サイエンス

がんを根絶やしにするためT細胞を「殺し屋」に育てるCAR-T療法の次の一歩とは?

by qimono

遺伝子操作を加えられたT細胞を用いて白血病など血液がんを治療するCAR-T細胞療法は2017年にアメリカ食品医薬品局(FDA)に認可されて以来、大きな効果を上げてきました。一方で、CAR-T細胞療法の固形腫瘍に対する効果はまだ限定的なものであるといわれています。固形腫瘍に対するCAR-T細胞療法の新しいアプローチを試みるRafael Amado氏が、CAR-T細胞療法の次の一手について解説しています。

The Next Wave of Immuno-Oncology - Scientific American Blog Network
https://blogs.scientificamerican.com/observations/the-next-wave-of-immuno-oncology/

体内のT細胞を遺伝子操作して体外で培養し、がんを攻撃する「キラーT細胞」として教育、増殖、活性化させてから体内に戻すことでがん細胞を死に至らしめるというCAR-T細胞療法については、以下の記事から読むことができます。

遺伝子操作した免疫細胞に「殺し」を教えてがん細胞を死に至らしめる「CAR-T療法」とは? - GIGAZINE


CAR-T細胞療法の成功の鍵は、「CD19抗体」と呼ばれるタンパク質と結合する抗体断片の存在にあります。抗体断片は、抗体が抗原であるCD19と結合した時に発される刺激分子や信号分子と結びつくもので、これがあるおかげでT細胞はがん特異的抗原を認識し、がん細胞を殺すことが可能になります。

一方、CAR-T細胞療法の固形腫瘍に対する効果はこれまでのところ乏しいとされてきました。その理由は、固形腫瘍に対する治療効果を発揮するには、CAR-T細胞が腫瘍部分に集積・増殖する必要があるものの、そういった技術が確立されていないためです。そしてなぜ固形腫瘍の周りにCAR-T細胞が集まらないのかというと、多くのがん特異的抗原は細胞内に発現し、CAR-T細胞が認識可能な細胞表面に発現するがん特異的抗原は限られているからです。


この問題を解決する1つのアプローチが、腫瘍表面にあるタンパク質ではなく、腫瘍内部にあるタンパク質をターゲットにする方法です。細胞内に発現するがん細胞の一部は抗原ペプチドとして、がん細胞表面上で主要組織適合遺伝子複合体(MHC)と結合します。MHCはT細胞に味方と敵を認識させる役目があるため、T細胞が腫瘍表面でペプチドとMHCを認識するようにすれば固形腫瘍をターゲットにすることが可能になるわけです。

T細胞は免疫系における「調査官」であり「殺し屋」です。T細胞はT細胞受容体(TCR)を持ち、体内を巡ってはTCRを使ってウイルスや細菌に感染したペプチドを見つけ、結合します。

しかし、がん細胞のタンパク質は異物であるタンパク質とは違い、人がもともと持つタンパク質と非常に似ています。このため、体がもともと備えるTCRを利用して効率的に腫瘍をターゲットとすることは困難です。

そこで採られているアプローチが、天然のTCRを増強するという方法です。TCRとペプチドとの結合を最適化する形でエンジニアリングすれば、受容体はよりがん細胞のタンパク質を認識しやすくなります。人の体外でTCRをエンジニアリングして再び体内に戻すことで、天然のTCRよりもより患者のがん細胞をより多く発見し殺すことができるようになるわけです。

by Pexels

Amado氏が勤めるAdaptimmuneという企業も、上記のようなTCRのエンジニアリングを試みている会社の1つ。AdaptimmuneはTCRをエンジニアリングする「SPEAR T細胞療法」でNY-ESOと呼ばれるタンパク質をターゲットにする方法を開発しており、この方法は2種類の肉腫で有効性を示したとのこと。また、Adaptimmuneはより長期的な抗腫瘍反応を目指し、T細胞が腫瘍をターゲットとする能力をさらに上げる研究も行っているといいます。

転移性がんを根絶やしするための方法を模索する企業はこの他にも数多く存在します。2018年のノーベル生理学・医学賞をT細胞の研究者が受賞したことからわかるように、この分野が飛躍的な進歩を遂げているとのこと。研究者ががんと抗がん免疫の複雑な相互作用を解明し続けることで、これからの大きな可能性が期待できるとAmado氏は述べています。

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in サイエンス, Posted by logq_fa

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