サイエンス

脳内の特定のタンパク質をブロックすると高齢者の脳機能が回復するかもしれない

By Teddy Rawpixel

VCAM1」は身体の中を循環する免疫細胞と血管壁をつなぐ細胞接着分子として機能する、タンパク質の一種です。スタンフォード大学で行われた研究は、VCAM1をブロックすることによって年老いたマウスの脳機能が若いマウスと同等にまで回復したと報告しています。

Aged blood impairs hippocampal neural precursor activity and activates microglia via brain endothelial cell VCAM1 | Nature Medicine
https://www.nature.com/articles/s41591-019-0440-4

Blocking protein curbs memory loss in old mice | News Center | Stanford Medicine
https://med.stanford.edu/news/all-news/2019/05/blocking-protein-curbs-memory-loss-in-old-mice.html

過去に行われた血液に関するいくつかの研究結果は、「高齢者の血液中に存在する『何か』が脳の生理機能や認知能力の低下を引き起こしている」と示唆しており、その「何か」を発見するための実験が数多く行われていました。

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そんな中、スタンフォード大学アルツハイマー研究センターの副学長を務めるトニー・ウィス・コレー教授たちは、血液脳関門が脳に流れ込む血液中の物質を選別しているという点に着目。コレー教授は、脳に流れ込む血液ではなく、循環している血液の中に脳の内皮細胞に直接影響する物質の存在を予想しました。

コレー教授は血液に関する研究を続ける中で、年齢が増加するにつれて血液中の「VCAM1」という物質が増加することに注目しました。研究チームによれば、年老いたマウスの血漿中にVCAM1が多量に含まれているのは、内皮細胞上のVCAM1から離脱して血液に流入しているため。年老いたマウスの血漿(けっしょう)が注入された若いマウスの脳内では、内皮細胞上のVCAM1の量が増加することが判明しており、血漿中の成分が脳内のVCAM1増加に関連しているとみられます。

By orcearo

そこでコレー教授らの研究チームは、VCAM1を遮断する働きを持たせたモノクローナル抗体で、マウスの身体の中を循環する免疫細胞と血管壁をつなぐ細胞接着分子の一種であるVCAM1をブロックするという実験を行いました。VCAM1を遮断するモノクローナル抗体を投与されたマウスでは、海馬の神経細胞の生成や炎症・変性などの病変の修復に関与するミクログリアの活性化が抑制されたとのことです。また、マウスの脳内でVCAM1を作り出すのに関連する遺伝子を欠損させることによっても、ミクログリアの活性化が抑制されました。

内皮細胞上ではなく、血液中を循環するVCAM1に関しては脳機能障害の原因でないこともわかっています。若いマウスに老いたマウスの血漿を注入する際に、VCAM1だけを除外しておいたとしても、海馬において「有害な結果」が観測されたそうです。過去の研究では、血液中のVCAM1濃度の増加はガン、心臓病、脳卒中、アルツハイマーなどと相関がある可能性が示唆されています。

By CreativeNature_nl

また、VCAM1がブロックされたマウスに対する知能検査も行われました。マウスの知能を測定する手法として、マウスが苦手とする明るい空間にマウスを閉じ込め、床に開いた複数の穴の中に明るい空間からの逃げ道となる「トンネル」を設置して、マウスが「トンネル」を探り当てる時間を観測する「バーンズ迷路」などのテストが複数選ばれました。


バーンズ迷路では、トンネルの位置を変更せずに複数回行われることが前提とされており、マウスは周囲の様子などからトンネルの位置を記憶しておくことが可能です。若いマウスはトンネルの位置を記憶して、何度か実験を繰り返すと一直線で「トンネル」に向かうようになりますが、年老いたマウスは若いマウスと同様には動けないことがわかっています。

By Lifeonwhite

実験の結果、モノクローナル抗体によって内皮細胞上のVCAM1を遮断した年老いたマウスは、訓練によって若いマウスと同じくらい早く正解のトンネルを発見できることが判明しました。コレー氏は「脳内のVCAM1をブロックしたマウスは、私がかつて見たことがないほどのパフォーマンスを発揮しました」とコメントしています。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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