サイエンス

妊娠や出産によるうつ病を薬なしの低予算で予防する方法

by Ignacio Campo

出産前後の期間を指す「周産期」にうつ病になる人は非常に多く、なんと7人に1人の妊婦が周産期うつ病を経験しています。周産期にうつ病となってしまった女性は、自分自身や自分の体内の赤ん坊のために診療を受ける可能性が低くなり、生まれてきた赤ん坊との絆を育むことにも苦労するケースが多いそうです。そんな周産期のうつ病を予防するための、低予算かつ人体に悪影響を及ぼす可能性のある薬の服用を必要としない予防方法が、生み出されています。

Interventions to Prevent Perinatal Depression: US Preventive Services Task Force Recommendation Statement. | Depressive Disorders | JAMA | JAMA Network
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2724195


How to Prevent Perinatal Depression - Scientific American
https://www.scientificamerican.com/article/how-to-prevent-perinatal-depression/

過去に肺がん検出のためのガイドラインを定めたり、心臓病予防のためにアスピリンを使用する方法を見つけたりと、医療分野において数々の功績を残してきたアメリカ予防医療専門委員会(USPSTF)が、アメリカ医学協会誌(JAMA)で周産期うつ病を予防するための新しい方法に関する研究論文を公表しています。論文によると、カウンセリング(会話療法)が周産期うつ病を治療したり予防したりすることができるという「説得力のある証拠」があるとのこと。周産期うつ病の治療としては、薬物を用いた治療法などがありますが、会話療法は比較的低コストでありながら治療による副作用がないという、妊婦にとって最良のうつ病治療法もしくは予防法になる可能性があります。

USPSTFは過去のうつ病に関する研究の中で、「『良い』もしくは『公正』な品質」であると考えられる50の研究を再検討しました。再検討した研究のほとんどは治療研究のためのスタンダードである無作為化臨床試験で、対照群との比較が行われています。研究の約半分は妊娠中の女性に焦点を合わせたもので、残りの半分は出産後の女性に焦点を合わせたものだったそうです。再検討されたいくつかの研究は、過去にうつ病にかかった経験があるか、家族がうつ病になった経験があるか、社会経済的地位がどの程度か、生活ストレスまたはパートナーによる暴力などのストレス因子があるか、などに基づいてうつ病のリスクが高い女性を対象に調査が行われています。

by Isabela Martins

これらの研究のうち、20の研究で会話療法の効果が測定されています。研究において、会話療法は被験者に対して平均で約8週間続けられており、集団療法と個人療法合わせて約12時間の治療時間が費やされています。そして、調査対象となった20の研究すべてで会話療法により周産期うつ病が軽減しており、全体で約39%もうつ病を減少させられたことが明らかになっています。

USPSTFの推定によると、会話療法のカウンセリングに参加した一般人口の13~14人に1人ほどの割合でうつ病発症を防ぐことができるそうで、これは投資コストに対する堅実な見返りとみなせるとのこと。また、周産期うつ病のリスクがあると既に考えられている女性を対象にした研究においては、さらにうつ病の治療および予防率が改善されたそうです。


なお、USPSTFが調査した研究の中で用いられていた会話療法は、思考と行動の追跡、修正に焦点を合わせる「認知行動療法(CBT)」および、社会的役割と関係をターゲットとする「対人関係療法(IPT)」の2つ。CBTの一例として挙げられたのが、集団療法のひとつである「Mothers&Babies」で、妊娠中に毎週セッションが行われ、産後にもブースターセッションが数回にわたり開かれるというもの。この集団CBTでは、気分・ストレス・健康についての教育が行われるほか、問題のある思考パターンを変えるためのトレーニングも提供されるそうです。

Northwestern Mothers & Babies Home - Northwestern Mothers & Babies


USPSTFは会話療法以外のうつ病の治療法に焦点を当てた研究(30種類)についても調査を行っています。それぞれの研究でさまざまな治療法が試されており、周産期の女性のための特別なスクリーニングや、患者ナビゲーションツールのような保険システムレベルの変更を含むものもあったそうです。ほかにも、運動、幼児の睡眠教育、ヨガ、作文、電話によるサポートなどさまざまなものが試されたそうで、多くのものが周産期うつ病を軽減させるのに役立ったとのこと。しかし、全体的にこれらの代替治療法については、より多くの研究が必要であったそうです。

調査を行った研究の中には、セルトラリンノルトリプチンオメガ-3脂肪酸などを用いた薬理学的治療法もしくは食事療法に関するものも存在したそうです。しかし、これらの研究では治療による副作用や胎児への潜在的なリスクが報告されています。対して、会話療法では副作用などの欠点が存在しません。

by JOSHUA COLEMAN

「会話療法が周産期うつ病を予防することができるということは素晴らしいニュースですが、実際の医療現場は見込まれるような予防医療を提供することができていません」とScientific Americanは記しています。しかし、周産期うつ病についての意識が高まり、周産期うつ病が原因の事件などが増えるにつれ、確実にコミュニティ全体の意識は変化していきます。例えば、カリフォルニア州の新しい法案は、周産期うつ病を早期発見するために、産科医療提供者に対して定期的なメンタルヘルススクリーニングを行うことを義務付けています。

うつ病治療のために新しく開発された静脈注射のコストは1人当たり3万4000ドル(約380万円)程度であるのに対して、会話療法での治療は平均8回のセッションで済み、認可された臨床ソーシャルワーカーなどの準専門家によるものでも十分に効果が期待できます。このコスト面での強みと、副作用の心配がないという点から、周産期うつ病を予防するための会話療法は「ヘルスケアにおける最良の治療法のひとつかもしれない」とScientific Americanは記しています。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
笑顔で幸福そうなのに心には自殺念慮を抱いている「笑顔のうつ病」は自覚症状を抱きにくい - GIGAZINE

幸せだった出来事を思い返すことでうつ病のリスクを減らすことができる - GIGAZINE

機械学習を使った調査で「うつ」病の人がよく使いがちな言葉が判明 - GIGAZINE

うつ病と誤診されやすい血流障害「POTS」とは? - GIGAZINE

うつ病は進行し何年も患うことで脳は変質してしまう - GIGAZINE

WHOによる2030年までの死亡原因予想 - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by logu_ii

You can read the machine translated English article here.