アート

芸術作品は投資対象として優れているのか?

by Gotta Be Worth It

一見すると落書きのように見えても実は1億円を下らない価格がつけられているなど、芸術作品の価値は素人には理解しがたい部分があります。では芸術作品の価値を「お金」という側面で考えた時に、作品を投資対象とすることがアリなのか?ナシなのか?という気になるところが芸術関連のメディアThe Easelで解説されています。

The Easel | Art journalism
http://the-easel.com/essays/for-love-or-money-the-merits-of-investing-in-art/

2017年、レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた絵画「サルバトール・ムンディ」が手数料を含めて4億5031万2500ドル(当時のレートで約508億円)で落札され、史上最高の落札価格だとして話題になりました。長年の間「芸術は資産になりえるのか?」ということが議論にあがってきたことを考えると、このニュースは芸術の支持者たちにとって朗報といえます。「資産」は将来的に収益をもたらすことが期待される経済的価値のことをいいますが、この定義に照らし合わせるとダ・ヴィンチの絵画は確かに「資産」にあたります。


アート市場の規模は1990年から2019年の間で6.7倍にも増大しており、The Art Basel and UBS Global Art Market Report 2019によると、その額は670億ドル(7兆3700億円)に達しているとのこと。売上の半数がギャラリーによるものであり、売上額は370億ドル(約4兆円)。最も大きい市場はアメリカで、その後にイギリス、中国と続きます。なお、レポートは性差についても調査しており、それによると女性の作品の方が男性の作品よりも平均して38%多く売れているそうです。

一方、2008年から2019年までの市場の成長を見ると、成長率はわずか9%にとどまっています。これは売れていく作品の価格が下がっているためだとみられており、取引の大半は5000ドル(約55万円)以下のいわばローエンドの作品で、55万円~110万円の中間市場は全体の4分の1ほど、110万円以上の取引は1%以下だという状況を反映しているためです。ただし、この1%以下の取引が売上額全体の60%を占め、アート市場の価値を引き上げているとのこと。


このような状況の中で、株式や債券のように芸術作品の価格変動を推測することは不可能です。アートには「標準的な」作品がなく、取引は困難で費用がかかり、市場情報は常に貧弱です。

では資産としての芸術作品の優れた点は何かというと、1つは1990年以降に売上高が600%増加したほどの、強力なキャピタルゲインにあります。またこれらのリターンは他のアセットクラスとは無関係であるのも、多様なポートフォリオを作れるという点で投資する際のメリットになります。丈夫で可動性が高い点もメリットであり、こっそりと持ち主が変わっても誰かに知られる可能性が少ない点から、税金逃れをしたい人がアートを利用することもよくあるそうです。

一方、アートのアキレス腱は売買が非常に難しいことにあります。現代において評判の高いアーティストを見つけ、「公正な価格」と、それに対してお金を払う人を知るということの他、作品の出どころ・歴代の持ち主・偽造の可能性を見抜くことは困難です。また芸術作品の取引には「情報の非対称性」という問題が存在します。情報の非対称性は、売り手と買い手が保有する情報に差があり、売り手のみが専門知識と情報を有して買い手がそれを知らないことをいいます。そしてそこに、アート市場の取引はギャラリーやオークションハウスに依存しているため、仲介手数料が高くつくというリスクも加わります。

by Free-Photos

これがどういうことかというと、例えばギャラリーは自分たちが抱えるアーティストの作品を販売していきますが、アーティストたちは自分のネットワークを持っていないため、彼らの作品、つまりプライマリーマーケットは大きなリスクが伴います。このリスクを保証するためにギャラリーはアーティストに50%のマージンを要求します。50%というマージンは他の産業からすればあり得ないほどに高い数字であるため、時にギャラリーは「アーティストを搾取している」として批判されることも。

ただし、ギャラリーは作品を展示して潜在的顧客のネットワークを作るだけでなく、アーティストに対して多くの補助的なサポートを提供します。全てのアーティストが成功するわけではないため、これらのサポートは非常に高コストでありリスクが大きくなることも考えると、上記のような批判は見当違いともいえます。印象派の画家たちを支援した画商のポール・デュラン=リュエルは巨額の富を築いたことで知られていますが、そこに至るまでには20年もの間、画家たちを支援し、需要のないところに需要を作り出したという苦節がありました。50%のマージンはギャラリーの抱えるリスクを保証するのに十分とはいえないという見方もあります。

他方で、ギャラリーとは別に市場を支えているのがオークションハウス。オークションハウスは売れた芸術作品1つあたり大体22%ほどのバイヤープレミアムを受け取ります。オークションに出されるのは既に名の知れたアーティストであるためギャラリーよりもリスクは少なく、ゆえに取り分の割合も少なくなっているわけです。

by QuinceMedia

情報の非対称性ゆえにギャラリーやオークションハウスはアート市場において必要不可欠の存在ですが、手数料は投資収益をごっそりと減らしていきます。The Easelは「厳選された」芸術作品は手数料が高くなるため購入はお勧めしないとしていますが、一般的に仲介業者は買い手に対して包括的なプランを示すそうです。このプランは「リスクの高いアーティストであれば低い価格で見返りが大きく、名の知れたアーティストであれば高額で見返りが小さい」というものになります。

「根拠なき熱狂」について記した金融経済学者のロバート・シラーは「賢明な投資家たちが貧弱な情報を得て、他の投資家たちを巻き込み心理状態がシフトした時、不動産や芸術などの市場の価格は高騰する」と主張しました。シラーの主張を鑑みれば、芸術作品は価値や価格を間違いやすいということになります。508億円で落札されたサルバトール・ムンディも価格の急上昇という点では間違いを含んでおり、逆の側面でいえば女性アーティスト作品の低価格も間違いである可能性があります。これらのことを総合して考えると、芸術作品は投資にとっては非効率的な資産といえるとのことです。

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in アート, Posted by darkhorse_log

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