インタビュー

「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」メカニカルデザイン・玉盛順一朗さんインタビュー、煙突と第三艦橋と「波動防壁」の秘密とは?


2017年2月から劇場でのイベント上映が重ねられてきた「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」が、2019年3月1日(金)公開の第七章「新星篇」をもって完結します。前作「宇宙戦艦ヤマト2199」が1974年に放送された「宇宙戦艦ヤマト」のリメイクであったように、続編である本作は1978年8月公開の「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち」と1978年10月から放送されたTVアニメ「宇宙戦艦ヤマト2」をベースとして制作されており、どういった結末を迎えるのかに注目が集まります。

この「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」のフィナーレに向けて、「2199」「2202」で地球側のメカニカルデザインを担当した玉盛順一朗さんに話を伺う機会があったので、ヤマトやアンドロメダ、さらに第六章「回生篇」で登場した姉妹艦・銀河についてなど、いろいろなことを聞いてきました。また、後半には玉盛さんがゲスト登壇した「愛のヤマトークナイト 第二夜」のレポートも掲載しています。

・目次
◆玉盛順一朗さんにインタビュー
◆玉盛さん登壇「愛のヤマトークナイト 第二夜」レポート

◆玉盛順一朗さんにインタビュー:「ヤマト」への参加
Q:
玉盛さんが「宇宙戦艦ヤマト」に携わることになると最初に聞いたとき、抱いた感想はいかがでしたか?

玉盛順一朗さん(以下、玉盛):
「宇宙戦艦ヤマト2199」では、出渕裕総監督からお声かけをいただきました。企画段階で2008年ごろのことだったので、もう10年になりますね。それまでに、出渕さんとは同人誌などでお付き合いがありましたし、同人誌では新しいヤマトのイラストを発表していたので、「待っていました」という気持ちでした。

Q:
ヤマトはデザインがとても“強い”と思うのですが、「2199」「2202」では、どういったところを核にしようと考えましたか?


玉盛:
もともとの「宇宙戦艦ヤマト」が1974年のコンテンツであり、我々も成長しておじさんになっているので、その眼鏡にかなうものを、そして時代にふさわしいものをと考えました。ヤマトのあと、ガンダムやマクロスの時代を経ていますから、その上で、新たに捉え直そうと。また、アニメーションの技術も当時と比べて進化しているので、制作方法の変化も意識して、今までにない表現ができないだろうかというところを目指しました。

Q:
具体的にはどういった部分でしょうか?

玉盛:
当時のスタッフの方々はとても工夫していて、ヤマトの艦体表面の緩やかなカーブを、艦体分割線で丸みを表現し、それをいちいち動かしていたんです。それはすごいチャレンジ精神で、今やるならとても同じことはできないと思います。そこで、CGならではのやり方として、光の反射や影が入るのとを最大限に活かせるようなデザインを目指しました。遠くに見えるときには線が自動的に省略され、近づくと細かいディテールが見えるというのもCGならではのやり方ですね。

Q:
「待ってました」とのことですが、「宇宙戦艦ヤマト」という作品へはどういった印象をお持ちでしたか?

玉盛:
子どものころに「マジンガーZ」や「ウルトラマン」は好きで見ていたのですが、戦艦が主人公というアニメはなかったので、とても新鮮でした。途中のエピソードで、ロケットの形をした戦艦が飛んでいるのを見て「いいな~」と思ったのが、小学校2年生ぐらいです。それから、ガミラスが「バラノドン」という怪獣みたいな兵器を出していたのも印象的です。「宇宙戦艦ヤマト」って、冒険モノであって戦争モノではないんです。なるべく戦闘は避けて、時に生き残るために戦うという、そういう「宇宙を冒険する」ところが幼心に響きました。「2202」は「さらば」「2」のリメイクで、どうしても戦略的なものやバトルが主体になってきますが、それはそれで醍醐味ではあるところですよね。瀕死状態で滅びるしかないんじゃないかという地球が、復活して再興して艦隊を持ち、それで白色彗星帝国と戦うという。

Q:
「2199」と「2202」では作中の技術が変わっていますが、メカニックデザインの腕の見せ所みたいなところもあるのでしょうか?

