メモ

1万6000もの亀裂が見つかった老朽化の進む原子力発電所が今なお稼働を続けている


ティアンジュ原子力発電所(原発)は、ベルギー中部で40年以上稼働している古い原発です。建物の老朽化によって2度も稼働が停止されているにも関わらず、ベルギー政府はなおも稼働継続を決定。一方で、地元住民から大きな反対を受けています。ベルギーのメディアZeit Onineが、ティアンジュ原発を巡る論争についてまとめています。

Tihange Nuclear Power Plant: Fear of a Meltdown | ZEIT ONLINE
https://www.zeit.de/wirtschaft/2018-06/tihange-nuclear-power-plant-residents-opposition-english/komplettansicht


2012年、ティアンジュ原発とドール原発の原子炉を対象に超音波探傷試験を行ったところ、ティアンジュ原発の2号炉とドール原発3号炉の圧力容器に亀裂が発見され、運転が停止されました。

原子炉の圧力容器は原子炉の炉心を収める容器であり、高温高圧を耐えながら放射性物質や放射線が炉外に漏れないように密閉して遮断します。圧力容器の亀裂が放置されてしまうと、破裂して周囲に放射性物質をまき散らしてしまうという最悪の原子力事故を起こしかねません。ウィーン大学の研究では、もしティアンジュ原発の原子炉が破裂した場合、漏れ出した放射性物質は西風に吹かれ、隣接するドイツに甚大な放射線被害をもたらすと予想されていました。

ベルギーとドイツの国境近くに位置し、ティアンジュ原発から東に60kmほどいったところにある都市アーヘンはティアンジュ原発による原子力事故の脅威にさらされています。そのため、アーヘンは1980年代頃からドイツ内でも特に反原子力の運動が根強く行われている街として知られ、町中のいたるところにはティアンジュ原発への抗議を訴える黄色いポスターやステッカーが貼られているそうです。


運転が停止された2つの原子炉は2013年には運転を再開しましたが、2014年3月には施設の耐久性テストで1万6000カ所も亀裂が見つかったため、再び運転を停止。アーヘンの市民は、この2つの原子炉を二度と運転再開しないよう訴えていました。しかし、ベルギーの連邦原子力管理庁(FANC)は2015年11月にティアンジュ原発2号炉の運転を再開する許可を下しました。

フランスの原発運営企業ElectrabelとFANCは「検査の結果、原子炉で見つかった亀裂は鍛造する過程で発生した水素の泡によるもので、発電所の操業によって生まれたものではない」「2014年の検査で発見された亀裂の数が増えたのは、検査に用いた試験装置の感度が向上した結果である」と発表しています。また、Electrabelの広報担当者は「原子力プラントは50以上の独立した監査が毎年行われています」と述べ、「プラントの安全性と2000人の従業員の安全性が最優先事項です」とコメントしています。

by maol

ベルギーは原子力発電の段階的廃止に取り組むことを2003年に同意していました。しかし、原子力発電が生み出していた分に相当する代替エネルギーが見つからず、結果としてティアンジュ原発とドール発電所は2018年現在もなお、ベルギーの電力需要のおよそ50%をまかなっているという状況です。原子力発電に反対するアーヘン市議会議員のHelmut Etschenberg氏は、ティアンジュ原発の2号炉だけで1日あたり100万ユーロ(約1億2600万円)近くの利益を生み出していると見積もり、ベルギー政府は利益を追従して原子炉の稼働を継続させていると主張しています。

さらにEtschenberg氏は、ティアンジュ原発2号炉を稼働するという政府の決定には、原子力推進派による強力なロビー活動が背景にあると考えていて、特にElectrabelの元社員で2018年4月末までFANCの長官を務めていたJan Bens氏の影響が大きいとしています。Bens氏は「亀裂は無害なもので、原子炉は安全なものだ」と一貫して主張していた人物ですが、Etschenberg氏は新聞のインタビューに対してBens氏が賄賂を受け取っていると主張し、FANCとElectrabelの癒着を指摘しています。

2016年、Etschenberg氏はFANCに対し、原子炉の再起動を許可するベルギー王の署名が入った正式文書の写しを送付するよう依頼しました。Etschenberg氏は「私たちは正式文書が存在しないと疑っています」とコメントしています。さらに同年には、Etschenberg氏率いるアーヘン市議会がベルギーで2件の訴訟を提起しました。原告にはゲルゼンキルヒェンルクセンブルクなど130の都市や小国が名を連ねていていました。

by DIE LINKE Nordrhein-Westfalen

また、国際原子力リスク評価グループ(INRAG)の代表者は、原子炉圧力容器の亀裂を分析し、メルトダウンの危険性や気象データを使用した放射性降下物の影響を説明した上で、ティアンジュ原発2号炉の閉鎖を要求しています。物理学者のWolfgang Renneberg氏は、ティアンジュ原発2号炉の問題は、自分が遭遇した事例の中でも最悪のケースです。この原子炉はすぐにでも稼働を停止にすべきです」と述べています。

こうした反対運動によって、アーヘンだけにとどまらずベルギーやドイツの国内全体で反原子力の機運が高まっているとのこと。そして、ベルギーのティアンジュ原発は2025年には完全に運転を終了することが決定し、ドイツでは2022年までに段階的に原子力発電を全廃止しようという動きが生まれています。Etschenberg氏は「原子力に対する『圧力』が高まっています。これは大成功です」とコメントしています。

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in メモ, Posted by log1i_yk

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