利点をもたらすのかについての仮説です。おばあさん仮説に関しては、次第に低下しつつある繁殖能力を頼って自分自身の子孫を残すことに力を注ぐよりも、「自分の子どもの子孫」を残す手助けをすることが、結果的に多くの遺伝子を次代につなぐことになるという説も提唱されています。

Kalen氏はボノボの繁殖成功数について、母親の有無や母親のヒエラルキー、自分自身のヒエラルキーといった予測因子を分析することは非常に興味深いと主張。一方でセント・アンドルーズ大学の霊長類学者であるCat Hobaiter氏は、今回の研究が興味深いものだと認めながらも、本当に今回の結果が種レベルで見られる行動の違いなのかどうか、どれほどの母親と息子のペアが同様の行動を取るのかについても調査する必要があると指摘しました。

by hape662

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
ボノボとチンパンジーが使用するジェスチャーは90%以上酷似していることが判明 - GIGAZINE

人間と交尾しようとする動物や交尾後に息絶える動物など、動物のセックスに関する驚くべき事実 - GIGAZINE

人間とチンパンジーのDNAは99%一致するというのは本当なのか? - GIGAZINE

ライオンの世界にも「性の多様性」、仲むつまじく寄り添う2頭の野生オスライオンがケニアで目撃される - GIGAZINE

オスから引き離されたサメが単独で産卵、有性生殖から無性生殖へと素早く繁殖戦略を変更した事例が観察される - GIGAZINE

子どもの前に立ちはだかる苦難をすべて解決しようとする「芝刈り機ペアレンツ」の問題点とは? - GIGAZINE

チンパンジーも人間のような「非合理的な意思決定」を行うことが研究で判明 - GIGAZINE

in 生き物, Posted by log1h_ik

You can read the machine translated English article here.