玉盛:
私が担当しているのは旧作のリメイク・リファインで、新規ではまったく起こしていないですが、それは元のデザインが素晴らしいということなので、なるべくそれを生かそうと考えています。「2202」に出てくる艦船は新しいテクノロジーで作られているものがあるので、それは沖田艦のリメイクであるキリシマユキカゼなどとは違う世代の艦であるということを意識しました。

Q:
玉盛さんは「宇宙戦艦2199設定資料集<EARTH>」収録のインタビューの中で、「今後の展開があることを想定して、そこに通じるような基本となるヤマトを作ろうと考えた」という話をしておられました。実際、このあと「2202」が作られることになったわけですが、「2199」のあと「2202」の話をもらったときの印象というのはどうだったのですか?

玉盛:
「ヤマトだからそうなるんじゃないかな」と思っていました。ヒットすれば次があるだろうというのは想定できる範囲なので(笑)。あとは、ぶれないようにやるということに気をつけました。

G:
「2199」から続けて担当しているスタッフとして、音楽の宮川彬良さんは「『2199』は最初に天国、甘いところを全部食べちゃった、みたいな」と表現していましたが、玉盛さんはこうして2作品続けて担当されてどうでしたか?

玉盛:
「かつての作品をなぞって物語はできるだろうか、成立するだろうか」という思いはありました。しかし、そのために福井晴敏さんを中心として、時代に合わせて作り直すために構想が練られて、「2199」がヒットしたことで裾野が広がった結果として増えた新しいファンの方もいるので、新しい価値観に合うような形で、広がりのあるデザインになるようにという意識をしていました。

Q:
昔のアニメをリバイバルする事例の中でも、「宇宙戦艦ヤマト」はメカがカッコいいアニメだと思います。現代の手法だとCGに描き起こすことになりますが、昔のアニメには手描きだからこその省略やウソがあるのではないかと思うのですが、そのあたりでの苦労はありますか?

玉盛:
むしろ、「細かく作らないように」と心掛けています。細かく、排水溝の1つやねじ1本1本まで描き込んだようなCGモデルだと、人間、お腹いっぱいになってしまいます。適宜省略して見せるということを意識して、必要のないものは入れないようにと。ヤマトで細かいところまで描かれている部分があれば、それは旧作で細かく設定されているから当然のことなだけで、僕がそういうものが好きだから細かく設定したというわけではないということです(笑)

Q:
「2199」から「2202」で、ヤマトの形状に変化が見られます。


玉盛:
ヤマトは旧作の中でも絵が一定せず、実は姿が細かく変わっているんです。「さらば」「2」でも描き方が違うし、その後の「永遠に」「完結編」までいくとかなり整理した描かれ方になります。そして、ファンにとっての理想の形もそれぞれに異なります。アニメだけではなくプラモデルの展開もあったので、プラモデルに親しんだ人だとそちらに近い「これが自分のヤマトだ」というのがあるわけです。そこへ、「どうだ、これがヤマトだ」と1つの形を出すことはできないんです。なので、「2199」のときは、1974年のヤマトにふさわしいのはこれだろうと、艦首が尖ったイメージで、人の手で作ったような曲面をした艦体にしました。「2202」では、「さらば」「2」で行われた改修も踏まえて、第1作の風味を外し、艦首の傾きを垂直にしたり、フェアリーダー周辺の形状を変えたりして、力強さを出しました。

玉盛さんによる、「2199」と「2202」のヤマトの対照・解説図。様々な部分が変更されていることがわかります。


Q:
玉盛さんは地球艦隊のメカニカルデザインを主に担当されたということですが、1作目とは時代背景が違い「時間断層」という新しい設定があります。なにか、意識して見せ方を変えた部分はありますか?

