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フォントを見るだけで偽造文書を暴き事件を解決する「フォント探偵」が存在する

by JOERG-DESIGN

タイポグラフィは時に、印刷物に含まれている言葉以外の物語を伝えることがあります。このことに着目し、文書の「フォント」に特化して、フォントの持つ歴史や特徴から偽造文書を暴いていく「フォント探偵」なる人物が活躍中であると、JSTOR Dailyが伝えています。

The Font Detectives | JSTOR Daily
https://daily.jstor.org/the-font-detectives/

2017年、カナダ在住のGerald McGoeyという男性が、会社の倒産に伴い自己破産を申請しました。McGoey氏は別荘をいくつか持っており、オンタリオの湖近くにあるコテージを破産で失いたくないという理由から、「このコテージの所有者は子どもたちで、自分はコテージを預かっているものだ」と主張する書類を提出しました。

この書類を見て不審に思った弁護士が助けを求めたのが、「フォント探偵」という異名を持つThomas Phinney氏。Phinney氏はアメリカのポートランドに拠点を置くFontLabのCEOでもある人物です。

by FontShop

Phinney氏は問題の書類を見て、すぐに「『コテージを委託する』と示す書類が作られたのは1995年だとされているが、使われているフォントは2007年に公開されたMicrosoftのCambriaだ」ということに気づきました。また、農地に関する書類は2004年に作られたとされていましたが、この書類に使われていた「Calibri」というサンセリフフォントもまた、2007年に公開されたものでした。仮にMcGoey氏の知り合いがMicrosoftにいて公開前のフォントを使うことが可能だったとしても、Calibriは2005年に数字のフォントデザインを変えていることから、新しいデザインのフォントを2004年の時点で使うことは不可能です。

フォントに関してPhinney氏の示した内容は裁判で言及されることになりました。もちろん、フォントだけが裁判の証拠として使われるわけではなく、McGoey事件では他にも矛盾点があったことからPhinney氏の「推理」が証拠として使われました。このような「フォント探偵」をこなせる専門知識を持った人物は、記事作成時点で、北米にはPhinney氏しかいません。作家のJohanna Drucker氏は2016年に「歴史や伝統に関して、文字様式の妥当性を評価するだけの訓練された『目』を持つ人々はご少数です」と記しています

by wilhei

Phinney氏はもともとAdobeでマネージャーとして働いていたのですが、1999年に弁護士がAdobeのスタッフに書類の不審さについて尋ねた時、それを熱心に見たのはPhinney氏だけでした。「チームの誰も興味を持っていなかったので、びっくりしました」と当時についてPhinney氏は語っています。そしてこの一件がきっかけで、Phinney氏は他に類を見ない新しい副業を開始しました。

Phinney氏は活版印刷と印刷の修士号を持っており、フォントビジネスでの経験を生かして、文書の正当性を評価する仕事を行っています。これと同様のことを行っている職業が歴史学者で、彼らは印刷の歴史や大昔のタイポグラファーの技術に関する知識をいかし、芸術作品や歴史的価値がある古物の正当性の評価を行っています。

例えば1507年に公表されたヴァルトゼーミュラー地図は緯度と経度を正確に図表で表した最初の地図であり、また「アメリカ」という名を用いた初めての地図でもあります。ヴァルトゼーミュラー地図は1000部だけ作られ、そのコピーの1つがスミソニアン博物館に飾られているという貴重なもの。この地図の謎は、作者こそわかっているものの、誰がいつ印刷したのかという情報が不明であること。

by Library of Congress

この謎を解くため、スミソニアン協会の学芸員であるElizabeth Harris氏は調査を開始しました。Harris氏はヴァルトゼーミュラー地図に使われている5つのフォントに関し、どの印刷機でこのような文字が使われていたのかをチャート化。そして、どのフォントが後からマップに加えられたものであるのかを吟味しました。これに加え、当時ドイツのストラスブルグで使われていた印刷機のクセや、行われていたプロジェクトについて調べ、文字に異常なところがないかをチェックしたとのこと。これらの調査から、マップの2つの主要なセクションは同時に印刷されたことや、マップ上にあるラベルは少なくとも1515年以降に後から印刷されたことが判明したといいます。

また、フォントのサイズは、現実の世界の事情を反映していることもあります。例えば劇作家のウィリアム・シェイクスピアの名前は後年になるにつれフォントサイズが大きく、また明瞭に記されるようになっていきました。シェイクスピアの劇が人気を博していくタイミングと、フォントが大きく明瞭になっていくタイミングは一致していることからも、フォントに現実の世相が反映されたことが見てとれます。

フォントから文書の詳細を明らかにしていくフォント探偵たちにはもちろん当時の状況や歴史の知識が必要ですが、核となっているのは「フォントの識別」です。実際に裁判での証言を求められることがあるPhinney氏は「aという文字の上部の丸みについて」「mという文字の外側の足について」という細かい部分についてまで語り、裁判官を説得することができるとのこと。

by fill

警察の捜査に協力する多くの筆跡鑑定士は手書き文字を専門としており、フォントを専門としている人はいません。このためPhinney氏の仕事はどんどん増加しており、記事作成時点で月4件ものケースに関わっているそうです。Phinney氏は筆跡鑑定士とも協力関係を築きつつあるそうで、今後、歴史的文書や印刷文書の偽造の多くがPhinney氏の手によってあばかれていくものとみられています。

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in デザイン, Posted by darkhorse_log

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