玉盛:
地球艦隊では主力戦艦やアンドロメダ、護衛艦、パトロール艦のデザインをしました。デザインの時点で「時間断層の中にある工場で自動的に作られる」という話はあったのですが、まだ具体的なビジュアルイメージはできていないところでした。完全に機械で作っているような自動工場だと、かなり整理されたものができあがってくるからディテールはあまり入れられないかな?など、いろいろと悩みました。

主力戦艦のデザイン


玉盛:
人員が減らされ省力化された艦船なら、甲板に人が立ったときのヒューマンスケールの手すりなんかほとんどいらないんじゃないだろうか、ラッタルは収納式で通常時はカバーに覆われていて見えないんじゃないか、などです。アンドロメダだと格納されているんじゃないかと解釈して、「人の温もりがない」という感じを意識しました。


Q:
護衛艦やパトロール艦の出番が旧作に比べると遅いですね。

玉盛:
出番については私の範疇ではないですが、デザインの発注は何が出るかということが決まっていて受けるものなので、当初はその役割はキリシマだとか、ユキカゼの属する磯風級が担うということで進んでいました。あとから、デザインの発注を受けた形です。

Q:
第六章で登場した「銀河」のデザインにはびっくりしました。なにを核にデザインされたのですか?

玉盛:
銀河はヤマトの初の姉妹艦なので、賛否両論になるだろうということは予測できました。デザインのもとになったのは、1990年代半ばに制作されたOVAシリーズ「YAMATO2520」の時代に小林誠さんが出したアイデアです。それを先代の製作スタッフが気に入ったというエピソードがあるんです。この銀河に相当する艦がヤマトの姉妹艦としてふさわしいのではないかと個人的に思い、「2202」の世界観に合うように整理しました。銀河は「戦う艦」ではなく、波動エネルギーのように、宇宙には解明されていない何かがあるんじゃないかと調べるための「実験艦」で、純粋な戦艦ではないというコンセプトに共感しました。単なるヤマトの量産型でもなく、世界観を深めることができるんじゃないかと思いました。


Q:
観測ドームがついていたりして、ヤマトのようでヤマトではないという印象でした。

玉盛:
デザインは、アンドロメダに続く新しい方向性と、前や横の広がりでいうとクラシカルな部分を持っていて、テイストとして19世紀や20世紀初頭のイメージを取り入れることにチャレンジして、観測ドームを中心に整理してみました。

「銀河」の上部構造物見取図


観測ドーム周辺のデザインには細かく手が入れられています。


Q:
銀河のクルー全員が女性だという話が第六章で出てきますが、発注段階ではどのあたりまで聞いていたんですか?

玉盛:
シナリオ段階である程度決まっていることについては話を聞いていました。ただ、形はプラモデルになった時の立体としての見栄えなども考慮して整えましたが、全員女性だからということは意識していないです。


Q:
どちらかというと、重視したのは形やディテールの部分だったと。

玉盛:
そうですね。もちろん、艦(フネ)の役割や存在意義については意識してやっています。

G:
「銀河」では喫水線位置が異なるカラーリング案があったとのことで、玉盛さんは商品展開までイメージした上でデザインを行うという話をされていますが、そういう意図での別案だったのですか?

玉盛:
これはちょうどデザイン作業を進めるのとプラモデルの話が同時に進んでいたようで、喫水位置が魚雷発射管の1番目と2番目の間に来るという案を出したら、ちょうど間に合わないタイミングだったんです。他のフネと並べたとき、たとえばどの程度ヤマトと一緒で、どの程度異なるのか、物語上の位置付けを総合して考えたときに、そのままだとまだ違和感があるのではないかと今でも思っています。銀河の艦体側面に窓を増やすというのは「戦闘艦ではない」というアピールですね。そこまで「兵器」という感じではいけないなという考えです。

ラフ図面に描かれた、喫水位置が高いバージョンとノーマルのバージョン。ライン1本の位置で印象に違いを生み出しています。


Q:
銀河の艦体の形状は、「2199」のヤマトですか?

玉盛:
「2202」のヤマトですね。

Q:
銀河と並んで、「2202」ではアンドロメダが新しくなりました。

玉盛:
基本的に「印象を変えずにデザインのリファイン」をしていますが、「まったく同じ」と感じる人もいれば「全然違う」と感じる人もいるのではないかと思います。1つは、3Dで表現できるように整理したということですね。

Q:
モデリングするとき、3Dにするには難しい艦体のように思えます。

玉盛:
普通のアニメだと3Dさんが苦労するんじゃないかと思います。私は、なるべく3Dさんが苦労しないように、整理した状態でお渡ししたいなと考えているので、私自身で簡単な3Dモデルを組んでお渡ししています。

Q:
アンドロメダの波動砲のデザインについて、わずかに下に向けてカーブしているような印象があります。

玉盛:
旧作のデザインでは「横から見たとき垂直である」と解釈されていて、アニメではそのように描かれていて、プラモデルでもそのように作られています。ところが、パースのついた斜めから見た設定画だと、波動砲も斜めになっているように見えるんです。これは、デザインを担当した宮武一貴さんが主観的なイメージを大切にしていて、迫ってくるフネの迫力を重視し、動きのあるものを静止させた絵として捉えているからこそダイナミックなのではないかと思うのですが、当時、今のように映像を見直す手段がなかったですから、プラモデルのパッケージに使われたこの設計画がみなさんの頭に焼き付いているんじゃないかと思いました。ヤマトのイメージが固定できないのと同じように、アンドロメダもどれか1つとは固定しづらいわけです。そこで羽原監督に、アンドロメダはパースの付いたあの絵が印象的という人が多いのではないかと相談したところ、それがいいという話になったので、この方向に決まりました。宮武さんの図面はアニメーターにわかりやすく描かれているのですが、同時に、わかりやすいようにアレンジして形を変えている部分もあるのが特徴です。説明のための図面であって、立体にするための図面ではないんです、その図面をもとに、そのまま立体を作ると危険ですが、上から見た図と下から見た図で波動砲部分の線の太さに違いがあったので、これは宮武さんが傾きに違いがあると意図したのではないかと私は受け取りまして、それで少し下向けにしました。実際に宮武さんとお会いして、疑問に思っていたところを聞き、「なるほど」と思ったところは反映させたりもしています。

玉盛さんの手による「アンドロメダ」の資料。波動砲やバルジの形状について細かく設定が行われています。


G:
こうして手がけられてきた「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」が、いよいよ2019年3月1日(木)から上映の第七章「新星篇」で完結を迎えます。ここまでたどり着いた感触はいかがですか?

玉盛:
あっという間でしたね。「2199」から合わせると10年ほどあって、東日本大震災前からやっていると考えると、ずいぶん長いですね。途中、映画「宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟」で一区切りがあって、他の作品に携わることもありましたが。「2202」だけだと、開発も合わせて3年ぐらいですね。

G:
「2202」ではどれぐらいの数のデザインを手がけられたのですか?

玉盛:
そんなにはやっていないですよ。ヤマト、アンドロメダ、主力戦艦、パトロール艦と護衛艦、コスモタイガーII、それに銀河ですね。あとは少しずつ、破壊されたアンドロメダとか、細かい設定をちょこちょことやりました。

G:
デザイン作業では、手を動かす時間が長いものですか?それとも、頭を使う時間が長いものですか?

玉盛:
うーん、どうだろう……。「さらば」「2」はあらかじめ考えていてベースになったものがあり、基本的にはその範囲内でやれたかなと思います。これがもし「永遠に」とかのラインだったら、頭を使う時間がもっと必要になっていたところです。

G:
玉盛さんは自身のサイトである「YAMATO MECHANICS」で2203年のヤマトとかを描かれていたので、それが生かされたんですね。「2199」では、その世界のテクノロジーを考えるために、沖田艦と呼ばれていたキリシマや、ユキカゼから着手したとのことですが、「2202」のときはどういうアプローチを取り、何から描きはじめましたか?

玉盛:
プラモデルを先行して作るからということで、アンドロメダが先でした。

G:
ヤマトがメインだから最初というわけではないんですね。

玉盛:
ヤマトはもう原型があったので、まだなにもないアンドロメダからでした。それからコスモタイガーII、主力戦艦、と進んでいきました。

G:
玉盛さんは「デザインはCGモデルできちんと再現できるデザインであることが大前提である」ということを以前におっしゃっておられました。メカデザインで、そうなっていないケースもあるのでしょうか?

玉盛:
今の時代、ロボットアニメだと3Dとの連携を前提としたものが多いと思います。しかし、クリエイターのコンセプトが大事で、立体化に縛られない勢いなどを重視した場合、3Dモデラーさんがうまく落とし込めないというケースもあります。そこは、なにがベストなのか、今後も探求・研究が必要な分野だと思います。

G:
「2202」ではサブリメイションさんのモデルが使われていますが、できあがったモデルを見ての印象はどうでしたか?

玉盛:
ぱっと見て、うまいなと思いました。僕が見ていない部分で苦労なさったところも多いんじゃないでしょうか。「2199」のプラモデルがあるので、違いは意識しやすかったのではないかと思いますが、艦首の垂直に立てる部分など、モデラーさんの力量もあってか、うまいなと。

G:
サブリメイションさんに「コスモタイガーII バージョンK」を見せてもらったときは、驚きで笑いが出ました。

玉盛:
あれはアニメーションとしてのチャレンジとして面白いですね。飛んできて、画面前をそのまま通り過ぎるのではなく絶妙のタイミングで形を変えるということに成功している。バージョンKにするカット、そうではないカット、メリハリが必要なところがうまくいっていると思います。「金田パース」と呼ばれるものは今回、デザインでも意識していました。宮武さんの図面には微妙な角度がつけられていて、何もしなくても金田パースのような形に近づけられますが、技術的にデフォルメが可能なのでやっているという、あれは成功していると思います。デザインとしては宮武さんのもの、動きとしては金田さんのもの、それを両立している。

G:
アンドロメダのお話でもありましたが、「線の拾い方」しだいで金田パースっぽくもなるような図面なのですか?

玉盛:
宮武さんの図面は、シンプルな積み木細工のような組み合わせで、機首・翼・胴体・後ろの突起部と、微妙な角度で流体力学を考慮したようなデザインが特徴的です。図面で翼の取り付け角度が微妙に違っていたりして、それがあったからこそ、金田伊功さんもああいった動きを作ることができたんじゃないかなと思います。つまり、デザインの中に本質が込められていたんじゃないだろうかと。

G:
優秀な図面だったからこそ、アニメーターの方々も形を上手く生かせたと。

玉盛:
そうなんです。ヤマトも流体力学を考えられていて、前から後ろへと絞り込みが多用されていて、空気抵抗を減らすように考えられているという発見がありました。コスモタイガーIIも同じくです。技術的、工学的なこだわりが入っているので、それを拾っていくということです。

「コスモタイガーII 三座」(雷撃機)の設定画


G:
小説「群青旅団」掲載の座談会の中で、Production I.Gの郡司プロデューサーが玉盛さんのデザインを「見た目だけでなく、そのメカの機能やデザインの必然性についてよく考えられている」と述べていました。ヤマトでも、なにか必然性を考えられた部分はありますか?

玉盛:
「群青旅団」はオリジナルですから自由にできますが、ヤマトはもとのデザインがありますから制約が多く、独自に付け足すということはあまりしていません。ただ、解釈としてはいろいろ考えています。たとえば、「なぜ煙突があるのだろう?」とか。

G:
そんなところから(笑)

玉盛:
ヤマトは目に見えない電磁場のようなもので、ビーム兵器や実体弾から防御する「波動防壁」を展開しますよね。地球の磁場が北極と南極を結ぶように形成されているように、ヤマトではその波動防壁の電磁場が、煙突と第三艦橋を結ぶように出ているのではないだろうか?と。

G:
なんと!!

玉盛:
磁力線の弱いところは、上から攻撃されると弱いんです。一方で、煙突や第三艦橋のあるあたりはとても強い。艦長室も露出しているように見えるけれど、結構強く守られていることになります。

G:
なるほど……確かに、宇宙戦艦ヤマトは実際の戦艦大和と違って燃料が石油じゃないので、煙突はなくても問題はない。

玉盛:
ミサイルは入っていますけれど(笑)。あと、波動砲を撃つときのエネルギー伝導管が艦内に走っていますが、何かあったときにプシューッとガス抜きのようなことをするための弁が、煙突の根元のギザギザのところにあるのであろうと。そして、アンテナが艦隊の側面などにはなくて煙突周辺に集まっていますよね。これは、先ほどのような理由で、波動防壁が強いからだろう……と、そういうようなことを考えています。

G:
公式設定ではなくても、第三艦橋がちょうど船体を挟んで煙突の裏側にある意味というのが、今の話だとすごく納得できます。


玉盛:
そう、第三艦橋って一番強いんですよ。……たぶん(笑)。「もとが戦艦大和だから上下がある」ではなく、裏付けがあるからこそこの形なのだろうと考えるんですね。この形は武器の本質でもある「盾」と「矛」でもあるんです。下が盾で、上が矛。上はマテリアル的に防御が弱いので波動防壁で守っていて、下はマテリアルが恐ろしく強いので、冥王星では上下反転したと。

G:
以前、メカデザイナーの高倉武史さんにインタビューした際、自分がデザインしたものについて「爆破してもらえるならメカデザイナー冥利に尽きる」とおっしゃっていました。ヤマトには地球の命運がかかっているので沈まれたら困りますが、玉盛さんはデザインしたものは作中でばんばん壊して欲しい方ですか?

玉盛:
高倉さん、趣味なのかな(笑) 「思う存分使ってもらえれば」という意味なのだったら、まったく同感です。使われずに放置されるのが一番悲しいので、使って活用されて……爆破されて(笑)、断面とか見えたら最高じゃないですか。「ここ破壊するから配管描いて」とか「リブ(補強)構造描いて」とか言われたら「はい、描きますよ」ってなります。

G:
ということは、第六章のアンドロメダなんて最高だったのではないですか。


玉盛:
みなさん、喜んでCG作っていましたからね(笑) 「ここまでは作れんだろう」と思って細かく描いたつもりだけれど、それ以上に細かくやってくださって……普通、そこまで細かくやらないですよ(笑)

G:
本当、第六章ではアンドロメダが格好良かった……。そして、ロケットアンカーも活躍しました。ちょうど、サブリメイションさんでいろいろな資料を見せていただいた中にロケットアンカーがあって「いろいろと設定されているんだなぁ」と思っていたら、あの第六章での大活躍。

玉盛:
どうやって引っ張るかまでは指示がなかったので、「なるほど、ああいう風に使うんだ」と映像を見て納得しました。

G:
本日はいろいろなお話をありがとうございました。

◆玉盛さん登壇「愛のヤマトークナイト 第二夜」レポート
玉盛さんは2018年11月22日(木)に行われた第六章「回生篇」上映時の「愛のヤマトークナイト 第二夜」にゲストとして参加、具体的にどのようなデザインを行ったかが、設計図を交えた話をされたので、そのレポートもここに掲載します。


イベントに登壇したのは玉盛さんと監督の羽原信義さん、シリーズ構成の福井晴敏さん。司会進行はアニメライターの小林治さんが担当しました。

玉盛さんは沖縄生まれ・沖縄育ち。「宇宙戦艦ヤマト」は1年遅れでの放送だったので、出会ったのは小学校2年生の時。初見は浮遊大陸の回で、ロケットのような戦艦が飛んでいくシーンと、まるで怪獣のようなガミラスの「バラノドン」の登場に衝撃を受けたそうです。


そこから時が流れ、「宇宙戦艦ヤマト2199」ではメカニカルデザインとして参加。「2202」では、かつてアニメ雑誌で「さらば」の特集を読んだときにそのデザインに衝撃を受けたアンドロメダを自らリファインすることになりました。

会場では「2199」と「2202」での新旧対照図を見ながら、玉盛さんが「2202」でどのようにヤマトの姿を変化させたかについて、具体的な説明が行われました。小林治さんは、玉盛さんがヤマトの艦体断面に「洋ナシ型に」とわざわざ注釈を入れた点に注目。これについて玉盛さんは、昔のヤマトはすべて手描きだったことから、シーンによって迫力を重視して誇張して描かれた部分などがあり、見ていた人の中で「これこそヤマトの姿」と感じる形が複数あるので、その中でも今回は洋ナシ型の艦体に近づけたと回答しました。

このほか、「2199」と「2202」で変わった点の1つに、艦首のフェアリーダーの形状がありますが、これは羽原監督から「『さらば』当時の形状にしてください」というオーダーがあったことも明かされました。

また、第五話「激突!ヤマト対アンドロメダ」に登場した、小惑星を利用した防御システム「アステロイドリングシステム」についても、細かな設定が披露されました。設定は玉盛さんがデザインをするにあたって「こういうシステムだからこうなっているのだろう」と理解するために考えたもので、あくまで公式な科学考証のものではなく、玉盛さん自身「ウソですけれどね」と冗談めかしていましたが、小林治さんらを納得させるものとなっていました。

ちょうどこの第五話「激突!ヤマト対アンドロメダ」の予告編にも出てくるのが、アンドロメダの「リトラクタブルなビーム砲」。これは、アンドロメダに波動砲以外の武装がほとんど見当たらなかったためつけることになったものだそうで、「正面から見たときに威嚇したい」ということで、このようなデザインになったそうです。


『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』第五話「激突!ヤマト対アンドロメダ」予告 - YouTube


玉盛さんは、ヤマトやアンドロメダのほか、地球艦隊ではドレッドノート級やパトロール艦、護衛艦などのデザインも担当。このドレッドノート級はかつて具体的な名前はなく「主力戦艦」と呼ばれていたもの。


デザインのポイントは艦首にある波動砲で、中央に仕切り板のようなものがついています。ファンの間で、「波動砲のエネルギーで仕切り板は溶けてしまうのではないか?」と議論の種だったものですが、玉盛さんは、拡散波動砲を撃つときには左右それぞれ波動エネルギーが放出されて、この仕切り板を超えたところでエネルギーが合流して波動砲になるので溶けないという仕組みにすることで、問題をクリアしました。


「波動砲」問題といえば、「さらば」当時から、パトロール艦や護衛艦が搭載している武装は小型ビーム砲なのか、小型波動砲なのかという議論があったそうです。この点について、玉盛さんは「ビーム砲に波動粒子をまとわせているのかな?」と考えたとのことで「波動噴霧砲」という名称を挙げていました。

2019年2月20日発売の「 OUT 宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち 特集号」の1コーナー「魔改造カンゲイ!『キミの作った最強宇宙戦艦!!』」では、投稿されてきたプラモ写真に対して、玉盛さんが自分なりの解釈を交えてコメントをつけてくれたとのことなので、ぜひチェックしてみてください。

伝説のアニメ誌『月刊OUT』が『宇宙戦艦ヤマト2202』とともに1号限りの復刊!その名は『ヤマトOUT』!!【2019年2月20日発売予定】 | WebNewtype | WebNewtype
https://webnewtype.com/special/yamatoout/

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